これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。

たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。

そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。

「奨学金がなければ、僕たち家族は生きていくことができませんでした」

北条彰さん(仮名・29歳)は関東出身の男性。同じ家で暮らす祖父、祖母、両親いずれも持病があり、彼が生まれたときから家族は入退院を繰り返していたという。祖父は解離性障害、祖母は脳出血が原因で要介護、父はうつ病で、母親は統合失調症。今でこそ、「ヤングケアラー」という言葉が注目されているが、かつての北条さんはまさにそのような環境下にいた。

そんな彼は高校から大学院にかけて奨学金を借りることになるのだが、それまでの半生をまず語ってもらおう。

「うちの家族は少し特殊かもしれない」

幼稚園までは家族の病状も落ち着いていたため、楽しく過ごすことができたと振り返る北条さんだが、小学校に上がると家族の入退院が増え始める。「うちの家族は少し特殊かもしれない」と、肌感覚で認識するようになり、学校も休みがちとなった。

「別に学校が嫌だったわけではなく、むしろ十分楽しく過ごしていたのですが、家族の症状がそれぞれ悪化していって。うつ病の父は自分の理性をコントロールできなくなり、統合失調症の母は何を言っているのかわからない。さらに、祖父は家族を家族として認識できなくなり、祖母は認知症……。

そんな環境にいると、勉強は手につかなくなり、よくわからない理由で怒鳴られたりすることもあるので、家族とは関わりを持たず、ずっとネットゲームの世界に没入していきました」