国土交通省のデータによれば、2030年には男性で3.6人に1人、女性で5.3人に1人が生涯未婚という予測も。コロナ禍でひとり時間が増えたことが後押しし、“ソロ活”人気は、ここ数年で急激に高まっている。そして、究極のソロ活といえる“おひとりさま”も、人生の選択肢のひとつに…。

「テレ東プラス」は、エッセイストの岸本葉子さんをインタビューし、前後編に渡ってお届け。著書「ひとり老後、賢く楽しむ」(だいわ文庫)にスポットを当て、前編では、“ひとり老後”を楽しく過ごすための“準備と考え方3カ条”を紹介した。
後編では、岸本さんが、ひとり老後を満喫している方の面白エピソードやこれから老後を迎える“若い世代に向けたアドバイス”を伝授する。

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ソロ活後編▲エッセイスト・岸本葉子さん

トイレ掃除で“徳を積む”ゴミ拾いで小さな幸せを


――「ひとり老後、賢く楽しむ」では、岸本さんが50〜90代までの方々を取材しています。特に印象に残っている方のエピソードを教えてください。

「メイクレッスンで新たな自分と出会った方やシルバー人材センターのお仕事で輝く方など、皆さんそれぞれ印象的ですが、“趣味はトイレ掃除”という50代男性のエピソードは、大変興味深かったですね。
歳を取ったら社会還元…これをすでに趣味の中で取り入れていて、たまたま出先で汚れているトイレを掃除してみたら『すごく気持ち良かった!』と。それがきっかけとなり、『出先でも、なるべくちょっときれいにするようにしています』とおっしゃっていて、正直、最初はピンとこなかったんですよ(笑)。でも話を聞いているうちに、“トイレ掃除が好きと言えるのがすごい! きっとこの方、知らない間にたくさん徳を積んでいるんだろうな”と思えてきて…。私も少しまねしたくなりました(笑)」
――「トイレ掃除」のお話は、私も読んでいて感動しました。ただご本人は、“徳を積んでいる”という意識はないのでしょうね。

「そうですね。ただ、物事を継続するには何かしらの理由がありますよね。私が想像するに、“何か良い流れが生まれているのでは?”と。例えばトイレ掃除をした後は、ちょっとしたいいことがある(笑)など、そういう手応えがあったのではないかなと想像します。
本来は、ご利益目的でお参りしてはいけないのと同じで、“いいことがあったから〇〇をする”となってはいけないですよね。でも私自身、ゴミ拾いなどをしてみると、何かしらいいことがあるような気がしてならないのです。
例えばお弁当屋さんに向かう時、“あれが残っていたらいいな〜”と思っていたら、その商品が残っていた、さらにそれを買おうとしたら、店員さんが目の前に来て、2割引きのシールを貼ってくれたとか(笑)。いいことって、本当にその程度のことなんですけどね」

――小さなラッキー!(笑) たしかに、老後もそうやって考えることができたら幸せですね。

「そうなんです。だから私も、スポーツ中継で、競技会場や選手のロッカー内にゴミが一つもない様子が映ると、つい感化されてゴミ拾いを…。トイレ掃除と同じでとても不思議ですが、一度やると、怠った時に運気が下がるような気がするんですよ(笑)」

――岸本さんからご覧になって、“ひとり老後”を満喫している皆さんに、共通点はありましたか?

皆さんオープンマインドでしたね。すごく、いろいろ話してくださいました。
オープンマインドとは、“必要に応じて自己開示できる”ということ。ですから助けも得やすいし、情報も入ってきやすい。そう考えると、オープンマインドであることは大事ですね」

ソロ活後編
――年齢問わず、例えば若い世代でも、何でも話してくれる後輩と心を閉ざしてしまっている後輩とでは、サポートやアドバイスする際に違いが生まれそうです。

「実は私も、昔は何でも自分の力で解決しようとする性格でした。電化製品のセッティングも誰にも頼まず、黙々と取説と格闘するタイプ(笑)。でも年齢とともに、自助努力一辺倒ではなくなりましたね。“私はこれに困っている。こういうことが好き”と言葉にしていくと、自然といろいろなご縁に恵まれるようになります。
仕事においても、年齢問わず、言葉にすることは大事ですよね。助けを求められず1人で抱え込むと、パンクしてしまいますから」
――ここからは、編集部に寄せられた“ひとり老後”にまつわるお悩みを、岸本さんにぶつけてこうと思います。

Q:老後に備え「2000万円の貯金が必要」と言われていましたが、果たして本当でしょうか。

「よく言われる“老後資金2000万円問題”ですね。結局必要な金額は、自分がいつまで働くか、いつまで生きるかによって変わりますよね。例えば、60歳まで働いて90歳で亡くなるとすると、残された時間は360カ月。自分が営んできた家計の規模が15万円だったら15×360=5400万円が必要で、“年金と貯金だけでは賄えないから、70歳まで働こう!”となると、必要な貯金額はそこでまた変わります。
『2000万円必要』と言われても、急に貯金が増えるわけではないので、決まった金額の中でやっていくしかない。前編でもお話しした『不安になったら調べる』がここでも必要で、“UR賃貸住宅や公営住宅なら安く入居できるのか、低所得者への優遇はあるか”など、細分化して調べておき、家計をいくらサイズダウンすれば暮らしていけるのか、その上でいくら足りないのかをはじき出し、備えることになると思います」

ソロ活後編
Q:人間関係は、年齢とともに整理するべき?

「若いうちから“減らしていかなきゃ”と深く考えず、その時、その時の付き合い方でいいのではないでしょうか。社交がものすごく楽しい時期であれば、連絡先もバンバン交換して、つながっていけばいい。“もう体力的に無理!”であれば、減らしていけばいい。
私自身は人生の残り時間を考える歳になり、ストレスになる人間関係はなるべく持たないようにしています。今は、一緒に楽しめる人との関係を大切にしたいから。
本の中で取材した男性は、“相談事がある時、『夜に会おう』と言う人は信用できない。『昼にしないか』と返して承諾すれば信用する”と話していました。それぞれ状況が違うので、一概に乱暴なことは言えませんが、試してみるのも一つの手かもしれません。
ただ、時間が人を変えていくことはあるし、その時々で関係性も変わりますよね。距離を詰めない一方で、“この人とは一生ダメ”とも決めつけず、時の流れに任せるゆとりも持っていたいですね」


Q:最後に、40〜50代でソロ活を楽しんでいる読者へ、“ひとり老後”に向けたアドバイスをお願いします!

「まずは、“ソロ活を存分に楽しんでほしい”が大前提。そしてそれができるのは、“周囲の人々の支えがあるからなんだよ”ということを忘れずにいてほしいです。
例えばソロキャンプができるのも、キャンプ用品を配達してくれる人、キャンプ場で点検してくれる人がいるからこそ成り立つわけで、ソロ活を楽しむことができるのは、人のネットワークや働きによって支えられているのだということを念頭におく。そうすることで、老後も自分にできる、人に役に立つことが見つけられるような気がします。
前でもお話ししましたが、長くソロ社会で生きていくためには、コミュニケーション力がものすごく問われますから

40〜50代は老後を気にし始める時期でもありますが、あまり準備にとらわれないでほしいですね。まずは後悔がないように、存分に楽しんでください。そして、目の前の一つひとつに全力を尽くすこと。筋トレに例えるとしたら、老後を見据えた基礎体力や筋力がつく時期でもある。今から鍛えておけば、きっと将来思いがけない事態に遭遇しても、解決できる力を発揮できると思います」

ソロ活後編
「ひとり老後、賢く楽しむ」(だいわ文庫)

【岸本葉子 プロフィール】
エッセイスト。1961年神奈川県生まれ。大学卒業後、会社勤務、中国留学を経て、執筆活動に入る。食や暮らしのスタイルの提案を含む生活エッセイや、旅を題材にしたエッセイを多く発表。同世代の女性を中心に支持を得ている。
著書に『ちょっと早めの老い支度』(オレンジページ)、『もっとスッキリ暮らしたい ためない心の整理術』(文春文庫)、『50歳になるって、あんがい、楽しい。』(だいわ文庫)、『人生後半、はじめまして』(中央公論新社)など多数。

(取材・文/ふくだとも)