知的障害+自閉スペクトラム症の長女とイヤイヤ期の次女の育児に奮闘しながら、自閉症育児の悲喜こもごもを発信しているにれ(@nire.oekaki)さん。子どもの成長への不安や悩みを赤裸々に描いていて、大きな反響を呼んでいる。
にれさんが新たに描き下ろした漫画とエッセイを加えた電子書籍「今日もまゆみは飛び跳ねる〜自閉症のわが子とともに〜」が発売された。

ウォーカープラスではこの電子書籍の中から特に印象的な漫画を、にれさんのエッセイと共にご紹介。日々思い悩みながらもなんとか前に進むママと、確かに成長していく娘の姿を描く、共感必至エピソードをお届けします。

■「いそがしい人」まゆみとハーネス
まゆみが1歳半〜3歳のころ、私はまゆみの多動性と衝動性に悩まされていました。興味の向くまま飛んで行ってしまう上に、自閉傾向の強いまゆみは親の呼びかけで立ち止まったり危険を察知したりすることができません。

そもそもまゆみは手をつなぐのを嫌がる子だったので、車通りの多い道を歩くときは振りほどかれないようにギュッとまゆみの手首を掴んでいないといけませんでした。私は握力に自信のある方ではなかったため、路上では常に緊張状態でした。

そこで飛び出し対策になるものをネットで調べてみたところ、目に留まったのが子ども用ハーネスです。私が見つけたのはぬいぐるみ形のリュックサックに紐がついているタイプで、小さな子どもが背負えば文句なく可愛く仕上がるものでした。「安全な上に可愛い! これだ!」とウキウキで購入しましたが、数日後に届いたハーネスをいざ使ってみると……まゆみは思いがけない行動に出たのです。

ツンとすました顔のまま、私の周りをグルグル回ろうとするまゆみ。背中のリュックからはハーネスの紐が伸び、その先端は私の手に握られています。まゆみが私の視界を一周すると、紐が私の膝のあたりに巻きつきます。転倒しそうになるので先を歩いてついてこさせようとするのですが、通せんぼをするようにまゆみも急旋回してきます。そしてまた絡みつくハーネス…。

こうなると、互いの安全を確保しつつ巻き込まれないようにするには、まゆみの動きに合わせてその場で回転するしかありません。私は自転する地球のように、まゆみは地球の周りを公転する月のように、親子揃って回転しながら歩くわけです。白昼の往来に迷惑極まりない親子が出現しました。ご近所の目が刺さります。

じゃあ万が一、手が離れたときの対策になれば十分……と普段通りに手をつないでみても、私の片手に自分とつながった紐が握られているのが気になるのか、やはり親子でグルグル回ってしまいます。何度か試しましたが、どうしてもまゆみが私の衛星になってしまうので逆に危なくてハーネスを使うのはやめてしまいました。

前置きが長くなりましたが、ハーネスの話題になると必ず「賛否両論あるよね」という話になります。こうした実体験から思うのですが、子どもの命に関わることに賛否があるのはおかしい気がします。

ハーネスを使うことへの否定的な意見が「子どもが可哀想」という見た目やイメージだけの理由によるものなら、「多動や衝動の強さから手をつなぐだけでは安全を確保できない子ども達がいること」「そうした子ども達にとってハーネスは命綱のようなものであること」を周知していくことが大切なように思います。そうして必要性が認知されていけば、いつの日か『ハーネス問題』はなくなるのではないでしょうか。

さて、『ハーネス問題』とは違うところでご近所の注目を集めてしまったわが家ですが、5歳を目前にした今はまゆみから手をつないでくれるまでに成長しました。もうまゆみにハーネスは必要なさそうですが、本人は相変わらずとてもいそがしくしているので、まだまだ目も手も離せそうにありません。

(※補足)安全上、ハーネスは車通りのある場所では手をつないだ上で使用するか、手をつなげない場合はリードを短くして使用してください。自宅前の道は車通りがほぼないため、公園などで使用する想定で試してみたらこんなことになりました…。