国が「登録有形文化財」に指定され、伝統的な「和空間」を堪能できる国指定の登録有形文化財の宿、長野県「小谷温泉 山田旅館」をレポートします。

●江戸時代建築に泊まれる温泉宿。「登録有形文化財」のレトロな建築美が魅力

 休日に人気の温泉地に足を運ぶと、まるで新宿や渋谷にいるかのような賑わいを感じます。温泉街に活気が戻ったようでうれしい思いですね。

 その中には、外国人観光客の姿もチラホラ。温泉客の国際化、多様化に合わせて、新築や古い宿をリノベーションした、オシャレで近代的なデザイナーズ旅館も増えています。

 そこで過ごすひとときは、もちろん素晴らしいものです。それに比例するように、昔のままのレトロな「和の空間」の良さも、再認識されているように感じます。日本には、そんな伝統建築の宿が、まだまだ全国各地に点在しています。

 今回は、伝統的な「和空間」を堪能できる国指定の登録有形文化財の宿、長野県「小谷温泉 山田旅館」をご紹介します。

 新潟との県境に位置する長野県小谷村。一部が妙高戸隠連山国立公園に属している、自然豊かな環境です。

 小谷温泉は、そんな山奥の標高850メートルに湧く温泉地。1555年に武田信玄の家臣によって発見された歴史を持っています。現在は「山田旅館」一軒のみで、秘湯の雰囲気ただよう温泉です。

 山田旅館は、本館、新館、別館などが連なるように建っていて、客室は30部屋ほどの、ゆったりとしたつくりです。

 木々の景色に溶け込むような建物は、なんと国の「登録有形文化財」に指定されている貴重なもの。木造3階建ての本館は、この旅館でもっとも古い江戸時代の建築なのだそうです。

 それ以外にも、明治、大正建築の建物がそのまま残されていて、敷地内や館内を散策すると、山田旅館の重厚な歴史をじかに感じることができます。

 大きなケヤキの柱、囲炉裏(いろり)、大正ロマン感じる浴室など、丁寧に手入れされ磨き上げられた館内は、時間が経つほどに価値が上がるアンティークでアートな趣。

 そんな空間に触れることで、その時代へタイムスリップしたかのような感覚に浸れ、心が満たされたような豊かな気持ちになります。

●100年超の大正ロマンを感じる内湯と、新木と山の香り感じる露天風呂

「外湯の展望風呂」の露天風呂

 浴室は、「元湯の湯殿」と「外湯の展望風呂」の2カ所があり、それぞれ男女別になっています。内湯のみの「元湯の湯殿」は、ヨーロピアンなタイルや打たせ湯など、大正ロマンを感じられるレトロな雰囲気。

 なんと、100年以上前の大正時代の空間が、そのまま残されているのだそうです。純和風な外観や館内と一味違う、洋風な風情を味わうことができます。

 そんなレトロな空間とは打って変わり、「外湯の展望風呂」は新しい木の香りを感じられるお風呂。こちらは内湯と露天風呂があります。元々は、小谷温泉の共同浴場だったところを改装し、山田旅館の外湯として10年ほど前にできたもので、「元湯の湯殿」とは別の建物につくられています。

●伝統の2つの源泉を「完全かけ流し」で堪能! 飲泉もできる「美肌の湯」

 泉質は、ナトリウム−炭酸水素塩泉。2カ所の浴室は、泉質名は同じですが「別源泉」を使用しています。どちらの源泉も「自然湧出」で、湯量も豊富。そのため、加水・加温・循環・消毒なしの「完全かけ流し」で、湯船に注がれています。

 ほんのり黄茶に色づいたお湯は、爽やかな鉄に、土のような重たさ、硫黄などがミックスされた、大地の豊かさを感じる独特かつ爽やかな香り。

 飲泉すると、甘味、薄塩ダシ味、薄鉄味、微炭酸などがブレンドされた濃厚なミネラルを感じる味わいです。ツルツルな肌触りの中に、キシキシとした硬さもあり、しばらくお湯に身を沈めていると、全身を包み込むような感覚に癒やされる湯浴みでした。

 この泉質は、肌の余分な皮脂や汚れを洗い流し、なめらかな肌に導いてくれる「美肌の湯」。

 胃腸薬にも使われる成分のため、飲めば胃酸を中和し働きを活発する効果や、胆汁の分泌を促し、肝臓や膵臓(すいぞう)の働きを良くする効果もあるのだそうです。

●地元の山の幸をふんだんに使った夕食。信州サーモン、白馬ポーク、山菜が美味しい

館内にある「飲泉所」。温泉の薬効を体の内側からも得られます

 温泉に入った後のご飯も温泉旅行の楽しみのひとつです。

 夕食には、松茸のお吸い物、なめこの酢の物、山女魚の塩焼き、信州サーモンの刺身、白馬ポークと舞茸の陶板焼、舞茸、エビなどの天ぷら、小谷のコシヒカリのご飯、よもぎ草餅など、地元の食材をふんだんに使った魅力的な品々が食卓を彩ります。

 見た目に派手さはありませんが、素材の味を活かしたメニューに舌鼓。心も体も喜ぶような、優しさとおいしさでした。

●登録有形文化財の建築美! タイムスリップ感覚の「非日常」を体感しませんか

宿泊した日の夕食

 今回ご紹介した「小谷温泉 山田旅館」を含め、日本にはまだまだ数多くの「登録有形文化財」の宿が残っています。

 伝統的な「建築美」の空間に身を置くことで、その時代にタイムスリップしたかのような、「非日常」の時間を堪能することができるでしょう。

 最新の設備やデザインの温泉施設も、もちろん素晴らしいですが、歴史ある建築の中で重厚かつゆったりとした和空間を味わう温泉旅もいいものですね。