日本全国の新幹線について、在来線時代と比較しどのくらい時間短縮しているのかをその程度が高い順に列挙。すると、所要時間が3分の1になった区間もあれば、半分にもならなかった区間もありました。
在来線特急より何時間短縮? 指標に「短縮倍率」を用いる
新幹線が開業すると、そこを走る新幹線列車はそれまで同区間を走っていた在来線の特急列車より大幅に所要時間を短縮しています。新幹線のメリットとしても喧伝される指標ですが、これを個別に見ていくと、短縮効果が大きい路線と、さほど大きくない路線とがあることに気づきます。
例えば1964(昭和39)年に開業した際の東海道新幹線で、東京〜新大阪間を見てみると、開業前の東京〜大阪間は、在来線(東海道本線)を特急「こだま」が所要6時間30分(最高速度110km/h)で走っていました。新幹線開業後は「ひかり」が東京〜新大阪間を所要4時間(最高速度210km/h)で走り始め、路盤が安定した1965(昭和40)年11月からは、所要3時間10分運転が開始されます。在来線時代からの短縮倍率は実に0.49倍。おおざっぱにいってこの時は、最高速度が約2倍、所要時間は約2分の1になった形です。
その後1985(昭和60)年から東京〜新大阪間の所要時間短縮が始まり、2023年では2時間27〜30分前後(早朝の「のぞみ1号」は所要2時間22分)、最高速度は285km/hとなっています。在来線時代の0.38倍です。あと十数分短縮できれば、在来線時代の3分の1にまで短縮されます。
そこで新幹線路線ごとに、時間短縮の程度が大きい順にランキングを作成しました。前出の短縮倍率を用いると、在来線時代の3分の1以下の所要時間となった路線もあれば、半分にも短縮できていない路線も少ないながらあります。
航空機や高速バスとのライバル関係を重要視した時、時間短縮の程度が少なくても、その効果が大きいと考えられる路線もあります。そうした点も踏まえながら、ランキングを見てみましょう。まずは1位から5位までです(ランキング詳細は記事末参照)。
最も短縮されたのは…?
1位:山陽新幹線(新大阪〜博多)「みずほ」「のぞみ」 2時間28分←8時間26分(0.29倍)
2位:東海道・山陽新幹線(東京〜博多)「のぞみ」 4時間57分←15時間35分(0.32倍)
3位:九州新幹線(博多〜鹿児島中央)「みずほ」 1時間16分←3時間47分(0.33倍)
4位:東北新幹線(東京〜盛岡)「はやぶさ」 2時間10分←6時間26分(0.34倍)
5位:東北・北海道新幹線(東京〜函館)「はやぶさ」+「はこだてライナー」4時間29分←12時間55分(0.35倍)
ランキング作成にあたり、路線途中の主要駅として、東海道新幹線では名古屋、東北新幹線では仙台と盛岡、北陸新幹線では長野もピックアップし、対東京の短縮の程度で順位に加えました。山形新幹線は終点の新庄ではなく、東京〜山形間を取り上げました。
また、東京駅と上野駅、新大阪駅と大阪駅は同じ大都市圏内の近隣駅のため、比較にあたり区別していません。ただし函館に関しては、新函館北斗駅ではなく在来線のリレー列車である「はこだてライナー」を含めた函館駅までの所要時間で算出しています。
1位の新大阪〜博多間は、山陽新幹線開業(1972〈昭和47〉年3月)の前、最速の特急「はと1号」でも8時間26分かかっていました。昼行の座席特急としては苦痛といえる乗車時間のため、同区間には、寝台車を連結した夜行特急・急行が10本以上走っていたのです。
2位の東京〜博多間は東海道新幹線開業前、最速の昼行特急で、東京7時発の「第一こだま」から大阪で「みどり」に乗り継いで博多22時35分着。ただし実際この区間ではほとんどの乗客が夜行列車の利用でした。特急「あさかぜ」で東京発18時30分、博多着はお昼時も近い11時25分です。今は日帰りも楽に可能なので、隔世の感があります。
3位の博多〜鹿児島中央間に関しては、2023年現在、西日本鉄道などの高速バスが西鉄天神高速BT〜鹿児島中央駅間を約4時間20分で結んでいます。九州新幹線の開業により、少なくとも所要時間に関しては、高速バスは鉄道の敵ではなくなったといえるでしょう。
ワースト3は?
4位以下は東北新幹線のほか、同率5位に上越新幹線(東京〜新潟間、0.35倍)、8位に北陸新幹線(東京〜金沢間、0.36倍)が入ってきます。これらも在来線時代に比べほぼ3分の1の所要時間に短縮しています。
なお同率5位の東北・北海道新幹線(東京〜函館間、0.35倍)は、在来線時代は青森〜函館間が青函連絡船で速度が遅く、その分、青函トンネルを通る新幹線による時間短縮効果が大きいのですが、新函館北斗での在来線への乗り換えなどで時間がかかり、5位に甘んじる結果になりました。
次にワースト3も見てみましょう。
12位:東北・秋田新幹線(東京〜秋田)「こまち」3時間44分←7時間43分(0.48倍)
13位:東北・山形新幹線(東京〜山形)「つばさ」2時間26分←4時間43分(0.52倍)
14位:在来線+西九州新幹線(博多〜長崎)「リレーかもめ」+「かもめ」1時間20分←1時間51分(0.72倍)
12位、13位は盛岡〜秋田間、福島〜山形間というミニ新幹線区間(最高速度130km/h)があり、予想どおりの順位といえるでしょう。これらは約2分の1の短縮にとどまりますが、それでも航空機利用との所要時間差が大幅に小さくなるなど、時間短縮の効果が大きい印象を受けます。
最下位の西九州新幹線に関しては、わずか30分ほどの短縮なのに途中の武雄温泉駅で乗り換えが新たに生じてしまうので、開業効果の評価が分かれるところです。
ただしこの区間ではライバルの高速バスが、博多駅近くの博多BTから約2時間30分、西鉄天神高速BTから約2時間10分などで長崎駅前まで運行されています。通常料金の場合、西九州新幹線利用が高速バス利用の2倍近くとなるのを許容できれば、高速バスより約1時間早く到着できます。
新幹線に乗る時、「新幹線がなかった時代なら、今から行く場所へは約3倍の時間がかかるんだ」――こんな風に思いを馳せるのもいいかもしれません。