「今度の日曜はもう、選挙はないわよね」そんな風に私がホッとしていたのは月曜日、unificacion(ウニフィカシオン/統一)時間割で9試合が同時開催となった前日の夜、メトロポリターノから頭をクラクラさせて帰って来た疲れが抜けないまま、最終節の日曜も午後6時30分と9時の前後半2部に分かれただけの時間割を眺めていた時のことでした。いやあ、普段なら、マドリッド勢の試合が重なる時はオンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の多元中継が大きな味方となって、逐一、他会場の進行も伝えてくれるんですけどね。

それが先週の日曜は何の因果か、スペイン全国地方自治体選挙を被り、サッカー中継転じて選挙速報番組と化していたため、全国放送の大手局の実況を聞いていたところ、ええ、これがまた揃って9試合の実況カルーセルなんですよ。次々とカードが変わるせいで、ラージョもヘタフェもゴールの報をリアルタイムで聞き逃し、結局、アトレティコの試合が終わった後、ネットで両者共、勝利を挙げていたことを知ったんですが、またレアル・マドリー、アトレティコ、ラージョの試合が同時開催となる今週末も同じ思いはしたくなかったから。

といっても土曜に1カードだけ先駆けしたセビージャvsレアル・マドリー戦もオンダ・マドリッドにはかなりムゲにされていて、その日のその時間帯はRFEF1部(実質3部)の最終節とほぼ同時進行。2部直接昇格の可能性のあったアルコルコン(プレーオフ出場に)とサンセ(RFEF2部/実質4部に降格)とのダービー、RMカスティージャ(プレーオフ)、ラージョ・マハダオンダ(残留確定)、フエンラブラダ(同)ら、下部カテゴリーのマドリッド勢の多元実況にかまけていたため、途中で聴くのを止めてしまったという経緯もあったんですけどね。

もちろん、片や水曜午後9時(日本時間午後4時)からのEL決勝ローマ戦しか眼中にないセビージャ、片や来季のチーム構想の方がすでに話題のメインになっているマドリーの消化試合とあれば、それなりの扱いを受けても仕方ないんですが、一応、どんな試合だったかお伝えしていくことにすると。まあ、ブダペストでのSeptima(セプティマ/7回目のEL優勝のこと)達成に来季CL出場を懸けているメンディリバル監督がエン・ネシリやオカンポスといった主力を温存したのは当然だったんですけどね。ベンゼマ、ビニシウス、アセンシオ、マリアノとFW陣を大量に負傷で欠くことになったアンチェロッティ監督は先発にワントップのロドリゴを置いて、MFを5人並べる布陣でスタート。

守備陣の方は普通にルーカス・バスケス、ミリトン、アラバ、メンディだったんですが、いくらバケーションが近づいているからといって、眠ったままピッチに立ってはいけませんよね。ええ、開始からすぐの3分、EL準決勝ユベントス戦2ndレグでレッドカードを受けていたアクーニャが決勝に出られない悔しさを晴らすべしと、ドリブルでエリア内左奥に侵入するのを誰も止められず。その折り返しのパスがミリトンに当たり、ヘスス・ヒルのシュートも他のDFに当たって跳ね返ったものの、最後はラファ・ミルに撃ち込まれ、先制点を奪われてしまうのですから、もしやこれ、アウェイ3連敗目になる?

でも大丈夫だったんですよ。というのもボッチFWという重責にロドリゴが見事に応えてくれたおかげで、いえ、13分にはルーカス・バスケスからゴール前にラストパスをもらいながら、外してしまうなんてこともあったんですけどね。28分、敵エリア前からのFKをセビージャの壁が割れた隙間を縫って通し、ゴールにしてしまったから、ビックリしたの何のって。これで同点に追いついたマドリーは後半24分、得意の高速カウンターを発動させます。

ええ、それはセビージャのジョルダンが蹴ったFKをロドリゴがクリアしたことから始まり、モドリッチ、クロースと繋げ、最後は敵ゴール目掛けて爆走した当人がエリア内でモンティエルをかわすと、勝ち越しゴールも挙げてしまうって、何かと昨今はビニシウスばかりが注目されていたマドリーですけどね。1つ年下のブラジル人FWまで、ここまで成長していたとはホント、彼らの南米担当スカウト陣の目利きぶりには驚かされるばかりかと。

このdoblete(ドブレテ/1試合2ゴールのこと)で今季通算を19得点まで伸ばしたロドリゴは36分にルーカス・バスケスと共にリュディガー、ナチョと交代となり、その際には怒ったようなリアクションを見せてもいたんですけどね。アンチェロッティ監督によると、これは「él quería quedarse en el campo para intentar hacer el hat-trick/エル・ケリア・ケダールセ・エン・エル・カンポ・パラ・インテンタール・アセール・エル・ハットトリック(ハットトリックを達成するために彼はピッチに残りたがった)から、私たちは違う目標を持っていると言った。『君はゴールを入れたいだろうが、私は失点したくない』とね」ということだったよう。

もうこの時にはカンテラーノ(RMカスティージャの選手)の大型FW、アルバロ・ロドリゲスも入っていましたし、何よりその2分後にはセビージャが自爆。そう、アクーニャがEL決勝に出られない悔しさを今度はセバージョスへの強烈タックルに込めてしまい、レッドカードで退場させられたからですが、いやはや。同僚たちがモウリーニョ監督のチームとの死闘で疲れ果てた後に来る、場合によってはコンフェレンスリーグ出場権のもらえる7位ゲットが必要となるかもしれないリーガの最終節、レアル・ソシエダ戦にも出られなくなってしまったのではねえ。赴任して以来、リーガ11試合で4人も退場者を出しているメンディリバル監督が「ウチはピッチでもベンチでもならず者のように振舞っていてはいけない」と言っていたのも当然だった?

おかげでマドリーは長いロスタイム9分も無事にやり過ごし、そのまま1-2で逆転勝利。3位のアトレティコとの差を暫定で勝ち点4に広げたんですが、まあこちらは最終節まで楽しみに結果を待つとして、その日の夜には2部の最終節も行われ、1位と2位が決定。ええ、すでに残留が決定していた弟分、柴崎岳選手のいるレガネスに2-0と快勝したグラナダが1位となり、最短コースで1部復帰を決めただけでなく、アラベスとスコアレスドローしたラス・パルマスも2位で5年ぶりの復帰、残り1座席を争うプレーオフの準決勝はアルバセテvsレバンテ、エイバルvsアラベスという組み合わせに。今季は14位に終わったレガネスも早くこのグループに混じれることを祈っていますが、なかなか先行きが厳しそうなのはちょっと残念だったかと。

そして日曜はメトロポリターノでレアル・ソシエダ戦を見ることにした私だったんですが、シメオネ監督もアンチェロッティ監督を真似したようにグリーズマンのワントップ、FW1人の5-4-1体制でスタートしたのは単なる偶然の一致。これまでほとんど出場していなかったレギロンを左SBとして先発に使ったのは、「Queríamos que Kubo se enfrentara a un lateral y no a un extremo/ケリアモス・ケ・クボ・セ・エンフレンタラ・ア・ウン・ラテラル・イ・ノー・ア・ウン・エクストレーモ(久保のマッチアップはサイドハーフでなく、SBとさせたかった)」(シメオネ監督)という理由だったようですが、どうやらソシエダサイドも「前半は0-0で良かったから、もっと仕掛けようと思ったらできたけど、やらなかった」(久保建英選手)とあまり積極的でなかったのが幸い。

そう、ボールは持たれていたものの、前半37分にはデ・パウルの慧眼がまたしても輝いたんです。センターから彼が放ったロングパスに左サイドラインぎりぎりで追いついたグリーズマンがエリア内まで持ち込み、そこから対角線上に放ったシュートがすっぽりゴールに収まってくれたから、今季ホームで最後にプレーするアトレティコを応援に来たファンたちもどんなに喜んだことか。ただし、当人は「ソシエダは14才の時、フランスでどこのクラブにも入れなかったボクに門戸を開いてくれた。Si soy este jugador es gracias a ellos también/シー・ソイ・エステ・フガドール・エス・グラシアス・ア・エジョス・タンビエン(自分が今の選手になれたのは彼らのおかげでもあるから)」と祝いませんでしたけどね。

折しもその頃には、コリセウム・アルフォンソ・ペレスやエスタディオ・バジェカーノではキックオフ時から、ガンガン降っていた雨がメトロポリターノにも到着することに。ピッチに近い1階席に座っていた観客は気の毒なことになったんですが、この程度の雨に負けていては、前夜、ドシャ降りのブタルケ(レガネスのホーム)でコパ・デ・レイナ決勝のマドリーダービーを戦い、後半43分まで2-0とお隣さんにリードされながら、土壇場に2点を挙げて延長戦入り。日付が変わった深夜のPK戦でマドリーに勝って、根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)返し優勝し、ソシエダ戦前にはピッチでトロフィーを披露していた女子チームに笑われてしまうと、私も心配しちゃいましたからね。1-0とリードしてハーフタイムに入れたのは嬉しかったんですが、最近の彼らは1点差では安全圏と言えないのが玉に瑕。

そのせいもあって、後半25分に久保選手とイジャラメンディがアリ・チョとカルロス・フェルナンデスと代わるのと同時にレギロンがコレアに交代。その3分後にはコレアからのパスをグリーズマンがワンタッチでモリーナに繋ぎ、シメオネ監督が「Está entre los mejores laterales de LaLiga/エスタ・エントレ・ロス・メホーレス・ラテラレス・デ・ラ・リーガ(リーガで最高のSBの1人)」と絶賛する彼のシュートが決まって2点目が入った時には皆、安堵したかと思いますが、とんでもない。終盤、頸椎捻挫の治ったモラタとコンドグビアがピッチ脇で入るのを待っているうち、43分にはブライス・メンデスのスルーパスを受けたセルロートに1点を返され、何せ、3点リードしながら、追いつかれたエスパニョール戦はほんの3日前のことでしたからね。

結局、シメオネ監督は選手交代をせず、終了の笛が鳴るまでスタンドも一生懸命応援することになったんですが、いや、驚きました。だってえ、2-1で勝ったのはアトレティコなのに、試合が終わるやいなや、ソシエダ勢がピッチでただ事ではないハイな状態でお祝いを始めたんですよ。静かに場内一周で3位以上確定、来年のスペイン・スーパーカップ出場権ゲットを後押ししてくれたファンに感謝していたホームチームとは対照的に、「We are Real」と書かれたお祝いTシャツには着替えるわ、胴上げはするわと、そうです。彼らも4位以上が確定して、10年ぶりとなるCL出場が決まったということは…。

5位のビジャレアルがラージョに勝てなかったということじゃないですか。そこでイマノル監督がロッカールームでお祝いを続け、なかなか記者会見に出て来ない時間を利用して、バジェカスの試合をようやくチェックしてみたところ、0-0で前半を終えた後、後半10分にはチェバリアのクロスをRdT(ラウール・デ・トマス)がヘッドで先制点を挙げると、17分にはコメサニャがエリア内右奥から敵に競り勝って出したラストパスをイシが決めて、2点をリード。37分にはペドラサのクロスから、ロ・チェルソに頭で1点を返されたものの、2-1で逃げ切って、この試合前に来季は続投しないと発表したイラオラ監督、最後のホームゲームを勝利で飾っているんですから、立派じゃないですか。

これで12位から10位に上がり、コンフェレンスリーグ出場の7位まで、勝ち点差1とラージョができたのには弟分仲間のおかげもあって、いえ、残留が懸かっているヘタフェは何が何でも勝たないといけなかったんですけどね。再び、チームバスを大勢のファンがお出迎えしたコリセウム・アルフォンソ・ペレスにその7位のオサスナを迎えた彼らは開始2分、FKからアリダネ、チミ・アビラとヘッドを繋がれて1点を奪われたとラジオで聴いて、心臓が凍りそうな想いをさせられることに。

得点源のエネス・ウナルが前節のベティス戦でヒザの靭帯断裂、松葉杖をついて見学しているというのにどうするのかとヤキモキしながらも私が展開を追えていないうち、前半38分にはルイス・ミジャのクロスをリーガ初先発のラタサがヘッドで叩き込んで、同点にしていたんですよ。それどころか、引分けかと思われた後半45分にはボルダラス監督第1期の頼りになるエース、マタが1度はGKエレーラに弾かれながら、2度目に撃ったシュートをゴールにして、土壇場で2-1と勝利。胸を張ってコリセウムのファンに別れを告げていたのがわかった時にはどんなに嬉しかったことか。

この日はエスパニョールがバレンシアと引分け、降格2チーム目となったため、14位に上がったヘタフェは今週の日曜午後9時、勝ち点差2で18位にいるバジャドリーとの直接対決で負けても他会場の結果次第では残留可能となったんですが、まあ確実なのはドロー以上。日曜にバルサのカンプ・ノウ&ブスケツ、ジョルディ・アルバお別れ試合で負け、完全に目標のなくなったマジョルカと午後6時30分から対戦するラージョも7位の座を争うオサスナとジローナは直接対決、降格決定後、最強チームと化したエルチェに負けたアスレティックはサンティアゴ・ベルナベウでマドリーに挑むとあって結構、夢を見てもいい気がしますが、さて。ちなみにアトレティコは5位が確定したビジャレアルと当たるんですが、彼らの2位奪取とラージョの7位到達を両立させるにはお隣さんが引分けるのが最適解?果たして最終節はどんな結末に終わるのか、今からドキドキです。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。