静岡県知事選の争点に浮上しているのが県が浜松市に整備する「新野球場」についてです。川勝前知事の肝いり事業でしたが、紆余曲折をたどる大型プロジェクト。各候補者はどう向き合っているのでしょうか。

知事選に立候補しているのは、届け出順にいずれも新人で

諸派の横山正文候補56歳。

共産党の森大介候補55歳。

無所属で立憲民主党と国民民主党が推薦する鈴木康友候補66歳。

無所属で自民党が推薦する大村慎一候補60歳。

無所属の村上猛候補73歳。

無所属の浜中都己候補62歳

の6人です。

県が浜松市中央区の遠州灘海浜公園・篠原地区に整備する予定の新野球場。この構想は2014年、当時、スズキの鈴木修会長ら浜松経済界の要望をうけて川勝知事(当時)が建設の意向を示し、当初は2020年の完成を目指していました。

ところが、地元の理解が進んでいないことや建設費の高騰を理由に、2016年 県議会では野球場の関連予算を減額する修正案が可決。予算案が修正されたのは県政史上初めての事態でした。

(川勝知事・当時)

「野球場というのは防災機能も合わせて持つ、そのためにつくる。これは進めなくてはならないマストな仕事であるという気持ちに変わりはない」

そもそも新野球場構想は、県西部に県営球場がないことや市営の浜松球場も老朽化が進むことから浮上したものでした。しかし、建設予定地は浜松駅から約8キロ、車で20分ほど離れたアクセスの悪い場所にあります。

さらに、南海トラフ地震で2メートル未満の津波の浸水想定区域です。構想はその後、コロナ禍で県の財政がひっ迫し見直しに…。また、近くで産卵するアカウミガメに影響を及ぼすとしてナイター照明のある屋外の球場は候補から外されました。

紆余曲折をたどる中、浜松の経済界が強く要望したのが、プロ野球が開催できる2万2000人規模の「多目的ドーム型スタジアム」の建設でした。

これに対し、川勝知事(当時)は前向きな姿勢を示していました。

(川勝知事・当時)

「ドームとはまだ決まっていませんが、そうしたものであった方が望ましいという方向に向いてるなという感触を持っています」

しかし、ドーム型の場合県が示した概算の建設費は370億円に…。一番費用が抑えられる1万3000人規模の屋外型に比べると5倍以上になります。地元の野球関係者はどう考えているのでしょうか。

(藤田 裕光 NPO法人理事長)

「熱中症、水分補給。気を付けて。今が一番怖いからね」

中学生の練習を見守っていたのは藤田裕光さん。元浜松市立高校野球部の監督で現在は、部活動の地域移行をサポートするNPO法人を運営しています。藤田さんが求めるのは今の「浜松球場の改修」または「屋外型の新野球場」です。

( NPO法人 静岡ジュニアスポーツアカデミー 藤田 裕光 理事長)

「浜松球場は大切にしてほしいという思いがあります。ただもしかわるのであれば市民にとって、野球を愛する子どもから大人までが使い勝手のいい野球場であってほしいと思います」

ドーム型の利用料は空調料金を含めると、浜松球場の4倍ほどとなる1日 約18万円と見込まれています。

(中学生の保護者)

「ドーム球場だと使うにしても費用が高くなってしまうし」「みんなが利用しやすいというところを一番に考えてほしいと思います」

(中学生の保護者)

「屋外型の方が、使う方としては値段も安くていいのではないかなと思っています」

一方、浜松市の中野市長は「ドーム」を核としたまちづくりでにぎわいを創り出したいと経済界とともにドーム型を求めています。

(浜松市 中野 祐介 市長)

「さまざまなスポーツ、イベントにも使えるような施設を西部地域にほしいということで」「単に野球場ということではなくて、多目的なドーム型のスタジアムで県に整備をお願いしたい」

新野球場について各候補者はどう考えているのでしょうか。

浜松市長時代からドーム型の球場を要望していた鈴木康友候補。出馬会見では新たな構想を披露しました。

(鈴木 康友 候補)

「開放型のドーム球場にすれば370億円と言われている建設コストはかかりませんし」「サブ球場を含めて周辺整備は浜松市が担う。つまり県だけにやってもらうのではなく県と市で合わせてやっていく」

選挙戦に入り鈴木候補は「開放型ドーム」はコストダウンを図るための一つの提案として、エリア全体をどのように開発していくか、浜松市と「調整会議」を開く考えを示しています。

(鈴木 康友 候補)

「これからのスポーツ施設というのは一つの核を中心にいろいろな付帯施設と合わせた集客施設を、北広島のエスコンフィールドのようなですね」「県・市合わせて一体となってどういう施設にしていくかということを考えていく必要があるので、そういう場(調整会議)ができればいいかなと思っています」

4月、新野球場の建設予定地を視察した元副知事の大村慎一候補。当初は「地域の声を聞いて検討する」考えを示していましたが、5月に入ると、ドーム型ありきの議論をけん制しました。

(大村 慎一 候補)

「野球場は必要だと思います。老朽化していますし、県営球場が西部にありません。しかしドームありきの議論というのはこれはストップすべきだと思います」

県西部に新野球場を造ることには賛成としながらも、ドーム型の場合、資材の高騰でさらに建設費が上がる可能性があるとして、事業の妥当性や費用対効果を「ゼロベースで再検証する」と訴えています。

(大村 慎一 候補)

「プロセスがよくわからないドーム、収益もよくわからない」「透明な開かれたプロセスでやることで、ほかの地域の皆様の理解も得られます」「浜松のドーム球場についてはゼロベースで見直して最速で野球場を整備します」

一方、共産党の森大介候補は「新野球場の建設は中止すべき」との立場です。

(森 大介 候補)

「災害リスクのある地域です。さらに近くにはアカウミガメの産卵場所があり、その影響も計り知れません」

森候補は、現在の浜松球場を改修し、野球場の財源を使って「学校給食の無償化」を実現させたいと話します。

(森 大介 候補)

「370億円の野球場をつくるよりも子育て支援にもっと力を入れるべきだと訴えていて」「県民の幸せにつながるような予算の使い方をすべきじゃないかと訴えています」

構想が浮上して10年新野球場の行方は、新たな知事に委ねられることになります。

(スタジオ解説)

(徳増ないる キャスター)

紆余曲折をたどる新野球場計画ですが現状について教えてください、澤井さん!

(澤井 志帆 キャスター)

現在、県は3つの案を示しています。浜松の経済界が要望する2万2000人規模のドーム型の場合、概算の建設費は370億円。これは、一番費用が抑えられる1万3000人規模の屋外型に比べ、5倍以上となります。ドーム型は天候に左右されず、さまざまなイベントが開催できますが、多額の建設コストに見合った採算がとれるのか見通せず、慎重な声も根強く残っています。また、建設予定地は浜松駅から約8キロ、車で20分ほどの場所にあり、利便性が良くないという声や津波の浸水想定区域にあることへの懸念の声も根強く残っていて、意見の集約は難航することが予想されます。

(津川 祥吾 アンカー)

新野球場…浜松の市長は必ずしも野球場ではないという言い方をしていますが、岡田さんはこの分野の専門ですが、県の今の段階で示されている3つの案はどのように感じますか?

(コメンテーター 岡田 真理さん)

大前提として私は野球関係者なので、野球場ができるという話に関しては非常に喜ばしいことだなあと受け止めているのですが、やはりどのプランも様々な課題があるなあと思っていまして…。

まず、ドーム型ですね、これに関しては370億円という費用がかかるということで、何に使うのかというところが非常に気になりますけれども、例えばですね、仮に、静岡にある「くふうハヤテ」がここを本拠地として1軍を目指す…とか、そいういったプランがあるのであれば、何となく使途のイメージがわくのですが、基本的にはここを本拠地とするチームはないわけで、エンターテインメントに使えればいいじゃないかという話もありますけれども、今、ライブというのはなかなかお客さんが入らなくて、ドームツアーをやるアーティストさんも非常に少なくなっているという話も音楽関係者から聞きますので、継続的な使い道はあるのかというところが非常に懸念されるかなあと思いますね。

また、屋外型に関しては、やはり海に近い場所ということで、私もよく千葉の「マリンスタジアム」に取材に行くことがあるのですけれども、あそこも正に海の目の前でですね、なかなかフライが取れないと、そういくことも発生しまして、ちょっと子どもたちが野球をする環境…と考えると、なかなか厳しいところがあるのかなという感じもします。

(津川 祥吾 アンカー)

一部で出ている「開放型ドーム」、「西武ドーム」みたいなイメージだと思いますが、あれだとどうなりますか?

(コメンテーター 岡田 真理さん)

あれはですね、私が今まで行ったなかでの経験なのですけれども、埼玉の球場というのは山の中にあるんですね、なので空気がこもってサウナ状態になって…観戦するのも、もちろんプレーするのも大変なんです。なので、ちょっと私はあまりオススメできないかなと、まあ海の近くなので風はあると思うんですけれど、すき間がある状態でどうなるか、まだ建設してみないとわからないと…。

(津川 祥吾 アンカー)

いずれにしても、まだいろいろ課題があるから、それをクリアしていかなければならないということですね。

(澤井 志帆 キャスター)

番組では知事選についての視聴者アンケートを募集し、548人の方から回答をいただきました。ありがとうございました。

野球場整備ついての考えを聞いたところ、約3分の1の人が「整備そのものに反対」と回答しました。

次に「ドーム型の野球場」を求める人は25パーセント、「どちらとも言えない、わからない」と答えた人もほぼ同じ割合でした。

一方「ドームではない屋外型の野球場」と答えた人は8パーセントでした。