地域自ら“秘境”と称する山奥にあって、全長22kmのうち約18kmがトンネルという稀有な道路「奥只見シルバーライン」。“酷道”の趣きたっぷりではありますが、決して酷ではなく、大切な役割を担っていました。

トンネル、トンネル、ず〜っとトンネル!「奥只見シルバーライン」

 新潟県魚沼市と福島県桧枝岐(ひのえまた)村にまたがる奥只見ダム周辺は、2000m級の山々に囲まれ「秘境奥只見」を自称するほどのエリア。その奥只見ダムへ新潟県側から通じるアクセス道路が「奥只見シルバーライン」です。全長22.6kmのうち約18kmがトンネル、しかも多くが手堀りという稀有な路線として知られ、いわゆる“酷道”の文脈で語られることが多いです。

 関越道の小出ICから国道352号を東へ10kmほど進むと、奥只見シルバーラインの入口が現れます。そこには古びた料金所の跡が。この路線はもともと、ダムの工事用道路として1957(昭和32)年に完成し、新潟県へ譲渡されたのち6年間は有料道路でした。その名残が料金所跡ですが、現在は無料の主要地方道小出奥只見線として指定されています。

 その料金所跡を進むとすぐにトンネル。「第一トンネル群」との看板があり、トンネルとスノーシェッドが組み合わさったようなものが連続します。いわゆる“明かり区間”の多い前半部のほうが、山岳路線らしい急カーブの多い線形です。

 道幅は乗用車2台が余裕で通れるほどで、そこまで走りにくい感じではありません。トンネルに入るとすぐ急カーブとなり、壁に突っ込んでいくような印象の箇所もありますが、そうしたところは、小さいランプを組み合わせた巨大な矢印が壁面で点滅しているため、否が応でも注意深くなります。

 先に進むにつれ、岩肌が露出した手堀りのトンネルが多くなります。トンネル内部に染み出た山の水が、ボタッ、ボタッとクルマのボディやガラスに打ち付けてきます。カーオーディオにスマホをつないでストリーミングで聴いていた音楽もいつしか消え、「あ、(携帯の電波が)圏外だ」と気づきました。

「第8トンネル群」とあるトンネルの入口時点で、「奥只見ダム 17km」とありました。ここからが、いくつものトンネルがひとつにつながっている区間です。そのまま進むと、「次の空まで5km」という看板が登場。トンネル内でカーブを曲がっても、曲がっても、その先に光は見えません。

奥只見ダム、やっと着いた!

 ようやくトンネルを抜けたと思ったのも束の間、すぐに「第9トンネル群」が現れます。事前にトンネルの数は全部で19と聞いていましたが、この看板には“9/9”とありました。そのまま進むと、今度は「次の空まで8km」という看板が登場。「さっきよりも長いのか……」とつぶやかずにはいられません。

 この第9トンネル群は、3つのトンネルがつながって10km以上になっているそうです。その間、トンネル内には珍しい交差点も存在。後述しますが、実はこの交差点がシルバーラインにとって重要なポイントでした。

 さて、長い長いトンネルを抜けると、奥只見ダムに到着。「奥只見レイクハウス」「奥只見ターミナル」と2つの建屋が並ぶ観光拠点は、東京から中学校の遠足の一団なども来ており賑わっていました。

 ここから「スロープカー」でダムの堤体上まで上がったところが、ダム湖をいく奥只見遊覧船の奥只見乗船場です。夏の観光シーズンには、上越新幹線の浦佐駅から路線バスがシルバーライン経由で奥只見ダムまで運行されており、遊覧船でダム反対側の尾瀬口乗船場まで向かい、そこからさらに路線バスへ乗り換えて会津に抜けることもできます。

謎の「トンネル内交差点」を曲がってみると

 来た道を戻る際、前出した第9トンネル群のなかの交差点を左折してみました。するとすぐにトンネルの外へ。ここは、トンネルのどてっ腹へ、T字交差点で接続していたのだとわかりました。

 外へ出てすぐに、シルバーラインと並行する国道352号の「銀山平」エリアに出ましたが、5月下旬のこの日は、新潟方面、福島方面ともに、銀山平から先は冬季閉鎖のため抜けられませんでした。

 一帯は日本でも有数の豪雪地帯で、国道352号、シルバーラインともに冬季は閉鎖されますが、例年シルバーラインは352号より早く、3月には解除されます。一方で、352号の魚沼市街と銀山平の間の「枝折峠」区間や、銀山平から福島県境区間は、下界の気温が30度近くなった5月下旬ですら、冬季閉鎖が解除されないのです。

 つまり、春の期間中はシルバーラインが352号のバイパスとして機能し、トンネル内交差点から銀山平へのアクセスを可能としているのです。1年の多くが雪に閉ざされるエリアにあって、シルバーラインが観光や生活に欠かせない道路であることが伺えました。