横浜ゴムはメディア向けタイヤ勉強会「2023 メディアミーティング」を開催しました。いくつかのカリキュラムがありましたが、中でも興味深かったのは新たなタイヤ規格「HLC(ハイロードキャパシティ)」のことです。HLCとはどんなものなのでしょうか。今までのタイヤとどう違うのでしょうか。

フルサイズSUVやEV/PHEVなど重量級のクルマに対応するタイヤ

 横浜ゴム(ヨコハマ)は2023年4月、神奈川県平塚市にある本社にて「2023年メディアミーティング」を開催しました。

 これはヨコハマが開催するメディア向けタイヤ勉強会で、毎年、北海道・旭川市にあるヨコハマの冬用タイヤテストコース「北海道タイヤテストセンター(TTCH)」でも開催されています。

 ただし、本社機能を移転したばかりの横浜ゴム平塚製造所での勉強会は、コロナ前の2019年以来の開催。今回は最新のタイヤ開発についてのヨコハマの取り組みを学びました。

 まず最初に清宮眞二取締役常務執行役員から、横浜ゴム中期経営計画についての説明があったあと、研究開発本部 研究開発部の桑島雅俊部長から「HLC規格」についてのプレゼンがありました。

 HLCとはなんなのでしょうか。それは「ハイロードキャパシティ」の略で、欧州では2021年に、ETRTO(エトルト。欧州タイヤ及びリム技術機構)により新規格化されています。

 いま、世界的にEVシフトが進んでいますが、それにともないクルマの重量がますます重くなっています。タイヤは重くなった車体を支えなければなりません。

 桑島氏はBMW「X1」を例に上げています。

 X1の内燃機関モデルがの車両重量が1575kgなのに対し、X1のプラグインハイブリッド(PHEV)は1930kgと内燃機関モデルよりも355kg増、BEVの「iX1」は2085kgとさらに155kg増と重くなり、それに伴いタイヤの負荷能力も大きくなっているといいます。

 また大型SUVの流行も、クルマの重量増大化に拍車をかけています。BMWの新型PHEV「XM」の車両重量は2710kg、ポルシェ「カイエンハイブリッド」は2540kgと、自動車メーカーからはさらなるタイヤの負荷能力増大が求められています。

 タイヤの負荷能力を上げるには、タイヤの外径や幅などを大きくして、さらに空気圧を高くすれば理論上はクリアできますが、クルマ自体を大きくすることやタイヤサイズを大きくすることは難しく、さらに乗り心地などのことを考えると空気圧も増やせない……ということになります。

 つまり同じタイヤサイズのまま、負荷能力(ロードインデックス)を増やす必要があります。これまでにも「XL(エクストラロード)」という規格がありますが、それでもEVなどの重さには不十分だといいます。

 XLを超える負荷能力を持つタイヤを開発してほしいという、一部自動車メーカーからの要求により登場したのが、新規格のHLCです。従来のXLタイヤよりさらに高い負荷能力を持つ、新たなタイヤサイズとして設定されました。

 たとえば245/40R19サイズの場合、スタンダードロード(通常のタイヤ規格)ではロードインデックスと速度記号が「94Y」、空気圧が250kPaの場合、負荷能力は670kgとなりますが、XL規格の場合は「98Y」、空気圧が290kPaで負荷能力は750kgとなります。さらにHLC規格では、ロードインデックスと速度記号は「101Y」となり、空気圧がXL規格と同じ290kPaでも不可能力は825kgとなります。

 HLC規格タイヤの場合、タイヤのサイドウォールのタイヤサイズ表記(例えば245/40R19 94Y)の先頭に「HL」が付き、「HL 245/40R19 101Y」と表記されます。

横浜ゴム 研究先行開発本部研究開発部長 桑島雅俊氏

 このHLCタイヤの設計には、高い荷重耐久性を持つだけでなく、静粛性や操縦安定性を確保する高度な技術が求められるといいます。重い車体を支えるだけでなく、耐摩耗性の向上、EVには不可欠の電費の向上、エンジン音のないEVだからこそのタイヤノイズの低騒音化など、さまざまな問題を解決しなければなりません。

 ヨコハマは、高荷重に起因する故障に対するシミュレーションを繰り返し、通常のタイヤに比べ高荷重時の発熱量とひずみが少なく、荷重耐久性と他性能とのバランスを実現するHLCタイヤ専用のプロファイルを開発、2023年3月から、HLCタイヤの生産・販売を開始しています。

 今後もこのままEVシフトが続けば、HLCタイヤの需要は高まっていくといいます。タイヤは見た感じどれも「黒くて円いゴム」ですが、クルマの進化や流行に対応し、さまざまに進化を続けていることを学んだ勉強会でした。