アメリカでこのたび史上最速の飛行機を目指す実験機が披露されました。開発したのは新興企業のヘルメウス社。ただ、同社の目標はもっと先を見据えています。

戦闘機と同じエンジンを搭載

 アメリカの航空宇宙メーカーであるヘルメウス社が2024年3月、史上最速の偵察機「ブラックバード」の速度世界記録を破ることを目的に開発された新型機「クォーターホースMk.1」を発表しました。

 これは、技術実証試験プログラム「クォーターホース」シリーズにおける最初の実証テスト機になります。

 ヘルメウス社は、極超音速機の開発に特化した新興企業です。現在の軍用機市場には存在しない高速飛行が可能な無人機(ドローン)を提供しようとしており、「クォーターホース」シリーズは同社初の飛行試験プログラムになります。なお、将来的にはマッハ5以上の極超音速での作戦能力をもった軍用機型や旅客仕様なども実現を目指しているといいます。

 5月現在、「クォーターホース」シリーズは、地上試験用から飛行試験用まで計4機のテスト機開発とそれらを用いたフライトテストが計画されています。

・地上試験機型「クォーターホースMk.0」:航空機に搭載されるシステムや地上走行を試験するための地上試験機であり、2024年1月にプログラムを完了。

・最初の飛行試験型「クォーターホースMk.1」:このたび発表されたタイプで、2024年後半に飛行試験の開始を予定。F-5戦闘機と同じJ85ターボジェットエンジンを1基搭載し、遠隔操縦による離着陸などの基本的な飛行試験を担う。

・最初の超音速機型「クォーターホースMk.2」:F-15戦闘機と同じF100ターボファンエンジンを単発搭載した超音速機型で、2025年に初飛行を予定。初の超音速飛行とマッハ3による自律飛行を目指す。

・最終型「クォーターホースMk.3」:2026年に初飛行を予定しているモデル。ヘルメウス社開発の「キメラ」コンバインドサイクルエンジンを搭載することで、国際航空連盟(FAI)が認定し2024年現在、ギネス記録にもなっているロッキードSR-71「ブラックバード」の速度記録を更新するとともに、後の実用機型の技術開発・実証試験を行う計画です。

 ちなみに、SR-71の記録というのは、1976年7月28日に記録したマッハ3.3(約3529.56km/h)であり、「クォーターホースMk.3」はこれを上回ろうというものになります。

まずは自力で離着陸できなきゃ

 ただ、SR-71の速度記録を更新するという野心的な挑戦に関しては、さまざまな技術的課題を克服しなければなりません。特に重要なのが、低速と高速の両方に対応できるエンジンの開発です。

 単にSR-71の速度を超えるだけならば、1959年に製作された試験用のロケット機X-15や、宇宙往還機「スペースシャトル」などで達成済みです。しかし「クォーターホース」は、SR-71のように自力で離着陸可能な飛行機を目指しています。

 具体的には「ストレート15/25kmコース」という条件で計測が行われます。これは、空中に15kmから25kmの任意の距離で直線コースを設定し、コースの両端から1回ずつ計2回飛行、それら所要時間から平均速度を算出するというものであり、2回目の飛行は1回目を終えたら着陸せず、1時間以内に行うとも規定されています。

 この自力での離陸と高速度という2つの課題を解決するため、ヘルメウス社はコンバインドサイクルエンジン「キメラ」を独自開発する計画です。コンバインドサイクルエンジンとは、超音速飛行に適したラムジェットと、低速飛行に適したターボジェットの機能を組み合わせたものであり、ヘルメウス社では前出したF-5戦闘機搭載のJ85ターボジェットを原型に開発するとしています。

 また同社では、F-15戦闘機が搭載するF100ターボファンエンジンを原型にした、より強力なコンバインドサイクルエンジン「キメラ2」も企画しており、こちらではマッハ5の極超音速を狙う模様です。

「クォーターホース」シリーズおよび「キメラ」コンバインドエンジンは、極超音速飛行という航空技術の新たなフロンティアを切り開く挑戦といえるでしょう。

 なお、ヘルメウス社では、今後数年間にわたって行われる飛行試験の結果を踏まえて、極超音速軍用ドローン「ダークホース」を開発する構想です。他方でニューヨーク〜パリ間を90分で結ぶ極超音速旅客機「ハルシオン」というビジョンまで発表していることから、それらのファーストステップといえる「クォーターホースMk.1」の実機完成と試験飛行の成否には、世界の航空関係者が注目している模様です。