世界が抱える様々な問題を解決し、私たちが平和に暮らし続けられる社会をつくるための国際目標「SDGs(エスディージーズ)」。貧困の解決や環境保全など17個の具体的な目標が定められており、国や企業、そして私たち個人にも取り組むことが求められている。

実はこの「SDGs」と「仏教の教え」には、共通点があるのだそう。京都にある仏教系の大学・龍谷大学では「仏教SDGs」という独自の視点で、積極的に活動を行っている。今回は「仏教SDGs」の詳細を聞くと共に、具体的な活動内容にも迫ってみた。

■SDGsと仏教の教えに共通する考え方とは?
SDGsには「誰一人取り残さない」という理念がある。実は仏教にも「摂取不捨(せっしゅふしゃ)」という言葉が存在し、意味は「全ての生き物を見捨てず、仏の世界に救い上げる」ということ。2つの言葉には重なり合う部分が大きく、龍谷大学では仏教の精神を持ってSDGsを推進することを「仏教SDGs」と呼び、積極的に取り組んでいるそう。

■実は深い、仏教とビジネスの繋がり
龍谷大学では「仏教SDGs」の具体的な取り組みとして、社会問題解決のために学生たちが考えたソーシャルビジネスの立ち上げを支援している。

一見繋がらないように思える仏教とビジネスだが、実は深い関係が。そのひとつが中世から近代にかけ、現在の滋賀県を拠点に全国で活躍した近江商人だ。豪商と呼ばれ、伊藤忠商事など現在に続く大企業を多く生み出したことで知られている。彼らは商売において「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の理念を掲げていた。これは、売り手も買い手も満足し、さらに社会貢献もできるのが良い商売だとする考え方。実は近江商人の多くは浄土真宗を信仰しており、特に彼らの「世間よし」の考え方は仏教の影響によるものだそう。

龍谷大学は、浄土真宗の教えを建学の精神としている。浄土真宗は個人の生活を捨てて社会から出るのではなく、社会の中で俗人としての生活を送りながら宗教的感性を高めるという性格の宗派。仏教の精神を持ちながら社会に目を向けて行動することを推奨している。

■自然と健康に優しい有機野菜をつくる農家をソーシャルビジネスで支援
2014年に設立された「株式会社 はたけのみかた」は、当時龍谷大学に在学中だった武村幸奈さんが立ち上げたソーシャルビジネス。ベビーフードの販売と、有機野菜農家の経営を支援する会社だ。会社名「はたけのみかた」には、有機野菜をつくるはたけ(農家)の「味方」であることや、事業を通して農業の「見方(価値観)」を変えたいという思い、そして仏教を信仰していた近江商人の理念「三方よし」を音読みにした「みかた」の、3つの想いが込められている。

有機農業は農薬や化学肥料を使わないため、自然環境も食べる人の安全も守られる農法。しかし農薬に頼らない分手間が増え、土づくりにもこだわるため費用がかかり、野菜の値段は必然的に割高になる傾向が。さらに野菜の形や色が整いにくいこともあってなかなか売れず、経営に苦しむ農家が多かった。

武村さんはそんな状況を変えられないか考えていた時、参加した野菜市でお客さんから「子供に安全な食をと悩んでいたが、この市でいい野菜と出会うことができた」と言われたそう。この言葉から「安心安全を追求し食べる人を思いやる農業は、きっと求められるものになる」と確信し、「株式会社 はたけのみかた」を設立。有機野菜を使った離乳食ブランド「manma(マンマ)」の商品開発と販売を始めた。現在は月1万食を出荷するほどの人気商品となり、有機農家の持続可能な農業の支援に繋がっている。

■まずは個人の意識改革から始めてみよう
龍谷大学では仏教SDGsの一環として学生のソーシャルビジネス起業を支援するプログラムを設けている。しかし、会社の立ち上げなど大きなことはできなくても、仏教SDGsに関わることはできる。それは個人の意識を変え、思いやりの心を持つこと。SDGsで解決しようとしている貧困や教育格差、ジェンダーの問題など、今ある社会問題の全ては人間が生み出したもの。私たちの思考を変えなければ、問題の解決は難しいのだ。まずは身近なところから自分の行動を振り返り、相手への思いやりについて考えてみるのもいいかもしれない。

取材・文=松原明子