「今夜すきやきだよ」(新潮社)で、第26回 手塚治虫文化賞 新生賞を受賞した谷口菜津子さんの最新作「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(ぶんか社)が話題だ。筑前煮やサバの味噌煮など恋人・勝男が好む和食を作り続けてきた鮎美だが、6年付き合った勝男からのプロポーズを断り、彼の元を去ってしまう。フラれた勝男が周囲の言葉や反応を通して、鮎美の気持ちに気づいていく姿に反響の声が相次いでいる。本作について、谷口菜津子さんに話を聞いた。



■強烈なタイトルのきっかけはある芸人のエピソード?

――この物語が生まれたきっかけを教えてください。

【谷口菜津子】SNS上で時々見かける「料理のダメ出しをする夫への不満」を読んで腹が立ったり、悔しい気持ちになったりすることがあるのですが、もしその「料理のダメ出しをした夫」が自らそのダメ出しをした料理を一から作ったらおもしろいだろうなと思ったのが、この作品のアイデアの種でした。

そこから編集さんとどんな兄弟構成なのかとか、好きなドラマはなんなのかとか、想像しながら勝男と鮎美のキャラクターを作っていきました。

――タイトルに凝縮されている「料理のダメ出し」に対する憤りが、創作の大きな原動力となったんですね。

【谷口菜津子】1話の内容が決定しタイトルを考えてるとき、とある芸人さんが、同棲している恋人にご飯を作ってもらっておきながら「今日の献立、茶色いね」みたいなことを言ってしまい、それを聞いた恋人が泣いてしまった、というエピソードを話されていたのを思い出したんです。

茶色い料理は美味しいものが多いにしても「頑張って作った料理の感想がそれはしんどいだろうな」と思いつつ、このような「料理へのうざいダメ出しをタイトルにするのがいいんじゃないか?」と考え始め、結局、そのセリフに対するツッコミのような感じで「じゃあ、あんたが作ってみろよ」というタイトルにすることにしました。

――キャラクターを作るうえでこだわった点も教えてください。

【谷口菜津子】これは単行本1巻の後書きにも書いたのですが、(世の中の価値観の変化について)「自分自身は本当についていけているのか?」と思うことが年々増えてきていることにも気づき始めました。

勝男が主人公なので、男性が価値観を更新する物語のように捉えられるかもしれませんが、どんな方でも変わることへの希望が持てるような物語にしたいと願って、ストーリーやキャラクターを作っています。

――今後の見どころについて教えてください。

【谷口菜津子】勝男の成長と、鮎美の自分探しを見守っていただけたら幸いです。単行本1巻では、おまけでささやかな4コマが数本収録されています。



取材協力:谷口菜津子(@nco0707)