司法書士夫婦、2人それぞれの視点が参考になる(画像:尾形文繁)

――相続で家族がもめないコツがあれば教えてください。

まず、家族に隠し事をしないことです。隠し事が後から露見すると、みんなが疑心暗鬼に陥ってしまいます。まとまるものもまとまらなくなるのです。

そして、いずれ残される家族の感情も重視することです。遺言には財産の行き先を記す本文に付言事項を添えることができます。この付言事項で家族それぞれへのメッセージを伝えることは心理的に大きな効果があるので、笑顔の写真を入れたりするのもおすすめです。

ある寡黙な男性が亡くなった後、封をした遺言が出てきたことがありました。裁判所での検認手続きを経て封を開けて内容を読んだところ、妻と子どもたちへの溢れるような感謝の気持ちが付言事項で書かれていたのです。「普段はほとんどしゃべらなかったお父さんが……」とみんなで号泣。もちろん、遺言の本文に異議は出ませんでした。

――自分の相続内容にちょっと不満があったとしても、感涙した勢いで納得しちゃいそうですね(笑)。

かつては「お金があれば一人で生きていけるし、老後も安心」といった考え方が多かったと思います。でも、老後にお金だけたくさんあっても幸せとは限らない、と人々が感じ始めたのが現在ではないでしょうか。

結局のところ、信頼できる人がそばにいることが何より大切だと思います。その人が家族でも第三者でも構いません。人の気持ちや思いを一番大事にするべきということに多くの人が気づき直している時代なのだと思います。

「準備」と「コミュニケーション」に尽きる

家族を人体に例えるならば、相続でもめてメンバーが不仲になるのは大病を患うのと同じだ。訴訟などの外科手術でなんとか乗り切ったとしても後遺症は免れない。費用も時間もかかるし、家族との関係性も元には戻らないだろう。

そんな不毛な事態を回避するためにはどうするべきか。柏原さんの話から、「準備」と「コミュニケーション」に尽きると筆者は感じた。自分の法定相続人は誰なのかを確認し、自分に何かあっても大切な人が困らないようにしておくこと。そのために専門家を活用するならばお金も時間も有効に使えると思う。

そして、配偶者にも子どもたちにも愛情と感謝を言葉にしてそれぞれに伝えること。口にするのは照れくさかったら手紙にするのもいいだろう。遺言の付言事項も興味深いけれど、ちょっと遅い気もする。できれば生前に伝えられたらもっといい。

家族に愛されたという実感は前向きな力になり、他の人に寛容にもなれる。「前の家族」と「今後の家族」の不和や衝突を防ぐことにもつながるはずだ。

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著者:大宮 冬洋