島根県オリジナルのブドウの新品種「神紅」。
2021年に出荷が始まり、島根ぶどうの「次のエース」にと期待されています。
この「神紅」を新しい町の特産品にしようと取り組みを進めているのが、県西部の邑南町。栽培の担い手として移住者を呼び込み、「神紅」の生産を新たな定住対策としても位置づけています。

嶋村采音アナウンサー:
「たくさんなっていますね」
島根県農業技術センター・片寄志帆研究員:
「こちらが神々の国の紅いぶどう『神紅』になります」

島根県オリジナルのブドウの新品種「神紅」。
高級ブドウの代表格「シャインマスカット」と山梨県で開発された鮮やかな紅色が特徴の「ベニバラード」をかけ合わせて誕生し、2021年、出荷が始まりました。
島根ぶどうの「次のエース」として期待されていますが、栽培農家は現在53戸、出荷量は約6トンにとどまり、全国へ打って出るには、生産量の増加と認知度のアップが急務です。
「一番色が付いているのはこれの感じがするな」と、2023年に収穫されたばかりの「神紅」を試食した丸山知事。
見た目の美しさ、そして、味に魅了された様子でした。

島根県・丸山知事:
「皮の歯ごたえもあって、パリッとしています。じゃあ、もう1ついただきます」

緊張した面持ちで知事の試食を見つめていたのは、生産者の1人、辻聡志さん。
初めて収穫した「神紅」が、知事に太鼓判を押され、ホッとした様子です。

生産者・辻聡志さん:
「神紅というぶどうはすごい年月をかけて、ようやく苦労して、出荷が始まったブドウなので、”思いのバトン”というのを受け継いで、いいものを作っていけたらと思います」

辻さんが暮らす邑南町。島根のブドウどころと言えば、出雲市や益田市が知られていますが、「神紅」に限って言えば、邑南町は主要産地の一つ。
現在9戸の農家が栽培に取り組んでいます。
この日は、辻さんの農園で、近くの子どもたちが収穫を体験しました。

生産者・辻聡志さん:
「神紅というブドウの産地化を邑南町はしていくんだという取り組みに、たまたまご縁があって、その魅力に取りつかれて」

辻さんは、2019年、福岡からIターンしました。
大工として働いていましたが、邑南町が2020年にスタートした新規就農者受け入れ制度の第1期生として、3年間、研修してきました。
ここで「神紅」と出会い、今年、初めての出荷を迎えました。

生産者・辻聡志さん:
「やっとここまで来たかという感じです」

中国山地の山懐に抱かれた邑南町。
日中の寒暖差が大きく、「神紅」の栽培に適していることから、新たな特産品を目指し、3年前から、町を挙げて栽培に取り組んでいます。

邑南町産業支援課・白須寿さん:
「農業の生産量もどんどん減ってきて、所得も町としてだんだん減ってきます。魅力ある作物の導入が必要だということで、収入が確保できる見通しがある神紅に取り組みました」

その一環として、担い手確保を目指し邑南町が始めたのが「おーなんアグサポ隊」。
総務省の「地域おこし協力隊員」として最長3年間、給与が支払われ、この間に、ブドウ栽培の技術を学びます。
また、農家として独立するときには様々な経済的援助も受けられるなど、農業未経験でも、就農までを一からサポートする研修制度です。

邑南町産業支援課・白須寿さん:
「担い手の確保が最重要課題となっています。地域を維持するには、若い方が農業をしながら定住していただく」

邑南町では、2023年、約0.5トンを出荷。これを2030年には、これを6.8トンに伸ばすため、農地の整備を進め、さらに新規就農者を呼び込もうとしています。

生産者・辻聡志さん:
「この町は時間をかけて人を育てて、しっかり学んで農家としてやっていけるような土台作りをきっちりしているのでありがたいです。お金自体は、地域おこし協力隊の報酬と個人的にアルバイトしたり。3年間研修があるので、3年間お金が保障されている間に、子育てやいろんなところを回って研修したりとかできる」

シングルファザーとして、9歳の息子の子育てと仕事の両立を考えていた辻さんにとって、邑南町の研修制度と移住直後の経済的なサポートはまさに”渡りに船”だったといいます。

生産者・辻聡志さん:
「(3年間は)おもしろすぎてあっという間でした。ここまで来るのに3年と半年ぐらいかかったので、感無量というか、感慨深い。いろんな人に助けてもらいながら、アドバイスをもらいながらやっとここまで来たという感じです」

辻さんが育てた神紅は、予約分だけで完売。ぶどう産地の山梨などにも出荷しました。

生産者・辻聡志さん:
「めっちゃおいしいと何件かいただいたので、それを見るとテンション上がります。さらに範囲を広げていきたいと思います」

新規就農者を育てながら、生産拡大を目指す「神紅」。
県も邑南町に対し、栽培ハウスの整備などの事業費として約4000万円を助成するなど支援しています。

島根県・丸山知事:
「県としても最大限支援をしていきたいと。産業の活性化、そして、若い方の定住につながっていっていると、大いに期待しております。高い値段で売れるように検討して、取り組んでいこうと思っています」

独立1年目を終え、辻さんの次の目標は?

生産者・辻聡志さん:
「『恩返し』です。やっとぶどうの房がなって、これから(来年以降も)収穫が増えていきますので、まずは地域の方に恩返ししていきながら、邑南町も盛り上げていきながら、もっと言えば、島根県も盛り上げていけたらなと思います」

新たな特産品「神紅」を人口定住、地域活性化のきっかけに。
島根ぶどうの”次のエース”に大きな期待が寄せられています。