1996年にポルシェ「ボクスター」が登場したとき、プアマンズポルシェなどと呼ばれたものですが、その20年以上も前にフォルクスワーゲンのエンジンを搭載した元祖エントリーモデル「914」が存在しました。当時のトヨタ「クラウン」と同じくらいの車両価格だった914のミントコンディションは、いまどれくらいの価値があるのでしょうか。

フォルクスワーゲン製エンジンを搭載した「914」はポルシェと呼べるのか?

 1970年に販売が始まったポルシェ「914」は、フォルクスワーゲンとの共同開発によって生まれたモデルである。

 現在でもそうだが、当時も「ポルシェといえば911」というイメージは強かった。しかし911は当時としても高価なクルマであったため、ポルシェは販売価格を抑えた、いわゆるエントリーモデルの開発に着手する。

●914に搭載されたエンジンとは

 エントリーモデルとしての914は、コストを抑えるためにフォルクスワーゲン車に使われているパーツを流用してつくられることとなった。最初期に搭載されていたエンジンも、フォルクスワーゲン製の1.7リッター水平対向4気筒で最高出力80psというものだった。

 同時に、「911T」にも使われていたポルシェ製2.0リッター水平対向6気筒(最高出力110ps)というエンジンを搭載した、「914/6」もラインナップされていたが、モデル本来の狙いに合致するのは、ベースモデルである914といっていいだろう。

 その後914は、1973年に100psを発生する2.0リッター水平対向4気筒エンジンに換装され、「914 2.0」へと進化する。1974年には最高出力85psの1.8リッター水平対向4気筒エンジンを搭載したモデルも発売されたほか、ごく少数だが、「911S」の2.3リッター水平対向6気筒エンジンや、「911RS」の2.7リッター水平対向6気筒エンジンを搭載した「916」というモデルも存在している。

 今回RMサザビーズオークションに出品されたのは、1975年式の914 2.0である。つまり搭載されているエンジンは、1.7リッター水平対向4気筒を拡大してつくられた、2.0リッター水平対向4気筒モデルだ。

ほぼ新車のまま保管されていた「914」の値段は?

 このネパールオレンジのボディカラーを持つ個体は、まさに希少なものといっていい。というのも、最初のオーナーはガールフレンドへのプレゼントとしてこのクルマを購入したのだが、その数か月後にはどういうわけかオーナーのガレージで保管されることになる。そこにどんな事情があるのかはあえて詮索するのはよしておこう。いずれにしても、1975年8月4日に登録され、同年8月27日、走行距離999マイル(約1600km)のときにオイル交換をされたことは、残されているレシートから判明している。

シンプルなコックピットは、むしろスポーツカー然としている。とにかく新車当時のまま保管されていたことがよく伝わる(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's

●走行距離たったの2100km

 そんな914 2.0が、ガレージから出されて売却されることになったのは2018年のことだった。そのときの走行距離は、1141マイル(約1825km)。つまり、1975年8月にオイル交換をしてから200kmほどしか走行しておらず、その後は40数年間にもわたって保管されていたということになる。

 ちなみに残された書類によると、新車時の購入価格は7625ドル65セントだったようだ。当時のレートは1ドル305円程度。換算すると、約230万円となる。そのころの日本でいうと、1976年に昭和51年排ガス規制に対応するためマイナーチェンジされた、トヨタ「クラウン・ハードトップ2600ロイヤルサルーン」が、257万8000円で販売されていた。そう考えると、914のリーズナブルさがわかりやすい。

 話を戻そう。この914 2.0は、最初のオーナーが売却する前に、燃料タンクのフラッシングや燃料パイプの交換などといった整備を受け、劣化していたタイヤも新品へと交換された。

 その後、現在のオーナーの手に渡ったのだが、そのオーナーも2020年9月に燃料ポンプを交換したほか、タコメーターの修理やブレーキフルード交換、ウインドウォッシャーの整備、オイル交換などをおこなっている。

 現在の走行距離は1310マイル(約2100km)。つまり、2018年にガレージから出されたあとも、ほとんど走行をしていない。メーカーオプションであったレザーレットステアリングやフォグランプ、デュアルトーンホーン、アームレスト付きのセンターコンソールボックス、時計と油圧計、電圧計付きのセンターコンソールなどを装備した5速MTの914 2.0は、めでたく6万6000ドル(邦貨換算約750万円)で落札された。

 発売当時は開発の経緯からワーゲンポルシェと呼ばれ、911のオーナーからはポルシェではなくワーゲンだ、ともいわれていた914だが、運動性能に優れたミッドシップレイアウトであることや、なにより価格的に気軽に乗れるということから、販売戦略的には成功を収めたモデルである。

 さまざまな制約から、クルマの開発に対する自由度が小さくなってしまっているいま、あらためて914を見直すとデザインも含めて魅力的に感じる部分は多い。ここまでの極上車はそうは現れないだろうが、気に留めておきたいモデルの1台といえるだろう。