認知症の症状は、お天気と同じで晴れたり曇ったり。でも、ちょっとした接し方のコツで、どんよりとした曇り空を晴れに変えることもできます。そのために必要なのは、認知症の人の心の動きを知ることだと、理学療法士の川畑智さんは言います。川畑さんの著作『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』より、認知症の人の心の中ののぞき方と、「晴れ」に通じる接し方のコツを、一部抜粋してお届けいたします。

目の前で泣き崩れた50代の息子

「そうか、オレのために買うてきたとですね……」

50代の山本さんは、そう言って私の前で泣き崩れました。

山本さんのお母さんは、そのとき80代。

同じものを何度も買ってしまうなど、物忘れの症状が目立ってきたため、息子の山本さんと一緒に私の教室を訪ねてくれました。

そこで、簡易的に認知機能を測れる「ブレイン・チェック」を試してみたところ、認知症の疑いがあるという結果になったのです。

認知症になると、記憶をつかさどる脳の海馬の衰えから記憶障害が起きます。

なにを買ったかわからなくなったり、あいまいになったりして、同じ食材や食品で冷蔵庫がいっぱいになることがよくあります。

「同じものを買う」といっても、買うものは人それぞれ。

卵や牛乳、ヨーグルトなど食品ばかりを買ってくる方もいますし、トイレットペーパーや石鹸などの日用品ばかりを買ってくる方もいます。

山本さんのお母さんが決まって買ってくるものは、魚の練りものでした。