アメリカによる「航行の自由作戦」は、南シナ海などの様子を見ると「強引な権利主張に対する正当なる鉄槌」といったイメージかもしれませんが、実はその鉄槌、日本相手にも振りかざされていました。そもそもどういう作戦なのでしょうか。

何かの間違いではない 対馬海峡で対日「航行の自由作戦」実施

 アメリカ海軍第7艦隊によると、2020年12月15日、アメリカ海軍の補給艦「アラン・シェパード」が「日本の主張に対抗するため」、対馬海峡で「航行の自由作戦(FONOP)」を実施しました。この件は2021年4月5日(月)に共同通信をはじめ、日本の報道各社が報じたことで話題になりました。

「航行の自由作戦」といえば、アメリカ海軍が南シナ海で中国に対抗するために実施しているイメージがありますが、同盟国である日本に対してなぜこれを実施したのでしょうか。それについて理解するためには、まず「航行の自由作戦とは何か?」という点を理解する必要があります。

「航行の自由作戦」は、海洋に関して国際法に違反するような主張を行っている国に対し、アメリカ国防総省と国務省が共同で実施するプログラムの一環として行われているもので、国務省が外交的な抗議を行い、国防総省が海軍艦艇や航空機を派遣して実際に当該海域で活動を実施するという役割分担が行われています。この国防総省の活動が「航行の自由作戦」です。

 その目的は「アメリカはそのような(国際法に違反するような)主張を黙認しないということを明示的に示すこと」ですが、これは後述する理由から、アメリカの軍事戦略にとって非常に重要な意義を有しています。

なぜ同盟国であるはずの日本も対象に?

 じつはこれまで、国防総省が作成した「航行の自由作戦」に関するリストに日本は2度も名を連ねています。しかし、たとえば韓国やフィリピンといったそのほかの同盟国に対しても、同様にアメリカは航行の自由作戦を実施しています。なぜアメリカは同盟国に対しても「航行の自由作戦」を実施しているのでしょうか。

 その理由は、アメリカ軍の軍事戦略と密接に関係しています。アメリカ軍は艦艇や航空機を自国から遠い場所にある拠点に前方展開し、世界のどこかで紛争が起きた際にはそれに速やかに対応する態勢を整えています。しかし、たとえばどこかの国が自国の領海や排他的経済水域を他国の軍艦が通過することに関して、過度な制約を設けていたとしましょう。それに対してアメリカが何らの反対も示さなかったとすると、アメリカはこの主張を黙認したとみなされる余地が生じてしまいます。

 そうなれば、当該海域をアメリカ海軍の艦艇が通航することに関して制約が生じてしまい、自国と前方拠点とのネットワークや、さらにそこから世界中の海域への展開に支障をきたす恐れがあります。これは、紛争が発生した際に、アメリカ海軍は当該海域に向かうための最も効率的な航路を通過することができなくなるかもしれないということであり、その結果として遠回りを余儀なくされれば、時間も燃料も余計にかかってしまうことになります。

 そのため、アメリカ海軍はたとえ同盟国であろうと、国際法とは合致しないとアメリカが考える主張に対しては明示的に反対し、平時から有事にかけて、世界中の海域で国際法に則り自由に行動できるよう、航行の自由作戦を実施しているのです。

日本の主張の何が問題?

 ところで、アメリカは日本のどのような主張に対して航行の自由作戦を実施したのでしょうか。今回の航行の自由作戦に関するアメリカ第7艦隊の報道発表には、その具体的な理由は示されていませんが、これまでアメリカは一貫して日本の「基線」の引き方を問題視してきたため、今回もそれが原因となっていると思われます。

「基線」とは、簡単にいうと領海などを設定する際の基準線のことで、これには海岸の低潮線(干潮時の海岸線)を採用する「通常基線」と、海岸の至近距離にある島々を結ぶ、あるいは屈曲した海岸線の両端などを結ぶ「直線基線」というふたつの種類があります。アメリカが問題にしているのはこのうちの直線基線の引き方で、日本は過剰な直線基線を採用していると主張しているのです。今回の場合は、九州北部、あるいは対馬における直線基線が問題視されたと考えられます。

 基線の外側には領海、接続水域、排他的経済水域という形で沿岸国のさまざまな権利が認められる海域が設定可能です。この内、とくに「領海」では、他国船舶に対して一定の要件の下で領海内の通航が許される「無害通航権」が認められる一方で、その上空は「領空」となるため、他国の航空機による領域国の許可を得ずしての上空通過は認められません。さらに基線の内側は「内水」となり、ここでは無害通航権すら認められません。

 このように、基線の引き方によっては、各国が自由に使える公海の幅が大きく狭まってしまうため、アメリカはこうした主張には非常に敏感なのです。