「株式会社シェフ工房 企画開発室」(森崎緩/KADOKAWA)第4回【全4回】
札幌にあるキッチン用品メーカー「シェフ工房」のアイディアグッズに魅了された新津七雪。憧れの「シェフ工房」に入社し製品への熱意が買われて企画開発室に配属される。個性豊かなメンバーに囲まれながら、新津は次のヒット商品を生み出すべく北海道での新生活をスタートする。「株式会社シェフ工房 企画開発室」は、「総務課の播上君のお弁当」シリーズで話題になった森崎緩氏の書き下ろし作品。魅力的な料理のレシピも満載!キッチン用品との出会いで人生を変えた主人公の成長物語をお届け!
※2023年9月29日掲載、ダ・ヴィンチWebの転載記事です
歓迎会の二次会はないようなので、私は茨戸さんに付き合うことにした。
もっとも仕事の話とはいえ、男性と二人で場所を変えてというのはよくない誤解をされる恐れがある。だから「地下鉄の駅まで一緒に行こう」と誘ってくれた企画開発室の皆さんには、心苦しいながら適当な噓をついた。
「ちょっとこの辺りに見てみたいお店があるので、私はここで失礼します」
そう告げたら特に引き留められることもなく、円山公園入り口で解散となった。
「したっけ、新津さんお疲れ様!」
ほろ酔いの出町さんがご機嫌で手を振り、五味さんが待ち構えていたように通訳をする。
「『したっけ』というのは……この場合は『またね』って意味」
「そうそう、別れ際の挨拶!したっけ!」
通訳してもらって嬉しそうな出町さんの笑顔が素敵だ。私も噓をついた罪悪感が薄れた気がして、笑って手を振り返した。
「はい、お疲れ様でした。また明日!」
解散後は公園傍のコンビニで落ち合う約束だった。幸い、茨戸さんは先に着いていて、私が駆け寄ると出迎えるみたいに頭を下げてくる。
「時間をくれてありがとう。新津さん、パフェは好き?」
「大好きです!」
「よかった。じゃあいい店があるんだ」
そう言って連れていってもらったのは円山公園から程近いところにあるカフェだ。住宅地の中にひっそり立っているような小さなお店で、とっぷり暮れた夜の街並みにランプみたいな温かい光を放っていた。店内にはテーブルが四つとカウンター席があるだけで、私たちが入るとちょうど満席だ。
木のテーブルを挟んで向き合うと、茨戸さんはメニューを差し出してくる。
「遅くまで付き合わせてるし、好きなの頼んで」
「ありがとうございます」
メニューを開くと、載っているのはカフェらしい品ばかりだ。特にパフェに力を入れているお店のようで、フルーツを使った見目麗しいパフェの写真がいくつも並んでいる。
夜に甘いものを食べるのは多少の罪悪感もあったけど、お酒を飲んだ後だから冷たいアイスや甘酸っぱそうな果物が俄然魅力的に思えてきた。先輩がご馳走してくれるという時に遠慮するのもかえって失礼だろう。そう思い、ストロベリーパフェをお願いする。
「俺はレモンとショコラのパフェにしようかな」
茨戸さんも美味しそうな品を選ぶと、店員さんを呼んで注文を済ませてくれた。
パフェを待つ間、茨戸さんはスーツの内ポケットから小さなノートを取り出す。私が今日、深原室長から貰ったものよりも一回り小さめで、表紙にタヌールくんは描かれていない。こちらの視線に気づき、彼はノートを掲げてみせる。
「新津さんも貰った?うちの会社、新入社員にはノートを配る慣習があるんだって。俺のは今年、自腹で買ったやつだけど」
そう言うからには、茨戸さんは昨年度貰ったノートを見事に使い切ったのだろう。私は頷き、今日貰ったばかりのノートを取り出し掲げる。
「貰いました。まだ名前をつけていないんです」
「名前なんてつけるんだ?企画開発室の伝統?」
茨戸さんは初めて、興味深そうにこちらを見た。眠たそうに見える目が、カフェの明かりの下で静かな光を湛えている。
「伝統かどうかはわからないんですけど、出町さんはつけてるって伺いました」
「へえ、なんて?」
「エジソンノートです。格好いいですよね」
「確かに、あの人らしいな」
納得したような口ぶりに、出町さんの社内での評価が窺える気がした。エジソンの名を冠しても過分ではないと誰だって思うだろう。
茨戸さんはノートを開き、一度手で押さえてから続けた。
「俺は名前をつけるって発想自体なかったけどな。ノートはノートなんだし、メモに使うだけなんだから」
「愛着が湧くかもという考えなんじゃないでしょうか」
「けど、消耗品だろ?愛着持ったところでな」
どこか呆れたように言った後、茨戸さんはちらりと私を見る。
「ああごめん、うちの方針を貶すつもりはないんだけど。俺には合わないなって思ってるだけ」
私の表情から抗議の意思でも読み取ったのだろうか。そこまでのつもりはなかったものの、正直、純粋な疑問は抱いている。私がどうしても入りたくてはるばる海を渡ってきたシェフ工房には、茨戸さんのような人もいるのだ。
「差し支えなければ伺いたいのですが」
「差し支えなければ答えるよ」
「茨戸さんは、なぜうちの会社に入ったんですか?」
失礼な内容に言葉を選びたかったけど、どうしてもストレートに聞くしかなかった。
幸い、茨戸さんは気分を害した様子もなく即答する。
「札幌だから」
「それだけ、ですか?」
「そうだよ。地元から離れたくなくて、とりあえず入れる会社選んだだけ。本州って夏は暑いっていうだろ?長野はそうでもないかもしれないけど」
住み慣れた地域の企業であるという点も、就活においては大事な条件の一つではあるかもしれない。しかしそれで興味のない職種に就いてしまったというなら、なんとももったいない話だ。
「向上心のない奴、って思った?」
笑いながらのその質問には、パフェをごちそうになる手前、素直に答えていいものか迷った。
「人それぞれ、いろんな事情があるんだなあとは……」
「別に本音言っていいのに。ま、足りない向上心は新津さんの商品知識に埋めてもらうよ」
私とは何から何まで対照的な茨戸さんは、改めて自分のノートに向き直る。
「一応、仕事で使うネタはメモしてるんだけどな。営業となると顧客から商品知識を求められることが多いから。ただうちは製品の種類が多いし、さっきも話したけど俺は全く料理しないから、全然覚えきれなくて困ってたんだ」
シェフ工房の製品はそのまま消費者に販売するのではなく、小売業者や卸問屋を介して消費者に届けられる。直接購入してくれる相手は業者だから、彼らが「売れる」と判断してくれなければ販売してもらうことができない。茨戸さんたち営業一課の仕事は、うちの製品がいかにいいか訴えかけ、店などに置いてもらえるよう交渉することだ。
「使ってみればわかりますよね、どれだけいい製品かって。トングだけじゃないですよ、他にも使いやすくて、まさに誰でもシェフになれちゃうようなアイテムばかりです」
「それ、もっと聞いてみたくて新津さんを誘ったんだ」
茨戸さんが知りたそうにしたので、私もトング以外の製品についてもそのよさ、魅力を語ることにした。パフェをご馳走してもらっているし、何より私はシェフ工房ファン、好きなものについてとことん話せるのは楽しくてしょうがないからだ。
「アイディアがすごいと思ったのは後付けサラダスピナーですね。市販のサラダスピナーはザルがセットでついているものですが、うちのはサイズさえ合えばどんなザルでも使えるのがいいと思います。底に滑り止めがついているから回していてずれないのもポイントで――」
私は自社製品について大いに語り、茨戸さんはそれをメモに取り、時折うんうんと頷きながら聞き入ってくれる。途中でパフェが運ばれてきて、ひんやり冷たいアイスでクールダウンも挟みつつ話に花を咲かせた。
「お酒飲んだ後のパフェっていいですね」
ストロベリーパフェは真っ赤に熟したイチゴがふんだんに盛りつけられていて、お店のライトに照らされて宝石のようにつやつや輝いている。一つ掬って口に運ぶとたちまち甘酸っぱさといい香りが広がった。添えられたホイップクリームはふんわり軽く、グラスの中で層を成すバニラアイスやヨーグルトソース、イチゴジュレなども大変美味しい。飲酒の後の火照った身体に冷たいパフェは相性抜群だ。
「いいよな。俺は飲みの後はいつも締めパフェなんだ」
茨戸さんが機嫌をよくしたように声を和らげる。
「締めパフェ、ですか?」
初めて聞く言葉だ。文脈からして、お酒の締めにパフェ、ということなのだろうけど。
「お酒の後にパフェとかアイスクリームとか、冷たいものを食べるんだ。札幌発祥の文化って言われてるけど、やっぱよそにはないのかな」
「私は初耳でした。北海道では酪農が盛んだから、なんでしょうか」
パフェの中のバニラアイスはとても濃厚で、しっかりと牛乳の味がした。締めのうどんやラーメンなら私も経験があるけど、今度からはパフェでもいいな。カロリーとも相談しつつ。
「札幌には夜パフェの美味しい店がたくさんあるから、興味あるなら何軒か教えるよ」
「はい、是非。こっちのお店はまだ詳しくなくて」
営業であちこち歩き回る茨戸さんなら、きっと美味しいお店もたくさん知っていることだろう。私はこの通り引っ越してきて一ヶ月の新人札幌市民なので、そういう情報はとてもありがたい。
私の答えを聞いて、茨戸さんは気遣わしげな表情になる。
「だけど、すごいな。新津さんって札幌に住むのは初めてなんだろ?うちの会社のファンなのは十分わかったけど、その情熱だけで全く知らない土地で働き始めるなんて」
「どうしてもシェフ工房がよかったんです」
「だとしてもだよ。こっちに知り合いとかいたの?」
一応、いた。
隠すことでもないし、打ち明ける。
「友達が一人、札幌にいます。大学の、部活で一緒だった子で――あ、そうは言っても札幌来てからは忙しくて、まだ一度も会えていないんです」
円城寺晴はスキー部の同期だ。彼女は選手で、普段はころころ笑う可愛い子なのに滑る時はがんがん攻める優秀なスキーヤーだった。女子同士で話も合ったし、選手だった頃はよきライバル、そしてマネージャーになってからも忙しい時には手伝いに来てくれるような子だったから、大学時代は一番仲のいい友達だったと言ってもいい。
彼女も就職で札幌に来ていて、メッセージで何度か『一回会ってご飯でも食べたいね』なんてやり取りをしていたけど、さすがに四月のうちは叶わなかった。お互い新社会人で忙しい身だ。
「知り合いって言うとそのくらいですね。だから本当に一人で来たようなもので……でもシェフ工房で働けるならそれでもいいと思いました」
「そこまで惚れ込んでるんだな。うちの製品、そんなに特別?」
茨戸さんが不思議に思うように、シェフ工房はあくまでも数あるキッチン用品メーカーの一つだ。出町さんのアイディアは確かに素晴らしい。でも世界中探せば似たような製品を作るメーカーは他にもあるのかもしれない。
私がシェフ工房に惚れ込んだのにはきっかけがある。
「大学の頃の話なんですけど」
パフェの残りを掬いながら、私はそれを茨戸さんに打ち明けた。採用面接でも話したことを、決意を込め改めて口にする。
「私、スキー部のマネージャーをやっていたんです。元々は選手だったんですけど、怪我で続けられなくなっちゃって、それでマネージャーに転向しました」
スキーで怪我をしたと話すと、たいていの人はとても痛そうな表情をする。実際、茨戸さんも想像でもしたように顔を顰めた。
「えっ、大丈夫?」
「はい、だいぶ昔の話ですから。ただマネージャーになったと言っても、その頃は実家暮らしの甘ったれで全然料理なんてできなかったし、部員のために朝食や夜食を作らなくちゃいけないんで困ってたんです。でもそこでネットで調べて、料理を簡単に作る方法を学んで……その過程で出会ったのがシェフ工房の製品だったんです」
『誰でもシェフの腕前に』なんて、当時の私にはまるで夢みたいな謳い文句だった。半信半疑でそれに縋って何度も料理を試してみて――最初は簡単なメニューばかりだったけど、そのうちになんでも作れるようになった。
「シェフ工房のお蔭で、私は料理が特技だって胸を張って言えるほどになったんです。人生を変えてもらったと言っても過言じゃない。だから、ここで働きたかったんです」
言い切った私を、茨戸さんは呆気に取られた様子で見つめてくる。
「なんか……新津さんみたいな人、初めて会ったかも。常にフルパワーで生きてる感じ」
私の方こそ、茨戸さんのような人とは初めて接した。よく言えば程よく肩の力が抜けている人、率直に言えば熱意のない人、かもしれない。
「俺もそんなふうになれればよかったな」
茨戸さんのノートはこのカフェにいる間だけでもう何ページも埋まっていた。私が話したことを全部書き留めていたからだ。これが彼の仕事の手助けになれたら嬉しいし、もしかしたら茨戸さんも料理が得意だって言えるようになるかもしれない。シェフ工房の製品について、もっと詳しくなれる日が来るかもしれない。
「フルパワー出してみますか?茨戸さんも」
「ええ?出ないよ、俺」
私の問いかけに彼が曖昧な笑みを浮かべた時だ。
カフェのドアベルが鳴り、新しいお客さんが来たのがわかった。二人連れで、ひょろりと背の高い男性と、小柄で外ハネボブの女性だ。なんだか見覚えがある二人は、戸口で顔を見合わせている。
「さすがに逃げることなくないですか、出町さん!」
「だ、だって、おっかなかったんだもん……」
「いや俺も怖いですけど!つい店入っちゃいましたし」
そこへ店員さんが声を掛け、
「申し訳ございません、ただいま満席なのですが――」
ほぼ同時に、出町さんが私に気づいた。ぱあっと表情を輝かせて手を振ってくる。
「新津さん!ここに寄ってたんだ?」
「え?本当だ……ってか、一緒にいるの茨戸くん?」
続いて五味さんも振り向き、すっとんきょうな声を上げた。
「あれ、どういうこと?仲良かったんだっけ?」
それにすぐ回答してもよかったけど、店員さんが『お連れの方ですか?』という目で私たちを窺っている。そこで私は、まず茨戸さんに確かめた。
「相席してもいいでしょうか?」
「あ、ああ、もちろん」
状況を吞み込みきれていない様子の茨戸さんがそれでも快諾してくれたので、私はすかさず相席を申し出る。出町さんは助かったという表情で私の隣に腰を下ろし、五味さんは少し申し訳なさそうに茨戸さんと並んで座った。
「大丈夫?俺ら、邪魔してない?」
五味さんの言葉に、茨戸さんはいくらか気だるげに答える。
「いえ。新津さんに、うちの製品について教わってただけですから」
「茨戸くんが教わる側?まあ、新津さん詳しいもんな」
「五味さんたちこそただならぬ様子でしたけど、何かあったんですか?」
次は私が尋ねる番だ。すると五味さんはなんとも言えない表情で出町さんを見やり、既にメニューを広げていた出町さんが決まり悪そうにする。
「ちょっと、地下鉄の駅で怖い人に出くわしちゃって……」
「怖い人?」
「って言ってもうちの社員。製造部の忠海さんな」
五味さんが注釈を添えた名前は、私にとっては初めて聞くものだった。まだ製造部の皆さんとは仕事で接したことがなかったからだ。
しかし同じ会社の社員が怖いとはどういうことだろう。
「製造部の主任ですよね、忠海さんって」
茨戸さんはあまり接点がないのか、その口調は至ってフラットだ。
一方、五味さんは怪談でもするように声を潜めた。
「そう。俺らはあの人にずっと睨まれててさ、企画書出す度に設計が無茶だの、材料費がかさむだの、これじゃ売れないだのと駄目出しされてて、とにかく折り合い悪いんだよ」
「忠海さんは奇抜なアイディアとか嫌いな人だから。私が作るもの、お気に召さないんでしょ」
出町さんはしょんぼりしている。忠海さんのことはよく知らないけど、彼女を悲しませるような人ならちょっといい印象は持てない。
思い返せば今日、出町さんが防音ブースにこもっていたのもやかんの企画書をリライトするためだ。それも製造部から駄目出しがあったからだと聞いていた。もしかしなくても忠海さんからの再提出要請だったのかもしれない。
「したけど一緒の地下鉄乗ったら絶対仕事の話振られるだろうと思って、こっそり逃げてきたの。せっかくお酒飲んだし、いい気分で帰りたいもんねえ」
悲しそうに語った後、出町さんは気分を変えるように手元のメニューを覗き込む。
「勢いでお店入っちゃったけど、ここのパフェ美味しそう。何食べようかなあ」
「出町さん、切り替え早いですって」
「五味くんもメニュー見なよ。お酒の後は締めパフェしないと」
「いやいや、ジンギスカン食べた後ですし、こんな遅くに甘いものはちょっと……」
結局、出町さんはピスタチオとチョコレートのパフェを、五味さんは豆乳アイスコーヒーを頼んだ。運ばれてきたパフェの緑色をしたピスタチオアイスを、出町さんは実に幸せそうに頰張っている。
「美味しい!寄り道してよかった!」
「本当、切り替え早すぎません?」
五味さんは圧倒された様子で呟いた後、隣に座る茨戸さんと、斜め向かいの私に向かって言った。
「ごめんね、割り込んだ挙句騒がしくしちゃって。しかももう食べ終わってるのに」
実際、私と茨戸さんのパフェの器はとっくに空っぽだ。だからといって先に席を立つつもりはないし、出町さんのいい食べっぷりを見ているのも悪くない。
「いいんです。これはこれで楽しいですから」
「別に大事な話してたわけでもないんで、お気になさらず」
私に続いて答えた茨戸さんが、その後で少しだけ笑った。
「けど、開発の人たちって揃いも揃ってパワフルですよね。新津さんにぴったりの部署だと思います」
それで私、五味さん、出町さんは思わず顔を見合わせる。
「やったあ、褒められたね、私たち!」
「え、褒められ……たのかな?他二人はともかく、俺って決してパワフルなタイプでは……」
「筋トレの効果が出てるってことじゃないですか、五味さん」
茨戸さんの言葉の解釈を巡り、私たちは口々にそう言った。もっとも当の茨戸さんは否定も肯定もせずに笑っていたので、真意の程はわからないけど――こういう時はポジティブに受け取るに限る。
「ようし!新津さんも企画に来てくれたことだし、今後はパワフルに頑張ろう!」
出町さんは小ぶりの拳を突き上げ、私に笑いかけてくる。
「新津さんも、駄目出しとか企画の頓挫とか、いろいろあるかもしれないけど。うちに来たからにはいっぱいいい製品作ってよ。新津さんの欲しいものを!」
それは憧れを求めてシェフ工房に来た私にとって、夢のような言葉だ。
「わかりました。やります!」
拳を上げ返して応じる私を、茨戸さんは物珍しそうに、五味さんは苦笑気味に、そして出町さんは満面の笑みで見ていた。
そうだ、頑張ろう。とりあえず、貰ったノートに名前をつけよう。
シェフ工房の一ファンではなく、企画開発室のメンバーとして貢献できるように――ノートにいっぱいアイディアを書き込んでいきたい。料理を楽しむ私なりの『欲しいもの』を生み出していけるように。
だから名前は『欲しいものノート』にした。
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