現行型スズキ「ジムニー」シリーズが登場したのは2018年7月。すでにフルモデルチェンジしてから5年が経とうとするモデルですが、その人気は衰えを知らず、いまだに納車待ちが続いている状況です。現行型ジムニー人気の理由はどこにあるのでしょうか。あらためて考えてみました。

女性比率はなんと50%超え「ジムニー女子」という言葉も一般化

 インドではいよいよ5ドアモデルがデビューを迎え、ますます世界的なシェアに勢いをつけるスズキ「ジムニー」シリーズ。インドでは発売前からすでにAYTの納車が8か月待ちという状態になっていますが、この人気はワールドワイドなものになりそうです。

 一方の日本といえば、スズキがジムニー5ドアの発売をすべく、様々な調整を行っている状態のようです。

 というのも、シリーズ全体で8万台のバックオーダーを抱えていると言われる現在、本来であれば特別仕様車の発売やマイナーチェンジを行っている段階で、それも叶わぬ状態。

 そもそもスズキは、現行型ジムニーシリーズがデビューした2018年7月当初、年間目標販売台数でジムニー:1万5000台、ジムニーシエラ:1200台を掲げていました。

 しかし、メーカーの予想を大きく上回る受注が発売前からあり、発売から1か月後には受注が半年を超え、数か月で1年待ちとなってしまったのです。

 スズキも予想できなかったほどの大ヒットには、いくつかの要因がありました。

 ひとつめはデザインです。発売前の社内プレゼンテーションでは、「こんなダンボールのようなデザインでは売れない」とまで言われたというスクエアなフォルムは、ちょうど四半世紀ぶりに訪れていた“アウトドアブーム”とぴったりと合致しました。

 キャンプギアを思わせるフォルムが、かつての四駆ブームを体験した人、知らない若年層の心を掴んだのです。また、流麗なデザインのSUVばかりが並ぶ市場において、21世紀とは思えないカタチのオーセンティックな四駆は、人々に痛烈な印象を与えました。

 ジムニーの人気のファクターになったのは、コストパフォーマンスにもあります。1グレードを除き、シリーズのほとんどが車両価格を200万円以下という値付けながら、軽自動車とは思えないつくり。例えば、同社の「ワゴンR」はいかにも軽自動車然としていても、ジムニーは軽自動車に見えないというのがユーザーには魅力的に映ったのです。

 人気の要因3つ目は、誰もが予測しなかったことです。それは女性ユーザーに支持されたことです。ジムニーは初代から始まり、男心に訴求する商品としてメーカーは考えていました。それは、初代の広告キャッチコピーからも分かります。

 3代目となるJB23/43型ではSUVスタイルを導入し、より広い層に訴求できる商品性を持ちましたが、それでもメインターゲットは男性でした。ところが、現行型のJB64/74型は、発売直後から女性に高い支持を得ており、この市場動向にはスズキも驚きを隠さなかったのです。

 スズキ関係者によれば、ジムニーのユーザー女性比率は2018年でも約3割を占めていたのに、2022年にはなんと50%を超えました(シエラは約25%)。これはスズキの軽自動車では、初のことだといいます。

 ここまでジムニーが女性を惹きつけるのは、デザインなどいくつかの理由があるようですが、男女格差の撤廃という価値観も影響しているのかもしれません。とにかく、最近では「ジムニー女子」というインフルエンサーが登場するばかりか、その言葉自体が一般化しつつあります。

 アフターマーケットで売られているパーツを付けるジムニー女子も少なくなく、各ブランドは従来のオフロード指向ユーザーをターゲットにした商品企画から、方向転換を迫られているのが現状です。

シリーズ全体でまだ約8万台のバックオーダーを抱える人気車

 ジムニーの需要を支えているのは、何も一般人だけではありません。役所や林業、工事関係者といったプロユースでも高いシェアを得ています。

2023年1月にインドで世界初公開されたスズキ新型「ジムニー5ドア」。日本ではいつ発売するのだろうか

 元々、先代モデルからジムニーは山奥で作業をするような職種に人気を得ていました。これは日本に限らず、世界的に言えることです。そのため、スズキは安全性を考えたキネティックイエローというボディカラーを設定しました。

 林道に入ったことがある人なら分かると思いますが、山奥の道は非常に狭く、加えて未舗装、積雪は当たり前。こうした状況において、軽自動車というミニマルなサイズで、パートタイム4WD、ラダーフレーム、リジッドアクスル式サスペンションといった本格オフロード4WDの作りを持つクルマは、世界中で類を見ません。

 一般ユーザーにはオーバースペックな作りも、プロにはデフォルトとして欲しい性能のすべてをジムニーは持っているのです。

 事実、先日南アルプスの山中の工事現場に出向いた時、そこには10台以上の現行型&旧型ジムニーが並んでおり、まるでオフ会状態でした。一人、もしくは二人で気軽に移動でき、燃費や維持費が安く、悪路走破性、堅牢性に申し分ないクルマは、ジムニー以外に見つからないからです。

 前述の通り、ジムニーは現在8万台のバックオーダーを抱えており、スズキ直営の販売店では未だ1年待ちをアナウンスしている状態です。地域によっては、半年という納期を伝えている販売店もあるようですが、生産待ちの台数を考えれば1年待ちが妥当な時間かもしれません。

 遅々として進まない納期短縮の理由についてはつまびらかにされていませんが、一説によれば自動車メーカーに課せられた排出有害物質の総量規制である「CAFÉ規制」が影響し、造りたくても造れないという事情もあるようです。

 2023年中旬以降からはスズキも数台の新型EVを発売するため、そのマージンからジムニーの生産が増強されるのではというポジティブな見方もあります。

 しかし、楽観視はできないという人もいます。現状でも手一杯の国内生産ラインに、EVの生産ラインを加えたら、とてもジムニーを増産するゆとりはないという考え方です。

 しかし、5ドアモデル待望論はますます高まっており、「3ドアの納車に見通しが立たなければ5ドアの発売はない」と言い切った鈴木社長と、売れる今こそ一刻も早く国内デビューをさせたい販売店の間で、ジレンマが生じているようです。

 一般的に国産車のモデルチェンジサイクルは4年から5年ですが、細かな仕様変更こそあるものの、基本は一切変わらないジムニーは、まさにロングサイクルの鏡。とは言え、これから購入しようとしている人には、そろそろ新しいトピックスが欲しいところではないでしょうか。