韓国で開催中の防衛産業イベントに新たな韓国空母のスケール模型が展示されました。これまでのものとは明らかに異なる構造をしているほか、艦載機にも独自性が見られます。そのコンセプトについて出展企業に話を聞きました。

韓国空母の新プランはカタパルト射出OK

 韓国南部の釜山市にあるコンベンションセンターBEXCOにて2023年6月7日、MADEX(国際海上防衛産業展示会)2023が開催されました。会場には同国に拠点を置く防衛関連の企業が軒並み出展していましたが、中でも目を引いたのが、現代(ヒュンダイ)重工業のブースです。

 現代重工業は、韓国海軍の駆逐艦やフリゲートを始めとして、外国軍艦なども数多く手がけていることから、ブース内には同社が建造した軍艦のスケールモデルや、調査・開発中のコンセプトモデルなどが展示されていました。それら一連の展示物の中で特に注目を集めていたのが、多数の艦載機を搭載した大型空母(航空母艦)の模型です。

 韓国では2019年より自国海軍向けの空母導入プロジェクトを進めてきましたが、この模型は現代重工業がその計画に沿う形で立体化したコンセプト模型だといいます。

 船体サイズは満載排水量が3〜4万トン。甲板には発艦用のカタパルト2基と着艦用のアレスティング・ワイヤーが装備されており、規模こそ小さいもののアメリカ海軍が保有する大型空母と同じ、いわゆるCATOBAR(キャトーバー)方式となっています。

 甲板上には韓国のKAI(韓国航空宇宙産業)が開発中のKF-21「ポラメ」戦闘機の艦載型KF-21Nと、同社の国産ヘリコプター「スリオン」、それにアメリカのノースロップグラマン製E-2「ホークアイ」と思われる早期警戒機が並んでいました。

 右舷側には、イギリスのクイーン・エリザベス級航空母艦に採用された前後に分割した艦橋と、その間に2基の舷側エレベーターが見えます。艦橋の側面には八角形の板状のフェイズド・アレイ・レーダーらしき物と、その上部にはステルス性を考慮したアンテナマストも配置されています。

 全体的な印象としては、大きさこそ中型空母ですが、その中身は現代空母の最新トレンドを取り込んでいるという感じでした。

過去の空母プランも2つあり 何が違う?

 じつは現代重工業が空母のコンセプトモデルを発表したのは、今回が初めてではありません。今回展示されたモデルの名前は「CVX 3」で、これまでに「CVX 1」「CVX 2」という2モデルも披露されています。

「CVX 1」は全体が長方形の飛行甲板となっており、その上に搭載されている機体はSTOVL(短距離離陸垂直着陸)機であるアメリカ製のF-35B戦闘機が並べられていました。

 分類としては正規空母ではなく軽空母になり、類似の艦艇としてはアメリカ海軍の「アメリカ」級強襲揚陸艦や、現在空母へ改装中である海上自衛隊の護衛艦「かが」などが挙げられます。想定された排水量は3万3000トンだそうです。

「CVX 2」は想定排水量こそCVX 1と同じですが、飛行甲板が広くなり、艦首部分にはスキージャンプと呼ばれる航空機発艦用の傾斜路が設置され、CVX 1よりも効率的な航空機運用が可能になっています。また、飛行甲板が広くなったことで、航空機の発艦スペースの他に、ヘリコプター用の発着艦スポットも整備されています。

 このCVX 2に類似した空母としては、イギリス海軍の「クイーン・エリザベス」級航空母艦が挙げられます。

 今回、初お披露目されたCVX 3は、今までのコンセプトを発展させたもののようです。最も大きな変更点は艦載機の発着艦方式が前出のCATOBAR方式になった点で、これだとF-35Bが装備する可変式ノズルといった特別な仕様の航空機でなくとも運用が可能です。これにより戦闘機だけでなく早期警戒機など、より大きな固定翼機も運用できるようになるため、航空機運用能力に関してはもっとも長けたプランといえるでしょう。

 今までのコンセプト案を俯瞰して見ると、それらは艦の規模やデザインだけでなく、運用する航空機やその種類も大きく異なるのがわかります。そのため、これらは何か具体的な計画にフォーカスして作られたという印象はありません。

 なぜ、「現代重工業」はこのように多種多様なコンセプトプランを作っているのでしょうか。

コンセプトモデル作成の目的は建造能力の提示

 その一番の理由は、韓国での空母建造計画が時期によって変化しているからです。CVX1〜3の違いは、時々の考え方の変化をまさに反映しています。

 2019年より始まった空母建造計画は、当初は航空機運用力を兼ね備えた強襲揚陸艦クラスを想定していました。しかし、2021年には計画名がCVXに変更され、国産空母はより本格的なSTOVL方式のものへと拡充。さらに2022年には、韓国国産戦闘機KF-21の開発元であるKAIが、艦載機型「KF-21N」のコンセプト模型を発表したことで、これまで艦載機についてはF-35Bしか想定していなかったのが、それ以外の航空機を運用する可能性も考慮されるようになりました。

 その結果、アメリカやフランスの正規空母と同様のCATOBAR方式で計画される可能性まで出てきたと言えるでしょう。

「現代重工業」の担当者に、今回展示されたCVX 3のコンセプト模型についてハナシを聞くと、「我々がどのような要望にも対応できることをアピールしたもの」との回答でした。ただ、細部のスペックについてはノーコメントばかりで(艦載機の搭載機数も不明とのこと)、その多くが非公表か、そもそも具体的に内容が決まっていないような印象を筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は受けました。

 つまり、受注する可能性がある企業としては、計画の状況を見守りつつも、いざ建造が決まった際は、どのような要望にでも対応できるよう準備しているということなのでしょう。

 とはいえ、CVX計画については2022年の韓国の政権交代によって見直され、今年度はその予算も計上されていません。

 また、空母を実際に運用するには、船体以外にも整備する必要があるものが数多くあります。説明してくれた担当者も「航空機の選定と配備、パイロットや乗員の育成、継続運用の為の補給と整備ラインの構築、空母を運用するには、船以外に多くの決めるべき要素があります」と語っていました。

 空母は、その国の海軍にとっては、戦力以上に注目を集めるシンボル的な存在感を持つものです。アメリカ海軍は莫大な予算を掛けて世界最大規模の空母艦隊を複数維持し、中国海軍は急速なスピードで国産化と戦力化を進めています。海上自衛隊はアメリカ海兵隊のF-35Bで運用試験を行い、同機の運用能力を護衛艦「かが」付与すべく改修工事を実施中です。

 韓国の空母建造については、当初から同国海軍の規模に合わない計画だと言われていましたが、今回の現代重工業のような動きを見ていると、国内防衛企業での下準備は着々と進んでいるような印象を受けました。