その幼虫はだんだん大きくなるんですけど、ある程度丸々と太ったら、サナギになりますね。でも、サナギのなかで何が起きているのかというのを少年時代のハカセは知りたかった。

それで残酷なんだけど、開けて調べてみたら、真っ黒などろどろの液体となって溶けている状態でした。もう、幼虫がいったん完全に破壊されちゃってるの。

小泉 へえ、それは考えたこともなかったです。

先回りして壊してから新しいものをつくる

福岡 いま考えると申し訳ないけれど、サナギを開けちゃうと、死んじゃうんです。もちろん開けないことがほとんどですよ。

開けずに待っていると、その真っ黒などろどろの状態のなかからあんなきれいなチョウが生まれるんです。それで、創造に先立つ破壊があるということが自然なんだなっていうことを何となく感じたわけ。

そうした経験から、生物学を勉強したいなと思ったんですけれども、大学に入ってみると「チョウとかきれいな昆虫とかを追いかけている場合じゃありません」という状況でした。

かわりに、分子生物学の潮流が満ちてきた時代だったのでそっちのほうに入っていっちゃったんです。

これは細胞のなかの遺伝子とかタンパク質というミクロなレベルでデジタル的に生命を解析する学問なんですね。

遺伝子のことについては、その後、20年ぐらいでヒトゲノム計画というのが完成されて、遺伝子を端から端まで全部解析して、そこには細胞のなかで使われているタンパク質、2万種類ぐらいの設計図が全部描きこまれているということがわかったんです。

でも、生命のことについて何がわかったかというと「何もわからないっていうこと」がわかったんです。

そこでやっぱり、生命というのを考えるときに大事なことは何かなといったら、破壊することというか、先回りして壊して、その後で新しいものをつくるところにあるんじゃないかなって。

だから、単に入れ替わるという話じゃないんですね。

小泉 新陳代謝という意味での入れ替わりということではないんですね。

福岡 ええ。もっと積極的なものだということですね。

著者:福岡 伸一,小泉 今日子