コレクターズアイテムとしても注目が集まりつつあるチルドレンズ・カー。今回VAGUEで紹介するのは、映画『栄光のル・マン』でもおなじみのポルシェ「917」風のチルドレンズ・カーです。

映画『栄光のル・マン』でもおなじみのポルシェ「917」

 自動車趣味界、富裕層におけるこの10年ほどの傾向として、もともとは子供を乗せて走ることを目的とした「チルドレンズ・カー」の高級化、あるいはコレクターズアイテム化が進行しているのは、これまでVAGUEでもお伝えしてきたとおりである。

 とくに昨年以降は新型コロナ禍による「Stay Home」が定着したせいか、自宅ガレージのコレクションを充実させたいとするエンスージアストが格段に多くなっているそうで、「オートモビリア」と呼ばれる自動車関連アートやアンティークグッズなどのマーケットも世界レベルで好況を呈している。その一環として、国際オークションにおけるチルドレンズ・カーも、重要なアイテムとして取引されているようだ。

 今回は2021年11月6日、クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界における世界最大手、RMサザビーズが英国本社を拠点として、リアル対面型/オンライン併催でおこなったオークション「LONDON」に出品された「小さなポルシェ917」のオークションレビューをお届けすることしよう。

●ポルシェ917がレジェンドとなった理由とは?

 オークションに出品されたチルドレンズ・カーの本題に入る前に、まずはモデルとなったオリジナルのポルシェ「917」について、軽くご説明させていただきたい。

 1967年シーズンの閉幕後、FIA世界スポーツカー選手権に新しいレギュレーションが施行され、25台の最小生産数をカバーすれば排気量5リッターまで可能とする新カテゴリー「グループ5」が設定。そこでポルシェは、同社としては初めてル・マン総合優勝を狙えるニューマシンの開発に踏み切ることとした。

 その結果として1969年のル・マンでデビューしたのが、もはや伝説と化している「レン・シュポルト(レーシングスポーツカー)」の917。空冷フラット12気筒エンジンを搭載し、その最高出力は初期の4.5リッター版でも520ps、1970年シーズン以降投入された5リッター版では580psに達していた。

 そして最大の目標であるル・マン24時間レースでは、「ラングヘック(ロングテール)」と呼ばれる「917LH」を擁した1969年のデビューイヤーこそリタイヤに終わったものの、翌1970年にはテールを短くカットして運動性能を高めた「917K」を投入。長らく小排気量クラスのトップにありながら総合優勝は果たせないでいたポルシェに、ついに記念すべき初勝利をもたらすことになる。

 1970年6月中旬におこなわれたル・マン24時間レースにて、343ラップ、4607.81kmを走破したハンス・ヘルマン/リチャード・アトウッド組の操る「ポルシェ・ザルツブルク」の917K(レーシングナンバー23)が、みごとトップでフィニッシュラインを通過。

 また、2位にはジェラール・ラルース/ヴィリー・カウゼン組のマルティーニ917Kが続き、3位にもグループ6の「908/02」が入賞した結果、ポルシェの記念すべきル・マン初制覇は輝かしい1-2-3フィニッシュとなったのだ。

 このあとポルシェはターボチャージャー過給へとシフトしてゆくために、結果としてポルシェ史上最大のシリンダー数である12気筒エンジンを搭載(16気筒エンジンも試作されたが、実戦投入はなかった)したのは、917シリーズが最初で最後。それが現在においても917を神格化している、大きな理由であろう。

 しかし、スティーヴ・マックイーンの制作・主演によって1971年に公開された映画『栄光のル・マン(原題:Le Mans)』において格別の存在感を示したことも、素晴らしいレースヒストリーとともに、ポルシェ917を「レジェンド」と呼ばれる存在に至らしめた要因であるのは間違いあるまい。

OHVエンジンを搭載したポルシェのチルドレンズ・カーとは

 現代のコレクターズアイテムとして製作されるチルドレンズ・カーの一部には、子供用のおもちゃの領域をはるかに凌駕し、モデルとなる「ホンモノ」のクルマの再現度や作り込みの精巧さなどあらゆる面で、大人のエンスージアストの鑑賞に堪えうるレベルに達したものも少なくない。今回RMサザビーズ「LONDON」オークションに出品された小さなポルシェ917Kも、その域に達した1台かと思われる。

チルドレンズ・カーのモチーフとなっているのは、映画『栄光のル・マン』に登場するポルシェ「917」(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's

●中古なら、ホンモノのポルシェもなんとか買えそうな147万円で落札!

 そのスケールはホンモノの70%とされ、ボディサイズは全長2.6m×全幅1.6m。ホイール/タイヤは10インチ径となる。

 イグニッションキーによって始動し、最高出力9psをマークする230ccのガソリン単気筒OHVエンジンによって、最高速度は28mph(約45km/h)に達するとのことながら、子供が乗る場合などには必要に応じて、エンジン出力を制限することができるという。

 また、オリジナル917と同じラック&ピニオン式のステアリング、フロントにはスプリングを組み入れたサスペンション、リアにはシングルピストン式ながらディスクブレーキも装備され、減速比2:1の単段ギアボックスと湿式クラッチによってドライブトレインが形成される。

 そして、ブラックのパウダーコートが施されたフレームは、本物の917ほどに複雑な形状ではないものの、立体的で軽量なチューブラー。グラスファイバーで成形されたボディワークは、ポルシェ917シリーズのなかでももっとも人気の高い「917クルツェック(Kulz Heck:ショートテール)」への忠実なオマージュとなっており、1970年ル・マン優勝車を模した、赤と白の「ザルツブルク」カラー(オーストリア・ザルツブルグ州旗の色)で仕立てられている。

 一方インテリアは、この時代のレースカーの魅力をうまく表現した無塗装のアルミニウムパネルで仕上げられ、ドライバーのための小さなバケットシートがセットされる。基本は5歳以上の子供向けに作られたものだが、このシートを取り外してしまえば、大人でも潜り込むことができるという。

 そしてステアリングホイールは、バックスキンとカーボンファイバー模様にちょっと時代考証やセンスの問題も感じるが、大人が乗り込む際にはとても有用なクイックリリース機構つきとなっている。

 このポルシェ917スタイルのチルドレンズ・カーは、2021年11月6日の競売にて、9600英ポンドで無事落札された。

 日本円に換算すれば約147万円というプライスは、今世紀初頭の「ボクスター」や「カイエン」など、1/1スケールのポルシェの中古車にも相当するけっこうなもの。なかなか終息しないコロナ禍にあって、コレクター向けの高額商品が高値安定を続けている、という市況を裏づける結果となった。

 ところで、今回のオークションに出品された917Kチルドレンズ・カーは、大人が乗車することを見越して、ルーフセクションを取り外した状態でも走行可能としている。

 しかし、ポルシェ917にはオープンスタイルのモデルもいくつか存在するので、どうせならそちらをモチーフに選べば、より無理なく大人も乗ることのできるマイクロカーになるのではなどと思っていたら、来たる2022年3月にやはりRMサザビーズの北米本社によって開催される予定の「ARIZONA」オークションでは、同じポルシェ917でもオープンスタイルのCam-Amマシン、「917/30」を縮小したチルドレンズ・カーの出品が決まっているとのこと。

 チルドレンズ・カーのバラエティの豊富さ、そしてポルシェ917がいかにアイコニックな存在であるかを、今いちど思い知らされてしまったのである。