マクラーレンの量産プラグインハイブリッド・スーパースポーツが、ついに日本の道を走り始めました。これまでのスポーツシリーズを上回るパフォーマンスを発揮しながら、スマホの電源オンと同じくらい静かに目を覚ますスーパースポーツカー。その実力を日本の公道でチェックします。

新時代のパワートレインはV6ツインターボ+モーター

 マクラーレンの新世代モデルがついに日本の道を走り始めました。その名は「アルトゥーラ」。マクラーレンのラインナップの中でも入門用というべきスポーツシリーズに相当するモデルです。

 アルトゥーラとは、“アート・オブ・デザイン”と“フューチャー・テクノロジー”をハイブリッドした造語で、その名称からも車両のコンセプトと性能が想像できます。

 ちなみに、これまでマクラーレンの車名といえば、数字とアルファベットのみというのが通例でしたが、最近ではモデルの区別をより分かりやすくするため、「スピードテール」や「セナ」、「エルバ」といった名称を用いるようになっています。

 アルトゥーラ最大の特徴は、プラグインハイブリッドのパワートレインを搭載すること。核となるエンジンは新開発の120度V型6気筒ツインターボで、エンジン単体でも585psを発生しますから、この時点ですでに先代モデルに当たる「570S」用のV8エンジンを上回っています。さらにこのパワートレインは、新型V6エンジンと新開発のデュアルクラッチ式8速ATとの間に95psの電気モーターを挟み込んでいます。

 7.4kWhのリチウムイオンバッテリーを組み込んだカーボンファイバー製のボディも、当然、新設計。バッテリー及びシステム補機類による重量増が気になるところですが、エンジンの気筒数が減って構造的なダイエットも進んだ結果、車両重量は1.5トン弱(DIN)に収まっています。軽量であることこそ、マクラーレン最大のレゾンデートルなのです。

 エンジンとモーターを統合したハイブリッドシステムの最高出力は実に680ps。最大トルクも720Nmですから、車両重量を考えると十二分以上の戦闘力を持つことがうかがえます。ちなみにマクラーレンの発表では、0→100km/h加速は3.0秒。電気モーターの瞬発力と車体パッケージの妙による優れたトラクション性能の賜物です。

 これまでのスポーツシリーズに対して全くヒケをとらないどころか、逆に上回るパフォーマンスを発揮。その上、EVモードでの航続距離も最長30kmに達するアルトゥーラは、まさにマクラーレンの新時代を告げるモデルといえるでしょう。

アシの働きが手にとるように分かる

 休日の早朝、スーパーカーのエンジンサウンドを盛大に響き渡らせる行為は、相当気が引けるものです。ですがアルトゥーラは、スマホの電源をオンするのと同じくらい静かに目を覚まします。

排圧を低減させるツインハイマウントエキゾーストシステムを装着

 例によって、マクラーレンのドライブモードはパワートレインとシャシー(ハンドリング)の2系統に分かれており、パワートレインにはトラック、スポーツ、コンフォートという従来の3モードにエレクトリックが新たに加わりました。シャシーは従来どおりトラック、スポーツ、コンフォートの3モードです。

 エレクトリックモードにおける電動可能距離は27kmほど。東京の都心であれば最寄りの首都高速もしくは主要高速道路の入り口までは十分に電動でまかなえるでしょう。そして、EV状態で静々と走るのがなんとも気持ちいい。マルチシリンダーエンジンの爆音をビルの谷間に響かせて喜んでいた昔の自分がみっともなく思えるほどです。

 市街路での乗り心地のよさは、マクラーレンの歴代ロードカーに受け継がれる美点のひとつ。ドイツ製の高性能なサルーンあたりよりも断然なめらかで、それでいてクルマ好きには好ましいソリッド感を伴っています。

 電動走行でパワートレイン系の静粛性が際立てば、その分、他のノイズが気になるはずですが、アルトゥーラは以前と変わらぬ快適性を保っています。さすがはスーパーカー界に“乗り心地革命”を起こしたマクラーレンの最新モデルだけのことはあります。タイヤやウインドウスクリーンにその工夫が散見されます。

 バッテリーに余力を残して高速道路に入り、制限速度を守って淡々とクルージングする限り、アルトゥーラはEV状態で走り続けます。見えない空気の壁をきれいに切り裂きながら突き進んでいるかのようで、乗り心地も相変わらず上々です。

 そして、バッテリー容量が残り6%を示す辺りでエンジンが目を覚ましました。しばらくコンディショニング(アイドリングに相当)した後、パワートレインとつながる感触がわずかに伝わってきました。両ドライブモードをコンフォートにして巡航を続けます。

 カーボンボディの恩恵のひとつで、アシがよく動いている状況が文字どおり手にとるように分かります。刻々と変化する路面の状況や状態に応じた反応が実に速やかで、それらが結果的にフラットなライドフィールを生み出しているのです。

 ウインドウスクリーンに雨粒を発見しても、まるで不安はありません。ひと昔前なら、2WDのハイパワー・ミドシップカーで雨中の高速ドライブなど考えられませんでしたが、マクラーレンの歴代ロードカーはその弱点を見事に克服してきたのです。

 それは軽量で強靭なボディ、優れた空力、制御、重量バランスの成果であり、アルトゥーラもマクラーレンの最新モデルらしく、極上の安定感を提供してくれます。

 また、ドライバーの視線の落ち着かせ方が巧みなこともアルトゥーラの美点です。フラットライドなドライブフィールはキャビンの安定を生み、路面と車体との関係を把握しやすいのです。それゆえ、ドライバーはほとんど意識せずに細かな修正を加えることができ、あたかもクルマが道をよく知っているかのようにクルージングできるのです。

 そうこうしているうちに、自宅のある京都が近づいてきました。そこでパワートレインモードをトラックにします。決してパワフルな走りを楽しむためではありません。京の街中をできるだけ静かに走るべく、バッテリーに電気を蓄えておこうと考えたのです。30分ほど走れば、高速道路を下り京都市街を抜けて我が家まで静かに向かうだけの電気を貯めることができます。

●McLaren ARTURA
 マクラーレン アルトゥーラ
・車両価格(消費税込):2965万円
・全長:4539mm
・全幅:1913mm
・全高:1193mm
・ホイールベース:2640mm
・車両重量:1395kg(乾燥重量)
・エンジン形式:V型6気筒DOHCターボ
・排気量:2993cc
・変速機:8速AT(デュアルクラッチ式)
・エンジン最高出力:585ps/7500rpm
・エンジン最大トルク:585Nm/2250〜7000rpm
・モーター最高出力:95ps
・モーター最大トルク:225Nm
・システム最高出力:680ps/7500rpm
・システム最大トルク:720Nm/2250rpm
・駆動方式:MR
・サスペンション:(前)ダブルウイッシュボーン式、(後)マルチリンク式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)235/35ZR19、(後)295/35ZR20