日野自動車が開発中の燃料電池トラック「日野プロフィア Z FCV」がジャパントラックショー2024に展示されました。担当者いわく、普及のカギは出力でも値段でもないとのこと。課題や展望などを聞いてきました。

重量級トラックも“排ガスゼロ” 時代に突入

 日野自動車は、パシフィコ横浜で2024年5月に開催された「ジャパントラックショー2024」に、10t大型トラック「プロフィア」の燃料電池仕様である「日野プロフィア Z FCV」を展示しました。

 FCV(燃料電池車)とは、車体に積んだ水素で化学反応を起こし、発生した電気で走る車です。電気駆動のクルマというと、一般的にはバッテリーに充電してそれを動力に用いるBEV(バッテリー式電気自動車)をイメージしがちですが、BEVはバッテリー容量や走行距離の問題から商業大型トラックには不向きとされています。代わりに注目されているのがFCVです。

 展示された「日野プロフィア Z FCV」は、日野自動車とトヨタ自動車が共同開発。外見上は後輪2軸・FR(フロントエンジン・後輪駆動)モデルである通常のプロフィアと同じに見えます。しかし、その内部は水素燃料電池で走る電動トラックとして改造されており、従来のディーゼルエンジンはもちろんのこと、トランスミッションや駆動シャフトなどもありません。

 代わりに、運転席下部には燃料を反応させて発電するトヨタ製FCスタックを搭載し、駆動系は後輪のシャフトと一体化したアクスルに集約されています。また、専用の大容量高圧水素タンクを運転席後部とシャシーの左右に合計6本搭載しています。

 なお、後輪の前後にはリチウムイオンバッテリーも搭載されていますが、こちらはFCスタックの発電量が足りない場合の補助や、回生ブレーキ時の充電用として副次的に利用される想定です。

すでに街中を走行中

 2024年現在、「日野プロフィア Z FCV」を物流の現場で実際に使う走行実証が行われています。この試みは1年前の2023年5月より実施されていて、参加企業はアサヒグループジャパンや西濃運輸、NEXT Logistics Japan、ヤマト運輸と、そうそうたる大手企業が名を連ねています。

 これら企業は、関東近郊の県を跨いだBtoBの輸送業務で「日野プロフィア Z FCV」を使い、そのデータが日野自動車にフィードバックされています。また親会社であるトヨタ自動車も、愛知県において物流センターから各工場の輸送業務で使用しているとのことでした。

 メーカー発表によれば「日野プロフィア Z FCV」の車体総重量は25tで、航続距離の目標値は約600km(注:都市間・市街地走行モードでのトヨタ・日野測定値)となっています。運転感覚はこれまでのディーゼル車両と同じで違和感がなく、一方でモーター駆動になったことで駆動音が低減され、加減速はスムーズになったことにより振動も軽減されてドライバーや積み荷への負担が減少したというメリットもある模様です。

 これら性能数値や利点、そして各社での業務運行を兼ねた走行実証を見ていると、FCVの大型トラックは一定の成功を収めているように思えます。しかし、すぐにも現在のディーゼル大型トラックに取って代わるワケではないようです。

車両性能よりも重要! 解決すべき課題が

「日野プロフィア Z FCV」で懸念されるのは大型FCVとしての水素の搭載量です。この車両の水素搭載量は一般的な乗用車サイズのFCVと比べ何倍にもなり、小規模な水素ステーションでは対応が難しいそうです。

 このような大型サイズのFCVを業務で日常的に運行する場合は、その運行工程の途中に大規模な水素ステーションがあることが絶対条件となり、どこでも燃料補給できるディーゼルトラックと比べて運用上の制限になってしまうといいます。

 展示ブースにいたメーカーの担当者も「現在の走行実証は、商品化への目処だけでなく、燃料電池の大型トラックの課題が何であるかを明確にするのが主目的といえます」と説明してくれました。

 今後、カーボンニュートラルやゼロ・エミッションの取り組みによって、排気ガスを出さないクリーンな電動トラックの需要は増えて行くと思われます。ただ、FCVを始めとしてどのタイプの電動車両も車両そのものの性能だけでなく、その運行を支えるインフラや、特性にあった新しい運用ノウハウが重要なカギになるのは間違いないようです。