これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。

たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。

そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。

「中学生のときに両親がそれぞれ自己破産してしまいました。必然的に私の大学進学のためにお金を回すことは不可能になったため、奨学金を借りることになります」

両親がそれぞれ自己破産、その理由は…

そう語るのは、栗原つむぎさん(仮名・42歳)。関西出身で下には妹がいる4人家族だ。両親それぞれが自己破産というのも、滅多にないことだが、その背景にはいったい何があったのだろうか?

「父は町工場で工場長、母は経理の仕事をしていましたが、もともと裕福ではなかったです。幼い私が見てわかるほど、家にお金がないということは感じられました。

そのような環境に嫌気がしたのか、ある時、母が会社のお金を着服してしまったんです。

案の定、それがバレて裁判にまで発展したのですが、最終的に父が横領した額と和解金を肩代わりすることで落ち着きました」