陸上自衛隊の駐屯地へクマが侵入し、猟友会により駆除されました。自衛隊の装備品があれば、猟友会に頼らずともクマの駆除は可能かもしれませんが、そうしなかった理由と、そうするために満たさなくてはならない条件などを解説します。

クマが陸上自衛隊の駐屯地に侵入

 2021年6月18日(金)の早朝、北海道札幌市東区の住宅街に体長1.5mほどとみられるクマが出没しました。移動しつつ近隣住民にケガを負わせるなどした後、陸上自衛隊 丘珠駐屯地の正門から内部に侵入、そこでクマの侵入を防ぐべく門を閉じようとした40代の男性隊員が襲われ、軽傷を負いました。そして午前11時過ぎに、駐屯地の飛行場である丘珠空港の敷地内にいたクマに対して猟友会のハンターが猟銃を発砲し、これを駆除しました。

 このように、今回の事件では、駐屯地に侵入したクマに対して自衛隊は1発も銃弾を撃つことはなく、駆除は猟友会のハンターが行いましたが、なぜ自衛隊はクマを撃つことができなかったのでしょうか。

施設内に侵入してきたクマに対して自衛隊は何ができる?

 そもそも、自衛隊にはクマをはじめとする野生動物に対処する経験もノウハウもなく、クマが現れた際にこれを駆除(有害鳥獣駆除)するのはその道のプロであり、狩猟免許を有するハンターの仕事になります。そのため、人が住んでいる地域にクマが現れたという場合には、これに対処するのはハンターで、警察などは住民の安全を確保するために注意喚起などを実施するという体制がとられています。

 とはいえ、今回はクマに襲われた隊員が幸い軽傷で済んだものの、今後、同様の事件が発生した際に隊員の命が脅かされるような状況であっても、自衛隊は武器を使ってクマに対処することはできないのでしょうか。

クマへの武器使用 あるとしたら根拠は「刑法」か

 まず、自衛官には平時から武器を使用することが認められているケースがあります。たとえば、自衛隊施設の警護です。

 これは、2001(平成13)年に発生したアメリカの9.11同時多発テロを受けて、自衛隊法第95条の2(現在では第95条の3)として新設された「自衛隊の施設の警護のための武器の使用」という規定に基づくもので、これに従事する警衛隊が詰める警衛所には弾薬も備え置かれています(陸上自衛隊服務規則第56条など)。

 しかしこの規定は、たとえばテロリストや工作員が駐屯地などの自衛隊施設を襲撃してきたケースを想定したもので、野生動物であるクマに対して、この規定を根拠に小銃などを発砲することはできません。

 では、やはり自衛官がクマに対して銃を使って対応することはできないのでしょうか。じつは、それが認められ得るケースが存在しないわけではありません。

 たとえば、先ほど説明した施設警護に従事する自衛官に対してクマが襲いかかってきた、あるいは仲間の自衛隊員がクマに襲われそうになっているという場合には、緊急避難(刑法第37条)という形で武器を使い対応することも不可能ではないと考えられます。

 ただし、「緊急避難」は自分や他人に対する危険が非常に切迫している場合に認められるなど、さまざまな要件を満たす必要があるため、たとえばクマが周囲に誰もいない場所で寝そべっているような場合には、緊急避難は認められないと解されるでしょう。

自衛隊施設の外側では何ができる?

 では、自衛隊施設の外側にクマが出没した場合には、自衛隊には何ができるのでしょうか。

 先ほど説明した通り、基本的にクマなどの野生動物に対処するのはハンターの役割であり、これに自衛隊が関わるということは考えられません。ただし、これは非常に極端な例ではありますが、ハンターでは対処できないほどのクマの大群が出現したというような場合には、災害派遣という形で自衛隊に派遣要請がなされるかもしれません。

 クマの大群に対処するとなると当然、武器を用いることも想定されますが、災害派遣で武器を携行することは、基本的には認められていません。ただし、たとえば岩石により塞がれた道路を切り開くために爆薬が必要であるなど、救援活動のため必要な場合には最小限度の武器や弾薬を持っていくことが可能です(自衛隊の災害派遣に関する訓令第18条)。クマの大群に対処する場合でも、この規定に基づいて武器を携行することは可能と考えられ、この場合にはあくまでもクマを駆除するための「道具」として武器を用いることになります。

 ちなみに、自民党の石破 茂衆議院議員は、自身が防衛大臣を務めていた2007(平成19)年に、あくまでも仮定の話として、「ゴジラ」など大怪獣が襲来した際には自衛隊は災害派遣で対処することになるだろうとの見解を大臣会見の場で示したことがありましたが、それまでの映画の中で「ゴジラ」などに対して自衛隊が戦車や戦闘機で攻撃しているのも、石破議員の整理に基づけば、上記のような根拠によるものということができます。

 今回のように、駐屯地内にクマが正門から侵入してくるというのは非常に稀な事例ではありますが、かといって今後、同様の事例がまったく発生しないということは考えられません。今回、負傷した隊員の方が命を落とさなかったのはまさに不幸中の幸いですが、今後の対応をどう定めていくのかが注目されます。