EUに代表されるように、ヨーロッパ各国はかつての反省からか、長年にわたり連帯しようとする動きが見られますが、一方で各国の戦車保有数を見れば、そのホンネが透けて見えてきます。最新の露ウ情勢も含め、その分布図を見ていきます。

いまヨーロッパに戦車はどれくらいあるの?

 2022年2月24日に始まったロシア軍のウクライナ侵攻は、誰も予想しえなかった長期戦となり3か月が経過してしまいました。SNSでは虚実入り混じった戦況が拡散して戦車の残骸ばかりクローズアップされていますが、そもそもロシアやウクライナはどのくらい戦車を持っているのでしょうか。そしてヨーロッパ各国に戦車はどのように分布しているのでしょうか。その分布図からはNATOやECなどと謳いながら一心同体とはとてもいえない各国の複雑な関係性が垣間見えてきます。

 戦車は高い戦闘力を持ちますが、製造するにも維持するにもコストの掛かる「金喰い虫」です。冷戦時代でも金喰い虫同士が実際に砲火を交えることは、財政当局者にとっては悪夢でしかなく、それよりも数を揃えて抑止力を誇示するなど外交的なツールとして使われることが任務でした。1980年代末期には、西ドイツと東ドイツの国境付近に3万両以上がひしめいていたとされています。

 冷戦の終結とソ連崩壊を経て、21世紀初頭には西側もロシアもヨーロッパ大陸において国家の正規軍同士による大規模戦闘はもう起こらない、これからはいわゆる「テロとの戦い」という非正規戦になると想定し、金喰い虫の戦車は削減される方向になります。

 戦車の発明国であり複合装甲の実用化など戦車技術をリードしてきたイギリスは、2009(平成21)年に戦車製造ラインを閉鎖しました。オランダは2011(平成23)年に戦車部隊を全廃しています。一方ロシアは戦車開発を継続し、2015(平成27)年に新型戦車T-14「アルマータ」をデビューさせています。

戦車保有数に見える「お隣さん」との関係

 ヨーロッパの戦車分布図を見ると2020年現在、予備保管を含まない現役戦車は全体で1万4000両程度とされ、冷戦期に比べると半分以下になっています。

 冷戦期には最前線だった戦車王国ドイツは、西ドイツだった当時2000両以上を保有していましたが、現在では「レオパルト2」のみで245両まで減っています。ドイツと国境を接し歴史的に何度も矛を交えてきたフランスも「ルクレール」が222両です。両国は現在、軍事的緊張関係にはありません。

 一方で注目なのが南部のトルコとギリシャです。トルコが2300両以上で現在のNATOにおける戦車王国です。バルカン半島の先端で海洋国家のイメージがあるギリシャでも1200両以上の戦車を持っています。いずれも主力が「レオパルト2」のバリエーションです。

 両国は国境を接しており、同じNATO加盟国なのですが外交関係は険悪です。アメリカがNATOの結束を維持するため、両国の調整に心を砕くかたわらで、双方に戦車を売却したドイツのビジネスセンスが目を引きます。トルコがロシアからS-400対空ミサイルシステムを導入し、F-35統合戦闘機プログラムから排除されるという問題児ぶりを発揮したのは記憶に新しいところです。

 2022年5月現在、砲火を交えているロシアとウクライナの周辺事情も単純ではありません。ロシアにとって対西側の最前線は、北はバルト三国からポーランド、ウクライナを経て南はトルコまで形成されています。

 バルト三国やポーランドにはNATOが、敵侵攻の抑止や防衛体制の強化を目的とする方針「EFP(増強前方プレゼンス)」により機甲部隊を派遣しています。バルト三国は国力も小さく、戦車を保有していませんのでEFPが頼みの綱です。

 ポーランドは、冷戦時代は東側でしたが、歴史的には何度もロシアと戦っています。東側時代から装備していたT-72を「レオパルト2A5」と交代させていますが、その余剰となったT-72をウクライナに送り外交得点を稼ぎつつ、アメリカからより強力なM1「エイブラムス」を購入するという、トコロテン式で自国の機甲戦力も補強を図っています。

戦車の数に見るロシアの底力とウクライナの善戦

 2020年時点での、ロシアの現役戦車保有数は3170両、ウクライナは858両とされています。侵攻開始の時点で数は変わっていると思われますが、民間のWEBサイトが公開情報からはじき出している戦車の損害は、4月30日現在でロシア595両、ウクライナ144両となっています。喧伝されるように、西側から提供された対戦車兵器によってロシアが被っている損害は少なくないものの、単純計算の損耗率ではロシア595/3170=18%、ウクライナ144/858=16%となります。ウクライナ軍がいまのところ善戦しているように見える一方、ロシアには予備が1万両程度あるといわれており、戦力の差は歴然としています。

 ウクライナが戦車や火砲など重装備の援助を強く要請しているのは、そのように不利な戦局であることが分かっているからです。「ジャベリン」などの携帯対戦車火器は一時しのぎになるだけで、戦闘の主導権は取れませんし「勝利」などとてもおぼつきません。

 ウクライナを支援するためなら、戦車でも火砲でも何でもよいというわけにはいきません。扱い慣れている旧ソ連/ロシア製ならともかく、西側製は取扱い訓練も必要で即戦力化はできず、戦車の数ばかり増えて人員不足ということになりかねないからです。

 それら戦車や火砲が第三国に流出することも考慮する必要があります。アメリカ国防総省の関係者は供与後の兵器の追跡は事実上、不可能であることを認めており、そしてウクライナは国際兵器取引には手慣れています。

 この軍事衝突は想定外の連続であり帰趨はまだ予想できませんが、ヨーロッパの戦車分布図に大きな波紋を広げたことは間違いありません。対戦車ミサイルを過度に信奉する風潮から戦車の要、不要論が再燃しているなか、戦車部隊を全廃してしまったり、製造ラインを閉鎖してしまったりした国は現在の状況をどう捉えているのでしょう。戦車を国産している日本にとって、他人事では済まない問題です。