川崎市臨海部にある一般人が立ち入れない島「扇島」を中心とした大型の再開発計画がまとまりました。しかし、現状で島への唯一のアクセス路となっている企業所有の海底トンネルについては、今後どうするのか不透明な状況です。

「扇島」の再開発計画 あれ、海底トンネルは…?

 川崎市が2023年6月、「JFEスチール株式会社東日本製鉄所京浜地区の高炉等休止に伴う土地利用方針(案)」を中心とした「川崎臨海部 大規模土地利用転換」の概要について発表しました。市が「100年に1度のビッグプロジェクト」と位置付ける壮大な計画により、これまで一般人が立ち入れなかった「扇島」が大きく変わりそうです。

「扇島」は、隣接する「東扇島」とともに、川崎市臨海部の最も沖合に位置する人工島です。この扇島にあるJFEスチール東日本製鉄所の高炉休止が2023年9月に予定されており、それに伴い臨海部に新たな土地が生まれます。これを受け川崎市は、周辺地区も含めた土地利用転換、ならびに扇島へのアクセス手段の整備方針について取りまとめました。

 製鉄所のほか、エネルギー関連施設が立ち並ぶ扇島は現在、国際条約で一般人の立入が制限されています。首都高湾岸線が島内を通っていますが、出入口はなく通過するだけ。並行する国道357号(東京湾岸道路)も扇島内は整備されていません。

 そのため現在、関係者が公道から島へアクセスする場合は、JFE所有の「構内道路」が唯一の手段になります。

 構内道路は、内陸の水江町から、東扇島までを結ぶ「JFEスチール海底トンネル」、東扇島と扇島を結ぶ「扇島大橋」、それらと扇島内の道路からなります。海底トンネルはいち企業の“私道”という位置づけの極めて珍しい存在。JFEグループ関係者のほか、同社が許可した企業関係者のみが通行できます。

 川崎市は2028年度からの一部土地利用転換開始に向けた“最低限のアクセス”として、国道357号(東京湾岸道路)東扇島〜扇島内や、首都高湾岸線の扇島内の出入口を整備するとしていますが、既存のアクセス路である海底トンネルなどはどうなるのでしょうか。

トンネルは使わないの?

 川崎市臨海部国際戦略本部によると、海底トンネルを含む構内道路は当面、今と変わらずJFEの専用道路のままだといいます。というのも、扇島のおおむね西半分は横浜市域で、引き続きJFEスチールをはじめとする企業が使うためです。JFEホールディングスも3月の時点で、構内道路は「関係者しか利用しないのは当面変わらない」と話していました。

 ただ、川崎市は「国道357号の整備まで、一部を暫定的に利用させていただく」(臨海部国際戦略本部)との考えを表明しています。

 今回の発表でも構内道路を改修する路線として、首都高湾岸線にピタリと並行する北側の構内道路「東西1号」、南側の「東西2号」、そして「扇島大橋」の3つを挙げています。首都高の側道にあたる国道357号は別途、国と協議のうえ整備していくものの、これら構内道路は現状でも、実質的に国道357号を代替しているといえます。

 そのうえで、現在、内陸と東扇島を結んでいるJFEスチール海底トンネルについて川崎市は、土地利用転換後の「扇島へのアクセス路としては考えていない」(同)ということでした。

 さらに市は、将来的な検討路線「内陸部アクセス道路」として、同じく土地利用転換が見込まれている「扇町」と扇島を結ぶ路線を挙げています。扇町はJFEの海底トンネルの入口である水江町と運河を隔てて西側の埋立地、JR鶴見線扇町駅・昭和駅の周辺エリアです。

 JFEスチール海底トンネルはこの先も当面は“私道”であり続けそうですが、もともと扇島の埋め立てにあたってアクセス道路して造られたもので、すでに開通から半世紀近くが経過しています。今後、一般の人が扇島へ入れるようになっても、知る人ぞ知る海底トンネルとして残るのでしょうか。