ストラディヴァリウスは、クラシック音楽に興味がなくても、その名を耳にしたことがある人も多い世界最高峰のヴァイオリン。その黄金期といわれる「ダ・ヴィンチ」がオークションにかけられることになりました。2022年6月9日まで、数か国でオークションプレビューをおこなっています。先日、東京で開催されたオークションプレビューで、その音色を聴いてきました。

ストラディヴァリウスの「ダ・ヴィンチ」とは

 ストラディヴァリウスは、アントニオ・ストラディヴァリ氏によってつくられた弦楽器で、約300年前の17世紀から18世紀にかけて制作されたにもかかわらず、現在も演奏できる楽器であり、美術品でもある希少な存在。

 現存しているヴァイオリンは、約500挺で、個人所有のものもあるが、多くは財団などが所有し、有望な演奏家に貸与して後世へと引き継がれていくよう管理されている。そのため、パブリックなオークションに登場するのは、かなりレアケースということになる。しかも、今回オークションにかけられる「ダ・ヴィンチ」は、ストラディヴァリの制作人生の中でもっとも成熟した時代といわれる黄金期である1714年に制作された逸品だ。

「ダ・ヴィンチ」という名称は、20世紀のパリの最大楽器商社のひとつ、カレッサ&フランセが発行した証明書に記実に基づいたものだ。また、1714年に制作されたとわかる内側のラベルも確認でき、歴代の所有者もしっかりトレーサビリティできる。この「ダ・ヴィンチ」が前回オークションにかけられたのは、1974年ロンドンのサザビーズで、現在は、日本のコレクターが所有している。

 この「ダ・ヴィンチ」を40年にわたり所有していたことで知られるヴァイオリン奏者トーシャ・ザイデル氏は、「オズの魔法使い」の劇中で演奏しているのだそうだ。あの『Over the Rainbow』のヴァインリンの音色は、「ダ・ヴィンチ」ということだ。

●オークションプレビューでは、三浦文彰氏が試奏

 現存するストラディヴァリウスのなかでも特別といわれる「ダ・ヴィンチ」の音色をオークション前にお披露目するということで、都内で開催されたオークションプレビューでは、現オーナーから「ダ・ヴィンチ」を託されている日本ヴァイオリン代表取締役社長の中澤創太氏から説明があったのち、その音色も披露された。

 演奏ではなく、プレビューなので試奏とのことだったが、演奏者は、三浦文彰氏。史上最年少の16歳で世界最難関といわれるハノーファー国際コンクールで優勝し国際的に脚光を浴び、NHK大河ドラマ「真田丸」のテーマ音楽の演奏や、TBS情熱大陸への出演も話題になったヴァイオリニスト。ストラディヴァリウスを貸与され、演奏活動をおこなっているこれからも楽しみな演奏家のひとりだ。

 楽曲は、J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリンのための第3番第3楽章が演奏された。聴いたことがあるクラシックなどに取り上げられる曲で馴染みがあるとはいえ、コンサートホールではなくホテルの宴会場の1室、演奏者まで3メートルほどの距離で、ストラディヴァリウスの音色が聴けるとは思わなかった。のびやかで重厚感があり、三浦氏のパワフルな演奏にカラダが震えた。

 演奏を終えた三浦氏は、「ストラディヴァリウスらしい輝きとパワーがありますね。世界のどこのコンサートホールでも、伸びがあって、ビーンという感じで音を届けてくれると思います」とのこと。

 今までに手にしたストラディヴァリウスは、70挺をこえるという中澤氏は、「パワーと重厚感と色気があります。いいオーナーさんにわたって、次のいい音楽家に引き継いでもらいたいです」と、思いを語った。

ストラディヴァリウスのオークションスタート価格は?

 前回、「ダ・ヴィンチ」が、パブリックオークションにかけられたのは、約50年前。それ以来のオークションというわけだ。2011年には、ロンドンのオークションに出品されたストラディヴァリウスもある。これは、1721年につくられたもので、実際に演奏ができない状態だったという。

 ヴァイオリンは、多くの美術品と違い展示して鑑賞するだけでなく、演奏することができるという特殊な美術品だ。これは、クラシックカーの世界とも通じるものがある。走行することができるようレストアするように、演奏ができるよう修理しながら受け継がれている。「ダ・ヴィンチ」が、実際に演奏できることは、日本のほか、ロンドン、ニューヨーク、ベルリン、北京、上海、香港でもプレビューが開催され、オークション前にその音色を確認できる。

 ただ、世界中に約500挺のストラディヴァリウスが存在しながら、オークションのニュースを耳にしないのは、なぜだろう。それは、そのほとんどがプライベートにおこなわれるからだ。現オーナーが、次に譲り渡したいと思う人との1対1の交渉で、販売されている。では、なぜ今回、パブリックオークションにふみきったのだろうか。

「日本国内にあるということで、100%日本で貸与してきました。国際的に多くの人にチャンスを与えたいと考え、いくつか所有しているうちのダ・ヴィンチを、世界中の誰もが入札できるようにオークションにかけることに決めたそうです。日本に残って欲しいという気持ちもありますが、世界中の音楽家に落札のチャンスがあり、チャレンジしてほしいとの思いがあります」と、オーナーの言葉を代弁した中澤氏。

 ストラディヴァリウスの中でも、トップクラスの名器は、一体いくらの値がつくのだろう。

プレビューでお披露目されたストラディヴァリウス「ダ・ヴィンチ」(C)林ゆり

●あなたもストラディヴァリウスのオーナーに

 数億円から数十億円と、音楽家自らが購入するには高価すぎるストラディヴァリウス。企業や財団が所有し、将来有望な音楽家に貸与することで、ストラディヴァリウスという芸術品を後世に残し、有望な音楽家にチャンスを与えることもできる。

 そんなオーナーになれるチャンスが、2022年6月9日(ニューヨーク時間)のオークションだ。もちろん、オンラインでも参加可能。しかも、これほどの名器が、スタートは、800万ドル。入札当日までに、どれだけレートが変動するかわからないが、ざっと10億円あまり。これほどの名器としては、スタート金額が低めの設定のような気がして、伺ってみた。

「低めの設定で、口コミで広がることも考えています。まあ、低めといっても1ミリオンではなく、8ミリオンドルですからね」と、中澤氏。

 実際、オークション参加者はある程度、金額を設定して参加するだろうが、競り合ってくると、どうしても欲しくなって、さらに高額になる可能性もあり、過去最高金額になることも考えられる。

 自分で演奏することはできないが、有望なヴァイオリニストに貸与して、素晴らしい音楽を奏でてくれると思うと、他の美術品を所有するのとは違った楽しみが味わえ、名誉なことだ。国内にとどまるのか、それとも海外へと旅立っていくのか。どちらにしても、これからもすばらしい演奏家に音を奏で続けてもらいたい名器だ。

■ストラディヴァリウス「ダ・ヴィンチ」オークション
日程:2022年6月9日入札終了
会場:Tarisio社@ニューヨーク
参加方法:オンライン、Tarisio社HPから事前登録