暑さ寒さも彼岸までということで、朝晩が涼しくなってくる10月が近づいてくると、来シーズンの種牡馬の予約が始まります。昨年度はタイミングを逃してしまい、すでに一杯で予約できなかった種牡馬もいましたので、今年は先手で攻めていきたいと思っています。生産の世界に足を踏み入れてまだ2年目の若輩者であり、1年を通しての全体の流れが少しずつ見えてきたところですが、ひとつ失敗をして経験をすると、また次の課題が現れるといった具合に、まだまだ学ぶことはたくさんあります。

昨年はタイセイレジェンドとビッグアーサー、そしてチュウワウィザードと、種付けする馬だけを真面目に予約し、実際に種付けに行きました。ダートムーアはタイセイレジェンドを一発で受胎してくれ、スパツィアーレは1回目と2回目の排卵期にチュウワウィザードに種付けしてもらいました(残念ながら不受胎でしたが)。ビッグアーサーだけは、予約していたにもかかわらず、いつ問い合わせをしても「今日は枠が空いていない」ということで、結局のところ、一度も行くことができませんでした。

スタリオンによって、または(人気の)種牡馬によっては、予約していないと入れない(または予約してあると入りやすい)こともたしかにあるので、「もしかするとつけるかもしれないので念のため予約しておくわ」ぐらいの感覚で、生産者は種牡馬の予約をしているのです。美容院の予約とは訳が違うのです。ですから、予約していても一度も種付けに行かないこともありますし(キャンセルの必要さえありません)、予約していなくてもほとんどのスタリオンは当日の枠さえ空いていれば入ることができます。スタリオンも商売ですから、少しでも多く種付けをしたいわけであり、空きがあれば予約していなくても入れてくれるのは当然でしょう。つまり、生産者としては、予約なんてあってないようなものであり、とりま予約という感じでしょうか。そもそも、この時期はまだ種付け料さえ発表されていませんので、大体これぐらいになりそうだなと予想して予約しておくということです。

とはいえ、さすがに手あたり次第予約をするわけにはいきませんから、現実的に種牡馬候補を何頭かに絞り込まなければならないとなると、身が引き締まるのはたしかです。生産者の頭の中には1年中ずっと、どの種牡馬を配合するかという難問があり、その問いに関して考え続けているわけですが、そろそろ答えらしきものを出してくださいよと急かされる感じです。

今のところ、ダートムーアにはホッコータルマエかルヴァンスレーヴ、ナダルあたりを考えています。ダートムーアの仔はやはりダートを得意としていますので、ダート種牡馬かつ横幅と全体的なボリュームがアップしそうな3頭を考えています。昨年のタイセイレジェンドのように奇をてらった種牡馬ではなく、今年は買う側の気持ちも考えた上での種牡馬選びを心がけてみました。つまらないと言われたらそのとおりですが、まあ正攻法で攻めてみたいと思います。

スパツィアーレにはカラヴァッジオかフィエールマン、ハービンジャー、グレーターロンドン、ビッグアーサーなどを候補に挙げています。その中でも断然しっくりくると考えているのが、昨年から日本軽種牡馬農業協同組合で繋養されているカラヴァッジオです。管理していたエイダン・オブライエン調教師は「(フェニックスSの)最終追い切りで時速45マイル(約72・4キロ)を計時した。今までのバリードイル(大馬主クールモアの調教基地)で一番速い馬です」と語っており、しかも関係者からは「quick」という言葉が聞かれるように、スピードと瞬発力に秀でている種牡馬であることが分かります。

単なるスピード種牡馬であれば両手に余るほどいますが、瞬発力つまり一瞬のギアチェンジの速さを武器にする種牡馬は意外と少なく、まさに日本の芝のレースに合っていると思います。スパツィアーレはハーツクライやシンボリクリスエスといった重厚な血で構成されており、必要なのは軽さであり瞬発力です。芝の1200mからマイル戦を得意とする産駒をイメージしてカラヴァッジオを配合したいという想いは日に日に強くなっています。ただもし産駒のアグリがスプリンターズステークスを勝つようなことがあれば、予約が埋まってしまうかもしれません。1頭の産駒が大きなレースを勝つことで、予約段階からすでに種牡馬の人気が大きく左右されるのです。

(次回へ続く→)

著者:治郎丸敬之