北米やオーストラリアなどで販売されているマツダの3列シートSUV「CX-90」をロサンゼルス近郊で試乗しました。「CX-60」オーナーである筆者は海外市場専用モデルであるCX-90をどのように見たのでしょう? まだ見ぬ「CX-80」の予測を交えてご紹介します。
大きい「CX-60」よりもさらにビッグな「CX-90」
マツダが北米を中心とする海外マーケットで展開している3列シートSUV「CX-90」をアメリカのロサンゼルス近郊で試乗してきました。
そこで今回は、日本で発売されている「CX-60」との違いをご紹介するとともに、今後、日本での発売が予定されている「CX-80」について予測してみたいと思います。
マツダは今、大きめのボディサイズを持ち、フロントにエンジンを縦向きに搭載してリアタイヤを駆動(4WDも設定)する“ラージ商品群”の拡充を進めています。
このラージ商品群、プラットフォームなど基本設計を共用する4つのモデルがグローバル市場に投入される見込みです。
4つのモデルとは、2022年に日本で発売されたCX-60、そのワイドボディ版である北米市場向けの「CX-70」(未発表)、日本や欧州市場向けの3列シートSUVであるCX-80(未発表)、そして、CX-80のワイド版であり今回試乗が叶ったCX-90という、いずれもSUVのラインナップ。
なかでもCX-90は、北米市場におけるラージ商品群の第1弾として2023年に発売されたばかりです。
CX-90のボディサイズは、全長5100mm、全幅1994mm、全高1745mm(ルーフレール含む)で、ホイールベースは3120mmとなっています。それに対し、日本仕様のCX-60は全長4740mm、全幅1890mm、全高1685mmで、ホイールベースは2870mm。「大きい」と指摘されることが珍しくないCX-60よりも、360mm長く、104mmワイドで、60mm高くなっています。またホイールベースも250mm長くなっています。
そんな大きくなったボディサイズの中に、3列シートを内包しているのがCX-90のハイライト。何を隠そう、CX-90は北米市場などで販売されていた3列シートSUV「CX-9」の後継モデルなのです。
CX-9は、日本仕様の「CX-8」と基本設計を共用しつつ、車体をさらに大きくしたモデル。その関係性はラージ商品群にも受け継がれるため、今後、日本市場で登場予定のCX-80は、CX-90を少しコンパクトにした3列シートSUVと考えるのが妥当でしょう。
日本ではCX-90の正規販売はありませんが、実はこのモデルには、まだ見ぬCX-80のヒントがたくさん詰まっているというわけです。
フロントピラーやドアトリムの間隔は「CX-60」と同じ!?
そんなCX-90に初めて対面した際の第一印象は、なんと伸びやかなプロポーションなのだろう、というものでした。

ラージ商品群はエンジンを縦向きにレイアウトする後輪駆動プラットフォームを採用するため、ボンネットが長めのデザインです。
CX-60は、走りのよさを予感させる“ロングノーズ&ショートデッキ”スタイルが特徴ですが、3列シートを収めるべくキャビンが延長されたCX-90はリアピラー回りのデザインが大きく異なるなど伸びやかさが増し、その分、CX-60のスポーティ路線から優雅さを感じさせるルックスへと変身していました。
今後登場するCX-80も、同じようなシルエットになると考えるのは自然の流れでしょう。
そしてもうひとつ、CX-60との違いを実感したのが、ボディサイズの豊かな立体感。CX-90は全幅がワイドになった分、フェンダーの張り出しが大きくなっており、ボディがよりグラマラスに感じました。
いずれにせよ、プロポーションのバランスという意味では、CX-60よりCX-90の方が魅力的。これはCX-80にも期待しないわけにはいきません。
ドアを開けて運転席に乗り込むと、CX-60オーナーの筆者としては「おや?」と思わずにはいられませんでした。その理由は、ダッシュボードのデザインがCX-60と同じだったからです。
CX-90の前身に当たるCX-9は、「CX-5」やCX-8とは異なるダッシュボードを採用していました。しかし、CX-90のそれはCX-60と同じ……つまり、CX-90はCX-9の時代よりも、北米以外の市場で展開されるナローボディモデル(CX-60やCX-80)との共用パーツが多いと判断してよさそうです。
ちなみに、フロントピラーやドアトリムの左右間隔を計測してみたところ、CX-60と全く同じでした。すなわち、CX-60よりもワイドなCX-90ですが、全幅の拡大分(120mm)はフェンダーを始めとするボディパネルの張り出しによって生じているものと判断できます。
くつろげるセカンドシートと広い荷室が真骨頂
今回試乗したCX-90は「PHEV プレミアム プラスパッケージ」という仕様でした。そのインテリアトリムは、CX-60の「エクスクルーシブモード」と同様の仕立て。そのため、運転席に座って前方を見ている限り、CX-60を運転しているのかと錯覚しそうになりました。

一方、CX-60と大きく異なるのは、2列目シート以降の空間です。CX-5に対するCX-8がそうであるように、CX-90は単にサードシートをプラスしたのみならず、セカンドシートがCX-60よりも後方に取りつけられています。
その分、リアシート乗員のヒザ回りスペースは大きくなっていて、よりゆったりと座れる空間になっています。セカンドシートを最も後ろまでスライドさせた場合、CX-60とのスペースの違いは160mmにも及ぶため、セカンドシートの開放感や広々感は格上です。
なお、セカンドシートは仕様によってベンチシートもしくはセパレートシートが用意されていますが、今回の試乗車に装着されていたのは後者。いずれにせよ、セカンドシートの居心地は、CX-60のそれを大きく上回っています。同様のスペースが与えられると予想されるCX-80も期待できそうです。
そして、CX-90のサードシートは、大人ふたりが座れる空間が用意されており、このクラスのSUVとしては居住性に優れています。しかし、長時間の移動となると、快適性ではミニバンに軍配が上がります。30分くらいは無理なく移動できる空間、という認識でいた方がいいでしょう。
それは、まだ発売中のCX-8と同様の感覚。CX-80も同レベルの居住性が与えられることは間違いありません。ちなみに今回の試乗車は、サードシートが3人乗りの仕様でしたが、大人が3人乗るのはさすがに厳しいな、というのが正直な感想です(子どもなら大丈夫!)。
続いて、ラゲッジスペースを見てみましょう。CX-90の荷室は、サードシートの背もたれを倒すとCX-60のそれより圧倒的に広くなります。サードシートがある、ということよりも、広いラゲッジスペースを得られるということの方が、リアルワールドでのメリットとしては大きいかもしれません。
広々とした快適なセカンドシートと、荷物をたっぷり積めるラゲッジスペース。それがCX-90の使い勝手における真骨頂だと強く感じました。
「CX-60」よりも上質で乗り心地も良好な足回り
そんなCX-90のドライブフィールが気になるという人も多いことでしょう。
北米仕様のCX-90には、3.3リッターの直列6気筒ターボ(284ps仕様と345ps仕様とがあり)と、2.5リッターの直列4気筒エンジンに強力なモーターを組み合わせたPHEV(プラグインハイブリッド)という全3タイプのパワートレインが用意されています。そのうち今回試乗したのは、PHEVでした。

PHEVのパワートレインは、CX-60に搭載されているものと同じですが、ロサンゼルス近郊でドライブするとフリーウェイへの合流における加速が力強く、とても扱いやすい特性だと実感しました。
エンジンを止めた状態でのEV走行時を除けば、モーターの存在を感じさせることはあまりなく、モーターを活用することで大排気量エンジンのような特性を生み出していることに好感が持てます。大排気量のマルチシリンダーエンジンが好きな北米の人たちに、とてもマッチしたパワートレインではないでしょうか。
北米仕様のCX-90はオールシーズンタイヤを履いていることもあり、CX-60のようなキビキビとしたフットワークは味わえません。とはいえ、直進状態からコーナリング、そして再び直進状態へと戻るような状況でのスムーズなつながりは、とても好印象。もしも峠道で爽快な走りを楽しみたいという人は、ライバルを凌駕するハンドリングを秘めているCX-60の方が向いているかもしれません。
そんなCX-90で最も気になっていたのは、実は乗り心地でした。その点、CX-60とCX-90ではサスペンションのチューニング担当者が異なるせいか、印象は大きく違いました。
路面の段差を超えたときの突き上げは、CX-90もCX-60と同様に感じますが、CX-90はそこから先、車体の上下動の収束に優れ、乗員の揺さぶられるような感覚は明確に小さくなっています。よりおだやかで、フラットな乗り味といってもいいでしょう。乗り心地に関して何かと話題に上ることの多いCX-60と比べると、より上質な味つけでした。
先述したように、北米仕様のCX-90はオールシーズンタイヤを履いているため、サマータイヤを履くであろう日本仕様のCX-80とは、味つけが異なると予測されます。しかし、CX-80の乗り心地に期待できる仕上がりだったのは、気のせいではないと思います。
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マツダは近い将来、ラージ商品群の3列シートSUVであるCX-80を日本市場に投入すると名言しています。そのタイミングに関しては明らかになっていませんが、2024年の上半期には正式にデビューを飾るとウワサされています。
繰り返しになりますが、CX-80はCX-90のフェンダーの張り出しを抑えて全幅を狭くし、ホイールベースは変えずに車体後部を短くしたモデルになると思われます。
CX-90と極めて関係性の深いCX-80は、CX-60の上質さやドライバビリティの素性のよさはそのままに、キャビンがより広く快適で、乗り心地も良化したモデルになると期待できそうです。