国土交通省の所長の証言

愛知を拠点に三菱航空機が開発していた国産初のジェット旅客機「スペースジェット」。かつてはMRJと呼ばれ、ニッポンの航空産業の中核として量産化が期待されていましたが2023年2月、ついに計画の中止が発表されました。

夢の開発プロジェクトがなぜ頓挫したのか。国交省の審査トップが証言しました。

開発中止の判断に至った理由は、機体の安全性に関する「お墨付き」、「型式証明」が取得できなかったためでした。

型式証明を取るには、その機体を飛ばす国ごとに審査を受けなければなりません。日本の型式証明を発行するのは国土交通省です。

審査センターのトップが振り返る

スペースジェット(MRJ)

国土交通省、航空機技術審査センターの清水哲 所長は、2021年から計画中止までの約2年、スペースジェットの審査を担当していました。

国交省 清水 所長:
「型式証明は設計が安全である、環境適合性を満たしているか、すべてが適合したことを確認できないと型式証明は出せません」

日本の型式証明を取得するには、操縦性、主翼などの構造、電気系統の電装などあわせて9つの分野で審査を受け、それにすべて合格しなくてはいけません。

<9つの分野>
●飛行性:性能、操縦性、安定性
●構造:主翼、胴体、尾翼
●機装:操縦系統、与圧系統、油圧系統
●客室安全:座席、耐火性、非常脱出
●動装:エンジン、燃料系統
●電装:電気系統、飛行計画、航法装置
●安全性評価:安全性評価、開発保証
●製造:製造品質、委託先管理
●認定事業場:認定事業場、管理監督

ただスペースジェットの場合、三菱航空機から国土交通省に、ある「申し出」があったといいます。

清水 所長:
「国土交通省航空局が設計国、製造国の政府としてスペースジェットが安全であり、かつ環境適合性を持っていることを一義的に証明する責任を負っている。その上で、スペースジェットの場合、アメリカに輸出することを三菱重工が考えていたので、併せてアメリカの航空局であるFAAに対しても型式証明の申請をしていた」

一般的にはまず製造国の日本が安全を確認し、型式証明を発行。その上で、輸出先のアメリカに型式証明を申請します。

仮にこの時、アメリカ側から機体の設計変更を求められれば、対応しなければなりません。このため三菱航空機は、日本とアメリカの両国で並行して審査を受け、まとめて両国の型式証明を取得しようと考えたのです。

最後まで混乱が続く

−40度の耐久性

2016年、アメリカのワシントン州、モーゼスレイクの飛行場にMRJの試作機が運ばれました。ここで三菱航空機は、型式証明取得のための様々な試験を重ねました。

ところが、審査の現場は最後の最後まで混乱が続いていたと清水さんは話します。

――国交省として型式証明は出せないレベルでしたか?

清水 所長:
「その判断ができるところまで、まだいっていなかった。そこまで審査や開発が進んでいない状況」

――何合目まで到達していましたか?

清水 所長:
「途中で試験に失敗すれば、また設計にフィードバック(戻す)しますので、そこでまた(提出する)文章の数が増えます。何合目かは一概には。少なくとも10合目には達していない」

証明の方法は示されていなかった

耐空性審査要領 第3章の強度の項目

清水所長が担当していた2021年の段階でもなお、その状態。型式証明の審査とはどのようなものだったのか。

こちらは(画像)国土交通省の耐空性審査要領の一部。第3章の強度の項目には、次のような記載があります。

【構造は終極荷重に対して少なくとも3秒間は破壊することなく耐えるものか、又は負荷の実際の状態に模した動的試験によって十分な強度が証明されるものでなければならない。】

つまり、終極荷重、飛行中の機体にかかる最大値の1.5倍の荷重を加えても、3秒以上耐えられることを証明しなければならない。という意味です。

ただその証明の方法は示されていません。

清水 所長:
「我々からここの部分はダメですと言った時に、我々が想定している内容ではない直し方をしてくることは当然ございます」

知見の不足で手戻りが発生

言葉に詰まる清水 所長

――三菱航空機に知見がないと感じる部分はありましたか?

清水 所長:
「あまり申し上げると審査の個別の話になってしまうので申し上げられませんけれども………

そうですね………。

それ(知見不足)で、手戻りが起こってしまったと思い当たる節はあります」

三菱重工が国土交通省に型式証明の申請をしたのは2007年。そこから2023年までの16年間に6度にわたって機体の大幅な設計変更が行われました。

しかしそれでも、型式証明は手に入りませんでした。それが現実でした。

清水 所長:
「(計画中止は)事業性が見い出せなくなったと説明されています。続けていれば、(型式証明は)取れたのだろうと思います。個人的には」