日本車は以前から、下から手を入れるフラット型(フラップ型)のドアハンドルが主流でしたが、輸入車、とくにドイツ車は、上からでも下からでも手を入れて握る「グリップ型」のドアハンドルが多く存在していました。しかし最近、ドイツのプレミアムブランドでも、フラット型や走行中は格納されるようなドアハンドルが多く登場しています。その理由はなんでしょうか。

先代の「グリップ型」から「フラット型」ドアハンドルに変更して登場したBMW新型「5シリーズ」

 先日、BMW新型「5シリーズ」が世界初公開されました。

 5シリーズは初代が1972年に登場したモデルで、今回登場した新型は8世代目となります。

 新型5シリーズは内燃機関モデル(ICE)のほかEVの「i5」も同時に発表するなど話題も豊富ですが、細かいところを見ていくとドアハンドルの形状が先代の「グリップ型」から、新型は「フラット型(フラップ型)」に変わっていることがわかります。

 近年、このようにドアハンドルのデザインにも新しい傾向が見られます。それはなぜなのでしょうか。

 エクステリアデザインを描くとき、ドアの外側に付くアウタードアハンドルは、デザインのひとつのポイントになります。ドアハンドルも含めてカッコ良く見せるのがカーデザイナーの腕になります。

 1990年代は輸入車を中心に、多くのクルマがグリップ型の「バータイプ」を採用していました。細いバーハンドルは、流れるようなデザインにもよく似合います。

 バータイプを早くから多くのモデルに採用していたメルセデス・ベンツは、事故で崖の下に落ちたクルマを引き上げるときに、4つのドアハンドルをロープで持ち上げればその車重に耐えられる、と言われていました。

 たしかにバータイプのドアハンドルは、指1本か2本引っ掛けるだけでも開けることができますし、手を上から握っても下から握っても開けることができるので、日常の使い勝手が良いので筆者は気に入っていました。

 またドアを閉めるときも、ドアハンドルを持って閉めることにより「ドスッ」といい音で閉めることができます。

 通常閉めたときの振動がドアパネルを震わせますが、ドアハンドルを持つ手と腕の筋肉が振動を吸収するので、振動が後に残らない閉まり音になります。

こんな背景もあってバータイプのドアハンドルが一世を風靡していました。しかし、ここ最近はフラットタイプが多くなってきました。

 メルセデス・ベンツは、最新の「Sクラス」から、走行中はボディとフラッシュサーフェースになるドアハンドルになり、最新の電気自動車「EQE」や「EQS」も同じフラットタイプになっています。

 ポルシェ「911カレラ」も、最新型はバータイプからフラットタイプになっています。閉まっているときはボディに埋まっていますが、ドアを開けるときは持ち上がってくるのでそれを引くタイプです。

 テスラはオリジナルモデルとして製造された「モデルS」からフラットタイプのドアハンドルを採用しています。

 その後に続々と追加された「モデルX」、「モデル3」、「モデルY」も、すべてがボディ表面に埋め込まれる完全なフラッシュサーフェースのフラットタイプになっています。

 もちろん、すべての新型車がフラットタイプになっているというわけではなく、たとえば2023年に日本に上陸したメルセデス・ベンツ新型「GLC」やフィアット新型「ドブロ」、またEVでも2024年に日本に登場する予定のVW新型「ID.BUZZ」などはグリップ型を採用しています。

近年フラット型が流行しているその理由とは?

 BMWも従来は基本的にバータイプのドアハンドルだったものが、新型5シリーズの例だけではなく最新型EVの「iX」、「i4」や「2シリーズクーペ」、そして新型「7シリーズ」もバータイプからフラットタイプになりました。

2024年に日本登場予定のVWのEV「ID.BUZZ」はグリップ型ドアハンドルを採用

 BMWの場合、ボディ表面と完全なフラッシュサーフェースになるのではなく、下から指を差し込むスペースが残されています。

 iXや7シリーズの場合は、そのスペースから指を入れ裏側のボタンを押すタイプです。2シリーズクーペや2シリーズアクティブツアラー、i4は、開いたスペースから指を入れ、フラップを引き上げて開けるタイプになっています。

 そうは言っても、まだまだ主流はバータイプのドアハンドルです。しかしEVやスポーツカーなど時代の最先端をいこうとするクルマが率先してフラップタイプやフラッシュサーフェースタイプのドアハンドルに移っているのが気になります。

 扱いやすさよりもフラットなボディを求めているのでしょうか?

 実質的なメリットとしてはふたつ考えられます。

 ひとつは空気抵抗を減らすことに効果が期待できます。燃費のためならほんの少しの抵抗でも減らしたいというエンジニアの気持ちの表れかもしれません。またEVの場合は少しでも電費を稼ぎたいという思いもあるでしょう。あるいはそう見せたいというポーズです。

 ただし、現実的にどれくらい空気抵抗が小さくなるものなのは疑問だと思っています。モード燃費に影響するほど変わるとは思えません。

 もうひとつは、全幅を小さくすることです。

 最近はどんどん車幅が広くなる傾向にあります。ボディ表面がフラットになっていても、そこにドアハンドルが付くとその分、車幅が広がってしまいます。

 ほとんどのクルマは車幅が一番広い部分はBピラー付近です。前席用のドアハンドルはBピラーに近いところにあるので、そのまま車幅が広がることになってしまいます。

 BMWの先代「3シリーズ(F30)」は、本国仕様の全幅は1817mmでしたが、日本の機械式駐車場事情を考慮して日本仕様の右ハンドルだけ厚みを薄くしたドアハンドルを採用し1800mmにおさえました。

 これは筆者の個人的な好みになってしまいますが、バータイプのドアハンドルが存続してもらいたいです。