アメリカとロシアがそれぞれ管理空域を定めるシリア上空で、ロシア軍機による挑発的な飛行が増加しています。一触即発の事態もあり得る慎重さが求められる空域で、まさにロシアがケンカを売っているかのような行動をとっているようです。

「プロ意識に欠ける飛行である」と批判

 アメリカ軍第9空軍(中央空軍)は2023年4月19日、シリア上空でSu-35と思われるロシア軍機が、中央空軍所属のF-16に行った危険な行動を収めた動画と報告書を公開しました。

 報告書の内容によると、ロシア機はアメリカ側の管理空域に侵入してきたそうで、F-16戦闘機が侵入機への警告にあたりました。

  内戦中のシリアをめぐって、ロシアはアサド政権を支持し、アメリカおよび有志連合は反対勢力側につき、互いにイスラム過激派であるISILの空爆のために軍事介入をしています。そのため、米露は互いの軍事衝突を避けるため2015年に飛行面での安全確保に関する合意書を締結し、管理空域を定めています。

 一歩間違えれば大規模な軍事衝突に発展する可能性もあり、慎重な行動が求められる空域にも関わらず、該当のロシア機の対応は目に余るものだったようで、報告書では「戦闘を回避する様子を見せず、プロ意識に欠ける飛行である」と批判。「ロシアパイロットによるこれらの攻撃的な行動は、能力の欠如を示し、意図しない問題につながる可能性がある」と警告しています。

 実は、こうした危険な飛行は今回が初めてではないようです。

 中央空軍司令のアレクサス・グリンケウィッチ中将は、「キャリアを通じて様々な困難を経験してきましたが、最近のロシア軍機の動きは特に大きな問題です。3月1日から4月15日の期間だけでも、63回も両国で定めた取り決めに違反しています」と懸念を表明。「ロシア航空機が私たちの航空機の500フィート(152m)以内に接近するのも見ました」と急接近をされたことも明かしました。航空機で152mというのは、ほぼ目の前といえる距離で、衝突の危険もあります。

 グリンケウィッチ中将は、米メディアのインタビューで「本来、このような場合、数マイルは離れ、お互いを監視しながら飛行するのですが、彼らは、積極的に動きドッグファイト(空中戦)を誘うかのような操縦をしていた」と解説しています。なおグリンケウィッチ中将は、4月4日には自らF-16を駆り、現場で指揮をとったそうです。

 ロシア機による挑発的ともとれる飛行が増えた理由に関して、米空軍は正確な動機付け不可能としつつも、なにかしらの事件を誘発させようとしている可能性を示唆しています。

 また、グリンケウィッチ中将は、2023年3月14日黒海上空でロシア軍戦闘機Su-27がアメリカの無人航空機MQ9「リーパー」と接触し、MQ9が墜落した事件も影響しているのではないかという見解も示しました。

 同事件後、ロシア国防省は接触したパイロットに勲章を授与しましたが、このことが、ほかのパイロットにも挑発的な飛行を行わせている動機になっているではないかということです。