がんの人のほとんどが、親子、夫婦、身近な人との人間関係の悩みで苦しみます。この意外な事実の裏に、人間関係を好転させるカギが隠されています。病理医として約1万人の患者のがんを見てきた経験を生かし、「がん哲学外来」を無償で開いて、5000人以上の患者やその家族と対話を続けてきた樋野興夫医師。患者と家族の苦悩を知り、独自の哲学を切り拓いてきた樋野医師が、がんの人が苦しむ人間関係の悩みを解説し、がんがもたらすピンチをチャンスに転換して人生を好転させるヒントと、そのための言葉を紹介します。
ほとんどの人は親を3分間ホメられない
「あなたの親のことを3分間ホメてください」
私は面接などの機会で、若い人に、そんなリクエストをすることがあります。すると、たいていの人は初めの2分から2分半は親をホメるんですが、最後のほうで、「ただし、こんな欠点があって……」と付け加えてしまうんです。どうしてもホメるだけで終わることができないんですね。
確かに、人間には誰しも欠点がありますし、いくら親のこととはいえホメっぱなしではいけないような気がしてきます。「客観的じゃない」とか「身びいきだ」とか言われて、自分への評価が下がると心配してしまうんですね。
けれど、いくら事実であっても、他人の前で、「欠点がある」と言われれば、その人は傷つきます。たとえ親であってもそうです。事実を指摘することは客観的で公平な態度であったとしても、人を傷つける行為であることに変わりはありません。
逆に、最後まで親の欠点を言わない人はかなり珍しい。その人は、人を思いやる気持ちの強い人だとわかります。身びいきだ、人物評価が公平じゃないと批判されるリスクを冒してでも親を傷つけないことのほうを選んだんですから。
では、実際にそんな質問をされたら、客観的であることと、人を傷つけないこと、どちらを選ぶべきなんでしょうか。