平成以降、京都競馬場で宝塚記念がおこなわれたのは3回。メジロライアンがまさかの先行策で宿敵メジロマックイーンに完勝し、悲願のGⅠ初制覇を成し遂げた1991年。屈腱炎による長期休養を乗り越えたダンツシアトルが、驚愕の日本レコードで駆け抜けた1995年。そして、渋った馬場を問題にしなかったディープインパクトが、雨を切り裂くように突き抜けた2006年と、これらの名場面をつい昨日のことのように思い出すファンも決して少なくないのではないだろうか。

2024年の宝塚記念も18年前と同じく天候に恵まれず、馬場状態は重。出走13頭と、やや落ち着いた頭数にはなったものの、GⅠ馬が4頭、それ以外にGⅠ連対馬が4頭と、春先に有力馬の故障が相次いだことを思えば、十分なメンバーが揃った。その中で5歳の牡馬3頭が単勝10倍を切り、ドウデュースが1番人気に推された。

2022年のダービーを制し世代の頂点に立ったドウデュース。その後、GⅠの舞台ではなかなか結果を残せなかったものの、2023年の有馬記念で負傷による休養から復帰した武豊騎手とともに復活。見事、3つ目のビッグタイトルを獲得した。

前走のドバイターフは、出遅れた上に直線で前が詰まるなど敗因は明確。帰国初戦となる今回、4年連続のGⅠ制覇と秋春グランプリ制覇が懸かっていた。

これに続いたのがジャスティンパレス。3歳秋に神戸新聞杯を圧勝してから急激に成長したジャスティンパレスは、2023年の天皇賞(春)でGⅠ初制覇。以後、国内外のGⅠを4戦して勝ち星にこそ恵まれていないものの、すべて4着以内と堅実な成績を残している。

今回、騎乗するクリストフ・ルメール騎手とのコンビでは、過去4戦4勝と相性抜群。京都競馬場で、再びのGⅠ制覇を狙っていた。

そして、3番人気に推されたのがブローザホーン。GⅠ勝ちこそないものの、天皇賞(春)2着や好タイムで勝利した日経新春杯など、京都が得意なブローザホーンは、競走中止の4走前を除けば、7戦連続3着以内と安定した成績。過去に2度、渋った馬場で圧勝しており、その点も評価された。

騎乗する菅原明良騎手とは5戦連続のコンビ。人馬ともに悲願のGⅠ初制覇が懸かっていた。

レース概況

ゲートが開くと、全馬ほぼ揃ったスタートからダッシュ良くベラジオオペラが飛び出すところ、真ん中からカラテ。さらに、大外からルージュエヴァイユも先行し、1コーナーでルージュエヴァイユが先頭に立った。

2番手にプラダリアが上がり、カラテ、ベラジオオペラと続いて、2馬身差で7歳馬のヒートオンビートとディープボンドが仲良く追走。その後ろは、シュトルーヴェ、ジャスティンパレス、ソールオリエンスの3頭が横一線で並び、ローシャムパークを挟んだ最後方もヤマニンサンパ、ドウデュース、ブローザホーンの3頭が併走していた。

1000m通過は1分1秒0と、重馬場を考慮しても遅いペースで、前から後ろまでは10馬身ほど。その後、坂の上りで馬群がさらに凝縮すると、今度は下りを利してプラダリア、ベラジオオペラ、ローシャムパークと、前走大阪杯組が早くもスパート。この争いにジャスティンパレスとディープボンドが加わろうとする一方、依然ドウデュースは後方に構える中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、ルージュエヴァイユが逃げ込みを図ろうとするところ、外からプラダリアとベラジオオペラが襲いかかり、ベラジオオペラが単独先頭に立った。

ところが、それも束の間。さらに外、ラチ沿いに近いところからブローザホーンとソールオリエンスが勢いよく追い込み、残り100mでベラジオオペラを交わすと、最後は2馬身突き抜け1着でゴールイン。接戦の2着争いを制したのはソールオリエンスで、クビ差3着にベラジオオペラが続いた。

重馬場の勝ちタイムは2分12秒0。外ラチ沿いの攻防を制したブローザホーンが、菅原明良騎手、吉岡辰弥調教師とともに悲願のGⅠ初制覇。ゴール後、スタンドからは「アキラコール」が鳴り響いた。

各馬短評

1着 ブローザホーン

道中はドウデュースとともに後方を追走し、直線は思い切って大外へ。近年のGⅠでは珍しく、外ラチに近いところから豪快に差し切りビッグタイトルを獲得した。

得意の京都コースに道悪と複数の要素を味方につけたとはいえ、最後は2着以下を2馬身も突き放す完勝。3勝クラスを卒業してからわずか1年でGⅠ制覇と急速に力をつけており、秋、特に有馬記念では楽しみな存在になりそう。

2着 ソールオリエンス

この馬もまた道悪を味方につけ、菊花賞3着以来、久々の好走。皐月賞の勝利があまりにも鮮やかだった一方で、近3走は小回りの中山や阪神内回りのレースに出走するも結果が出ていなかったが、実は直線の長いコースが力を発揮できる舞台なのかもしれない。

世代レベルが低いといわれている4歳世代。今回も5歳馬に先着を許したとはいえ、2、3着を確保したのは4歳馬。キタサンブラック産駒で早熟とは考えにくく、これを機に再び上昇カーブを描くことを期待したい。

3着 ベラジオオペラ

内枠の馬では唯一掲示板に載り、勝ちにいくための早目スパートを考慮すれば、この馬が最も強い競馬をしたのではないだろうか。

過去8戦で唯一大敗した皐月賞と同じ重馬場ではあったものの、今回はベラジオオペラが力を発揮できるギリギリの馬場状態。それでも、ゴール前はさすがに疲れてしまったが、非常に中身の濃い内容で、引き続き秋以降の活躍が期待される。

レース総評

1000m通過は1分1秒0で、12秒9を挟み、同後半は58秒1=2分12秒0。坂の下りがあるとはいえ後半4ハロンはすべて11秒5前後のラップで、どちらかといえば瞬発力が求められるレースだった。ただ、道悪をこなせることが前提で、なおかつ枠順の差や直線の進路取りの差が顕著に出たレースだった。

勝ったブローザホーンは父がエピファネイアで、産駒はこの春GⅠ4勝目。他のGⅠは勝ち馬の父がすべてバラバラで、リーディング争いではキズナが首位に立っているものの、大舞台ではエピファネイア産駒の強さが際立っている。

一方、母父はデュランダルで、ダートのGⅠ級競走を4勝したチュウワウィザード(父はキングカメハメハ)以来のビッグレース制覇。そのデュランダルは、4、5歳時にマイルCSを連覇し、母オートクレールは6歳10月にオープンを卒業したほどの遅咲き。ブローザホーンが京都を得意としているのは母父から、やや晩成傾向ながら急速に力をつけてきた点は母から受け継いでいるのかもしれない。

また、ブローザホーンは牡馬にしてはかなり小柄な部類で、今回の馬体重は428kg。430kg未満、かつ牡・せん馬のGⅠ勝利は、2009年の有馬記念を制したドリームジャーニー以来15年ぶりだった。

対して、人気を集めた2頭、ドウデュースとジャスティンパレスは掲示板に載れず、それぞれ6、10着と敗れてしまった。

まず、ドウデュースに騎乗した武豊騎手は、レース後「道悪のせいにしたくない」と、そこに敗因を求めるようなことはしなかったが、3コーナーで自身のすぐ前にいた2頭が結果的には1、2着。また、直線では馬場の中央から上がり3位(1、2着馬が上がり最速)の末脚で伸びてきたものの、外を選択した馬に瞬発力で劣ってしまった。

枠の差もあったため、道悪がからっきし下手とまでは言えないものの、やはり上位入着馬とは巧拙の差が少なからず出た格好。良馬場のレースで見直しが必要であり、さらにいえば、ダービーと有馬記念はともに休み明け3戦目での勝利だった。近年のノーザンファーム生産馬では珍しい叩き良化型。前走からやや間隔が開いたことも影響したのかもしれない。

一方、2番人気のジャスティンパレスは10着。母系はどちらかといえばヨーロッパ色が強く、道悪をこなすのではないかと筆者は予想していたが、内枠を引いたとはいえ、思った以上に走れなかった。

近走成績や実力を考えれば、ここまで負ける馬ではないはず。良馬場での巻き返しを期待したいところだが、今回の敗戦がメンタルに影響していないことを願うばかりである。

そして最後に、ゴール後に起きた微笑ましい場面についても触れておきたい。

ブローザホーンに騎乗した菅原明良騎手は、デビュー6年目で嬉しいGⅠ初制覇。ゴール後、スタンド前に戻ってきた人馬に対し、場内からは「アキラコール」が沸き起こっていた。

美浦所属騎手が関西の競馬場でコールを受けるのは非常に珍しく、なんとも微笑ましい光景。菅原明騎手も馬上でガッツポーズを繰り返し、その度に笑みがこぼれていた。

勝利騎手を祝福する「○○コール」自体はそう珍しくなくなったが、その元祖といえば、1990年のダービーを中野栄治騎手とアイネスフウジンが逃げ切った際、196,517人(入場人員の世界レコードともいわれている)の大観衆から贈られた「ナカノコール」である。

ご存知のとおり中野騎手はその後、調教師に転身し、GⅠ2勝のトロットスターを管理するなど、調教師としてもJRA通算292勝。この3月に定年のため引退を迎えたが、中野厩舎最後の重賞勝利は、ブローザホーンで制した1月の日経新春杯だった。

34年前とは正反対の天気となったものの、盛り上がりや場内の熱気、勝者を称える気持ちはあの日と同じ。京都開催の宝塚記念で、また一つ名場面が生まれた瞬間だった。

写真:gpic

著者:齋藤 翔人