東京メトロ有楽町線には、野田市までの延伸計画があります。どこまで検討が進んだのでしょうか。

TXとの相互直通や「東埼玉道路」と一体整備も

 東武伊勢崎線(スカイツリーライン)と、つくばエクスプレス(TX)の間には、広大な鉄道空白地帯が広がっています。そこに位置する埼玉県吉川市や松伏町、千葉県野田市は、東京都心から比較的近いにも関わらず、東京と直結する鉄道路線がない不便な状態が続いています。

 このエリアには、豊洲駅から住吉駅まで延伸される予定の8号線(有楽町線)をさらに北上させ、押上駅、亀有駅、八潮駅、越谷レイクタウン駅を経由して野田市駅までを結ぶ、首都圏の放射状鉄道としては最大級ともいえる壮大な構想があります。検討はどこまで進んだのでしょうか。
 
 8号線の野田市延伸は、国の新たな鉄道整備の方向性となる、2016年の交通政策審議会の答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」に盛り込まれています。そこでは延伸に向けた課題として、「事業性の確保に必要な沿線開発や、事業主体を含めた計画の検討を十分に行うことが必要」という状況です。
 
 現在、事業化に向け、埼玉県の関係地域(草加市、越谷市、八潮市、吉川市、松伏町)と千葉県野田市で構成する「地下鉄8号線建設促進並びに誘致期成同盟会」が主体となり、まずは「八潮〜野田市間の先行整備」を目指して要望・調査を行っています。

 同盟会には茨城県下妻市、常総市、筑西市、坂東市、八千代町も加入しており、野田市から北へ更なる延伸も視野に入れています。

「八潮〜野田市」ありきの計画 その中身とは

 同盟会はすでに、事業化の準備段階として、概略ルートやコスト・便益の試算などを行っています。その報告書は先述のとおり「八潮〜野田市」を先行整備することが前提で、もはや「有楽町線の延伸部」とは言えない、完全新規路線のような雰囲気です。内容を見ていきましょう。

 八潮駅と野田市駅の間には、7つの中間駅の設置を想定。用地費の低減を図るため、建設が進められている「東埼玉道路」一般部の直上空間を利用し、道路と一体的に整備することが考えられています。JR武蔵野線との交点では、少し西側にルートをずらして「越谷レイクタウン駅の直下に乗換駅を設けるケース」もあります。

 八潮駅ではつくばエクスプレス(TX)に接続。そのまま直通させて秋葉原方面に向かうケースと、非直通とする2案が検討されています。直通運転を行う場合、野田市駅から秋葉原駅への所要時間は、現行の51分が33分に短縮されるとしています。

 整備にかかる費用は、2020年12月に野田市がまとめた調査報告書によると「TXへ直通運転」の場合は2800億円。開業後34年で黒字転換するとしています。
 
 直通先のTXにはさらに、秋葉原駅から東京駅への延伸計画や、臨海地下鉄と接続させる構想もあります。八潮駅で直通運転が実現すれば、将来的には東京駅・臨海部方面へ乗り換えなしでアクセスできるようになる可能性もあります。

 この基礎検討をもとに同盟会では、2021年度から4年がかりで、新たな整備検討調査を実施中。この調査では、答申で言われた「事業性の課題」を克服するための「沿線まちづくり」を検討しており、報告書が完成する2024年度に一定の基本方針を策定する予定です。
  
 さて、期成同盟会から「置いてけぼり」となった都内区間(押上〜八潮)や野田市以北。物事が動き出すのは先行整備区間が「開通したあと」になっていきそうです。さらに茨城県西南部まで延伸する場合は、石岡市にある気象庁の「地磁気観測所」への影響を防ぐため、首都圏で一般的な直流電化ではなく、交流電化で整備する必要があり、対応する新たな車両の開発も必須です。こうした点も整備のハードルになることが見込まれるでしょう。