PAC-3は、迎撃ミサイルとして日本でもなじみがあるかもしれません。正式には地対空ミサイルシステムのことですが、ウクライナ戦争でもロシア製ミサイルを撃墜するなど、供与されてすぐに戦果をあげています。

ウクライナに供与後、即戦果をあげた「パトリオット」

 北朝鮮は日本に対し、2023年6月11日(日)午前0時までを、自らが「衛星」と称する弾道ミサイルの発射期間だと通告しています。これを受け浜田靖一防衛大臣は、地対空ミサイルシステム「PAC-3」での破壊措置命令を発出。折しもこのPAC-3は4月、ロシアによる侵攻を受けているウクライナにも新たに供与されたものです。ウクライナでは、それまで保有していた地対空ミサイルが枯渇していたとされており、PAC-3の供与はまさに渡りに船といったところでした。

 そんなPAC-3は、供与されて間もなく大きな戦果をあげることとなりました。5月初め、ウクライナ軍のPAC-3が首都キーウ上空で、ロシア軍の航空機から発射された空中発射型弾道ミサイル「キンジャール」を撃墜したのです。これまで地対空ミサイルによる対処が困難とみられていたキンジャールを撃墜できる能力を手に入れたことは、ウクライナにとって非常に重要な意義があるといえるでしょう。

そもそも「PAC-3」ってどんなミサイル?

 それでは、このPAC-3とはいったいどのようなミサイルなのでしょうか。これは「パトリオット能力向上3型」の略で、1980年代に運用が開始された地対空ミサイル「パトリオット(MIM-104)」を、能力向上させたタイプの第3形態という意味です。パトリオットは、ミサイルを搭載する発射器、目標を探知してミサイルを誘導するレーダー、無線通信装置など複数の装備が組み合わさってひとつのシステムを構成します。

 レーダーの能力向上や、限定的ながらも弾道ミサイルへの対応能力などを付与するため、これまで「PAC-1」や「PAC-2」といった形で、順次アップグレードが続けられてきました。そして、今回の主役であるPAC-3は通常の航空機や巡航ミサイルのみならず、弾道ミサイルへの対応が可能なバージョンとして開発されました。

航空自衛隊が運用するPAC-3は最新版 将来はさらなる能力向上も

 PAC-3はPAC-2で使用されているものよりも直径が小さいミサイルを使用しており、PAC-2では発射器にミサイルを4発しか搭載できなかったものの、PAC-3では16発を搭載可能です。またPAC-3は、弾道ミサイルの迎撃に関して「直撃破壊(ヒット・トゥ・キル)」という方式を採用しています。これは、迎撃ミサイルを目標に直撃させて破壊するというもので、これにより確実に弾道ミサイルを無力化することができます。

 そして、このPAC-3のなかでも現在最新のバージョンが「PAC-3MSE(ミサイル部分強化型)」です。このPAC-3MSEでは、従来のPAC-3と比べて射程距離および射高(迎撃可能な高度)が大幅に向上しており、より広い範囲を防護できるようになっています。ただし、ひとつの発射器につき搭載可能なミサイルの数は、12発に減少しています。

 ところで、日本では航空自衛隊がPAC-3を運用しています。現在は従来から運用してきたPAC-3をPAC-3MSEに順次アップグレードしており、すでに実戦部隊への配備も行われています。さらに、2022年12月に決定されたいわゆる「安保関連3文書」のなかでは、PAC-3のレーダーを最新鋭のバージョンに変更することが明記されました。

 このレーダーとは、アメリカの大手防衛関連企業であるレイセオン・テクノロジーズ社が開発した「LTAMDS(エルタムズ)」のことです。それまでのパトリオット用のレーダーでは、固定式の大きなアンテナがひとつ配置されているのみでしたが、LTAMDSではそれに加えて後方に小さなアンテナが2つ追加されました。これにより、LTAMDSは全周360度を常に監視することができます。また探知距離についても、従来と同じ大きさのアンテナながらその出力は2倍以上となっており、大幅に向上しています。

 自衛隊もPAC-3を南西諸島などに展開させています。北朝鮮の“衛星”の迎撃が、実際に行われるような状況が訪れないことを祈るばかりです。