代理出産のために、基と悠子は偽装離婚し、リキが基と結婚、出産後に離婚し、再び悠子と結婚するという流れになっている。“偽装結婚”のドラマはあったが、『燕は戻ってこない』では“偽装離婚”。再び夫婦に戻って戸籍的には家族となったとしても、悠子は自身のDNAが受け継がれていない子どもを慈しむことはできるだろうか。

リキにとって、自分の子宮から生まれた子に対する未練はないのかも気になるところだが、彼女は過去に中絶を経験し、誰かと愛情のうえで交際し性行為をした経験もないため、母性など自分にはないと割り切っていた。

ところが、実際に妊娠して数週間後、外出先で通行人にぶつかられたとき、とっさにお腹をかばおうとする。

いつしかリキに母親の本能が芽生えて……? でもその子の父は誰かわからない。リキは基の精子を人工授精する直前に、2人の男性と性行為を行っていた。

人間みんなどこか愚かしいもの

大金をもらっておきながら、なぜそんな無責任なことをしでかしたかというと、基が生まれてくる子どもを大事にしようとするあまりリキを束縛し、故郷・北海道への帰郷にすらも長文メールで抗議してきたことにキレたのだ。

北海道時代、不倫関係にあった日高(戸次重幸)と、やけ酒ならぬ、やけセックスを行った。さらに、女性用風俗で知り合って仲良くなったダイキ(森崎ウィン)とも。

もしも日高とダイキどちらかの子で、基の子でないことが明らかになれば、契約違反で違約金が発生する。そう思うとリキは俄然、焦りだし中絶しようと考えるが、打ち明けた悠子に止められる。

もともと300万円だった報酬を1000万円に釣り上げたのもリキである。ちょっと無責任だよなぁとドラマを視ながら筆者は思った。

リキの行動はどこか破滅的で浅薄だ。命とお金と愛とは尊いものだという認識が、リキの周りではことごとく崩壊していく。この3つがどれも吹けば飛ぶようにじつに軽い。いや、それは扱う人間たちの問題である。リキを筆頭に誰も彼もがどこか欠損している。

基は、才能のあるダンサーだったが、鈍感で無神経。自分の欲望のためには他者の尊厳など気にしない。むしろそうだからこそ超越した才能が発揮できたのではないかと悠子は指摘する。

その悠子は、リキのことと生まれてくる子どものことを心配し身を引こうかと思い詰める思慮深い人のようだが、もともとは、基を先妻から略奪しているのだ。

基が好きすぎて彼のDNAを受け継いだ子どもがほしいと願ったものの、子どもができなかった。にもかかわらず、仕事では、家庭の「幸せの形」「当たり前の幸せ」のイラストを描いていて、迷走している。