岸田文雄首相は3月の参院予算委員会で、トラック運転手の人手不足問題是正の手段として「モーダルシフト」という言葉を出しました。かねて言われてきたことですが、どのような意味なのでしょう。

トラックから貨物へ文字通り輸送の転換

 岸田文雄首相は、2013年3月27日の参院予算委員会で、2024年に導入される時間外労働の規制で懸念されるトラックの運転手不足に対して、輸送・物流関連の関係閣僚会議を近く開催し、緊急対策を取りまとめると述べました。その際、岸田首相が提唱したのが、「モーダルシフト」という言葉です。輸送業界ではかねて言われてきましたが、首相の発言が、それをさらに促すことになるかもしれません。

 モーダルシフトとは、直訳すると輸送の転換ですが、ほぼその通りの意味です。国土交通省によると、具体的には、トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することをいいます。

 トラック運転手は、ピーク時の1995年の約98万人から年々減少しており、2015年の段階で既に約76.7万人と、約21万人減少しています。さらに今後、2030年には51.9万人まで減少し、ドライバーの高齢化も進むといわれています。そして、年々ドライバー調達コストが高くなっており、このままだと、国内の物流が危機的状況になるという懸念があるようです。

人手不足解消や環境負荷低減に対応

 そこで注目されているのが、モーダルシフトによる輸送手段の転換です。地上での輸送の場合は、長距離輸送を鉄道にすると、26両編成の貨物列車の輸送能力は、一般的なトラック約65台分に相当します。渋滞なども発生せず、大きなトラブルがなければ時間も正確に運べるのも利点です。

 さらに、二酸化炭素の排出量も、同じ量の荷物を運ぶトラックの約10分の1程度と言われており、ここ数年ニュースでも度々取り上げられるようになったSDGs(持続可能な開発目標)にも即した、環境負荷の低い輸送手段にもなるとして期待されています。

 事実、ここ数年JR貨物の貨物列車を借り切って運行するブロックトレインの利用が増加しています。2004年に佐川急便向けとしてスーパーレールカーゴを東京〜大阪間で運行したことを皮切りに、通運事業者向けのスーパーグリーンシャトル列車(みどり号)、トヨタ自動車向けのトヨタロングパスエクスプレス(トヨタ号)などを運行していましたが、人手不足を受け、陸運の大手にもその需要が広がっています。

 2013年から福山通運が東京〜大阪間で、西濃運輸は2018年に大阪〜仙台間、2021年3月から大阪〜福岡間の長距離輸送にトラックの代わりとしてブロックトレインを採用。もちろん、これは人手不足を見据えたモーダルシフトの一環です。こうした取り組みにより、トラック運転手はより短距離の輸送を担当することが多くなると予想されており、運行の負担が軽減されることが期待されています。

 JR貨物によると、2019年度はモーダルシフトの流れを受け輸送量が前度比8.8%増の287万tに拡大し、コロナ禍の影響を受けた2020年度でさえ、前年比0.2%増の287万5000tと微増。2021年度には前年度比6.2%増の305万3000tと拡大を見せています。

 昭和の時代、国鉄ではストライキにより多くの列車運行が止まり、ひと月で貨物列車が3分の1も運休したときもありました。これに対し政府はトラック協会と連携し、大量動員したトラック運転手で振替輸送を行ったことが、鉄道貨物輸送の衰退を決定づけた経緯がありましたが、その政府がいま、再び鉄道輸送を盛り立てようとしています。