第2次世界大戦まで、戦艦は「主力艦」と言われ、保有国の海上兵力を象徴する存在でした。戦艦の存在意義とは、他の艦種を圧する攻撃力。つまり搭載砲の威力にあります。では、どの国の戦艦主砲が最も強力だったのでしょうか。

やはり新型戦艦は強かった!

 軍艦の中でも強力な大砲と、分厚い装甲を備えた「戦艦」。第2次世界大戦まで、戦艦は「主力艦」と呼ばれ、保有国の海上兵力を代表する存在でした。

 戦艦は、基本的には搭載している主砲の威力に見合った防御力を備えるため、強力な砲を備えた艦型=有力艦とも言えます。そこで各国の戦艦を比べた場合、どの主砲が強力だったのか、ベスト5を筆者(安藤昌季:乗りものライター)の主観でランキングしてみました。

5位:1935年型38cm 45口径砲(フランス)

 フランス海軍のリシュリュー級戦艦に搭載された主砲です。砲塔に4本の砲身を備えた4連装砲で、各砲それぞれが自由な仰角を取れたようです。

 砲身がどの角度でも装填できる自由角装填装置を搭載していますが、大仰角での装填は砲弾や装薬が落下する可能性もあり、制限があったとのこと。また、弾火薬庫の配置にも不備があり、最大発射速度は毎分2.2発(24秒)と早いものの、砲弾の供給が追い付かず、発射速度は低下したとか。なお、砲身の俯仰速度は毎秒5.5度でした。

 当初は他国の38cm砲より1〜2割近く重い890kgある弾(ドイツのビスマルク級の38cm徹甲弾は800kg)を、初速830m/秒で発射する予定でしたが、欠陥が見つかったため、砲弾重量885kg、初速785m/秒で運用されました。最大射程は4万1700mと長大でした。

 なお、第2次世界大戦中にアメリカで改装を受け、初速は800m/秒に向上しています。貫通力は垂直装甲に対して、0mで747mm、1万8288mで470mm、2万7432mで335mmでした。

 ただし、砲弾の散布界が広いという欠点もあったため、戦後の1948年に行われた改装で発射のタイミングをずらす遅延装置を搭載することで、解決を図っています。

4位:40.6cm 45口径砲Mk.6(アメリカ)

 Mk.6はアメリカ海軍のノースカロライナ級戦艦と、サウスダコタ級戦艦に搭載された主砲です。砲弾重量1225kg、初速701m/秒、最大射程は3万3741m。射距離18.3kmの場合の垂直装甲貫通力は448mm、射距離22.8kmでの水平装甲貫通力は146mmでした。

 特に、22.8kmでの水平装甲貫通力は、この後出てくるアイオワ級が積んだ50口径砲のMk.7(後述)を上回っており、極めて強力な威力を持っていました。なお、砲身を長くすると、初速は速くなる一方、砲弾の速度減少も大きくなるため、砲身の短い45口径砲の方が、水平装甲への打撃力では勝ります。

 ただし初速が遅いため、砲弾の飛行時に風の影響を受けやすいことから、遠距離砲戦での射撃性能では、50口径のMk.7に劣っていました。装填角度は5度で、発射速度は30秒に1発(装填角度に近ければ最速で20秒)と、のちのMk.7と同じです。砲身の俯仰速度は毎秒12度と高速でした。

地中海の強国からもランクイン!

 イギリスを抑えて、イタリア戦艦が意外にも第3位になりました。

3位:OTO 1934年型38.1cm 50口径砲(イタリア)

 イタリア海軍のヴィットリオ・ヴェネト級戦艦に搭載された主砲です。砲弾重量885kg、初速850m/秒、最大射程は4万4640m(4万2800mという資料もあり)です。貫通力は垂直装甲に対して、0mで815mm、1万8288mで503mm、2万7432mで381mmと、15インチ(38.1cm)砲でありながら、ワンランク上の16インチ(40.6cm)砲を上回る性能を有していました。

 実際、イギリスのネルソン級戦艦が搭載した40.6cm 45口径砲は、砲弾重量929kg、初速754m/秒、最大射程3万6375m。貫通力は垂直装甲に対して、0mで737mm、1万8288mで389mm、2万7432mで292mmという数値で、比べると完全に上回っているのがわかるでしょう。

 発射速度は毎分1.3発(51秒、または45秒という資料もあり)とやや遅いですが、実用上の問題はなかった模様です。砲身の俯仰速度は毎秒6度でした。しかし、砲弾の散布界が広く、砲身の寿命が短いという欠点も持っていたそうです。

2位:40.6cm 50口径砲Mk.7(アメリカ)

 アメリカ海軍最大のアイオワ級戦艦に搭載された主砲です。アイオワ級は前出(第4位)のサウスダコタ級の次級として設計・建造されたクラスで、サウスダコタ級に搭載された45口径砲よりも射程が長く、初速が速いため、射撃精度も高い優秀な砲でした。

 徹甲弾の重量は1225kg。初速は762m/秒。装填角度は5度で、発射速度は毎分2発(30秒に1発)とされていますが、装填角5度に近い射撃角度では、最大毎分3発(20秒に1発)で発砲できたようです。

 実際には、戦艦の主砲弾は弾着観測が必要で、かつ方位射撃盤からの射撃管制や艦の動揺修正にも時間を要するため、通常は最大の射撃速度では発砲しなかったと言われています。なお、砲身の俯仰速度は毎秒12度と高速でした。

 用いる砲弾は日本の長門型の41cm徹甲弾(1020kg)や、イギリスのネルソン級戦艦の406mm徹甲弾(929kg)よりずっと重いSHS(スーパーヘビーシェル)と呼ばれるもので、貫通力も他国の16インチ(40.6cm)砲を大きく上回っていました。

 貫通力は垂直装甲に対して、射距離0mで828mm、1万8288mで509mm、2万7432mで381mmであり、46cm砲に近い貫通力を持っていました。なお、戦後に生産された最終型のmod.8では、砲弾の先端に被せる被帽の硬度強化が行われ、資料によっては大和型に匹敵する貫通力になったとも記されています。最大射程は3万8720mです。

本命の戦艦がやっぱり1位

 第1位は史上最大の戦艦が搭載する、最強の18インチ砲です。

1位:46cm45口径砲(日本)

 世界最大の大和型戦艦に搭載された主砲です。口径18インチ(457mm)クラスの艦砲としては、戦艦に搭載された唯一の砲でもあります。

 ちなみに、イギリスも18インチ40口径砲を大型軽巡洋艦フューリアスに搭載していますが、単装砲1門でかつ戦艦ではないので割愛します。

 徹甲弾の重量は1460kg。初速は780m/秒、装填速度は29.5〜30.5秒で、装填角度は3度でした。主砲の仰角変更にかかる時間を考慮すると、発射速度は2万mで32〜33秒、最大射程では37.9〜38.9秒程度になります。砲身の俯仰速度は毎秒10度と高速でした。

 貫通力は垂直装甲に対して、0mで864mm、1万8288mで521mm、2万7432mで391mmであり、戦艦主砲で世界最高の貫通力を有していました。最大射程は4万2026mでした。

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 今回は割愛しましたが、長門型戦艦の三年式41cm砲は旧式であるものの、砲弾重量1020kg、最大射程3万8430m、主砲発射速度(砲塔内に砲弾が準備されている場合に限る)は、仰角40度で約30秒、2万mでの垂直装甲貫通力454mmと、第5位に挙げた1935年型38cm 45口径砲(フランス)に勝るとも劣らない性能を有しています。

 戦艦が海軍力の象徴だった時代らしく、必死に改良して最新鋭砲に劣らぬ性能を実現するのは、日本海軍らしい努力ではないだろうかと筆者には感じられました。