川崎市の臨海部にある扇島地区では、大規模再開発が計画されています。それに伴い、市は将来的な交通インフラ整備の取り組みとして、鉄道新線の整備を視野にいれています。どのような路線なのでしょうか。

川崎市が扇島地区の再開発で土地利用方針案を策定

 川崎市の臨海部にある扇島地区では今後、大規模な再開発が予定されています。それに伴い、これまで止まっていた鉄道整備構想が動き出すかもしれません。

 川崎市は2023年6月2日(金)、「JFEスチール東日本製鉄所京浜地区の高炉等休止に伴う土地利用方針(案)」を策定しました。これは、2023年9月にJFEスチール東日本製鉄所京浜地区の高炉が休止されることを踏まえ、新たに創出される約222ヘクタールもの広大な土地を対象に、土地利用転換を推進するものです。
 
 このうち、既存の構造物が少ない約70ヘクタールを「先導エリア」とし、「水素を軸としたカーボンニュートラルエネルギーの受入・貯蔵・供給の拠点」を形成するとしています。地区全体の土地利用転換の完了は概ね2050年を想定しています。
 
 市は扇島地区の土地利用方針案に、臨海部の将来的な交通インフラ整備の中長期的な取組として「BRTや鉄軌道などの様々な交通手段の検討を行う」と明記。鉄軌道では具体的な例として「川崎アプローチ線」や「東海道貨物支線貨客併用化」をあげています。扇島地区の開発は長期間が予想され、周辺地域を含めた全体の交通ネットワークに影響を及ぼすため、様々な交通アクセスに対応する必要があるというわけです。
 
 これらの路線は、国交省の交通政策審議会の答申に「今後整備について検討すべき路線」として盛り込まれている路線です。実現に向けた課題として、沿線開発の取り組みを進めた上で、貨物輸送への影響を考慮して事業計画について十分な検討が行われることを期待するとしています。

「川崎アプローチ線」と「東海道貨物支線の貨客併用化」どんな事業?

「川崎アプローチ線」は、JR川崎駅とJR川崎新町駅の間に新線を建設することで、南武支線を川崎駅まで乗り入れさせる構想です。南武支線の川崎新町〜浜川崎間の改良も行い、川崎駅と浜川崎駅を直結します。これは1971年に廃止された貨物線を復活させるプロジェクトですが、現在は跡地に住宅や公共施設などが立ち並んでいる状態です。

「東海道貨物支線貨客併用化」は、品川、東京テレポートから天空橋、浜川崎を経由し、桜木町に至るルートを検討しています。総延長は約33キロにおよび、そのうち約18キロは既存の貨物線を利用。浜川崎付近から横浜山内ふ頭地区付近まで、川崎市の臨海部を横断する形で約15キロの新線を整備することを検討しています。

 神奈川県などで構成する「神奈川県鉄道輸送力増強促進会議」は2022年、JR東日本に「南武支線の川崎駅への乗り入れ」や「東海道貨物支線の貨客併用化の実現」を要望しています。
 
 要望に対しJR東日本は、南武支線の川崎乗入れに関して「新規の大規模な設備投資を要するほか、南武線(川崎〜立川間)の列車の運行に多大な影響が出ること、および需要見込みなどが不透明であることから現時点では計画はありませんが、関係自治体の沿線整備計画と連携し、検討を進めてまいりたい」と回答しています。
 
 東海道貨物支線の貨客併用化に関しては「京浜臨海部における具体的な開発計画や、東海道方面の将来需要動向、当該地区の開発状況等を総合的に判断し、長期的に検討する必要があると考えております」としています。

 臨海部の開発が動き出したことで、今後、交通インフラの整備に関する検討が加速するとみられます。これまであまり動きが見られなかった「川崎アプローチ線」や「東海道貨物支線貨客併用化」ですが、沿線開発を契機に検討が本格化する可能性もあるでしょう。