友人、恋人、体の関係だけの人。さまざまな出会いを探すことができるマッチングアプリを 実際に使い、体験談にフィクションを交えて描いた漫画『38歳バツイチ独身女がマッチング アプリをやってみた結果日記』の作者・松本千秋さん。



「マッチングアプリは使い方によっては天国にも地獄にもなる」と考える松本さん。2021年10月に発売された新刊『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみたヤバい結果日記』では、アプリを一度は削除した主人公の“チアキ”が、前作よりも増してイケメンたちへの「好奇心」を強め、出会いと刺激を求めてアプリを再開するところからストーリーが始まる。異性関係に吹っ切れたチアキにとって、アプリが“天国”となっていく様子は痛快。

チアキは「恋人探し」としてアプリを使うことはなかったが、現実では、興味本位で始めたマッチングアプリで出会った相手に恋愛感情を抱いてしまうこともあるだろう。

今回は、松本さんが使用していたとあるアプリを今まさに楽しんでいる女性インタビュアーが登場。マッチングアプリについてより深く聞き出し、アプリをやってみた末に感じたことなどを作品になぞらえて、松本さんに赤裸々に語ってもらった。
(※以下、マッチ=マッチング、アプリ=マッチングアプリ)


■アプリでは『勘違いヤローにならないことがマナー』?
——アプリで「本気の恋愛」を求める方も多くいらっしゃるかと思います。実際にアプリで本気の恋愛を求めることって、アリだと思いますか?

「あくまで私が作品内で利用しているアプリの話ですが、真面目な関係を求めている人は別のアプリをやるほうがいいんじゃないかなって思います。イケメンと会える率が高いから楽しいけれど、その先にある展開には、不誠実な印象はぬぐい切れませんよね」

——そうですね。アプリによって傾向がちがうとはいえ、目的も人それぞれですし…。

「私は割り切って使い過ぎて、男性と真剣な気持ちで向き合えないという後遺症が残っています」

——私も“愛とか恋とかわからないスパイラル”に陥ったことがあって、それは本当にいろんな人と出会えたからだと思います。ですが私の場合は、「じゃあ私ぐらいは私を愛してやらなきゃ!」と逆に自分の愛し方がわかるようになりました。松本さんはいかがでしたか?

「いいことかどうかはわからないですが、他者に過度に期待して傷つくということがなくなりましたね。というか、いちいち傷つくのが面倒臭くなってしまいました。婚活目的など本気の恋愛を求める方が多いアプリでは、傷ついても傷ついても『運命の人と巡り合いたい!』 という強い信念や希望を持つ必要もあると思いますが、私は生涯のパートナーを求めていないので刹那的な関係でも問題なかったですし」

——恋愛関係にならないことに、寂しさを覚えたりなどはなかったですか?

「私は『モデル』や『俳優』など、“美しい”ということを仕事にしている『プロイケメン』と出会うことが多く、彼らがあまりにも年下かつかっこよかったので、“私ごときが精神”が芽生えてしまっていたんです。もしかしたら私に好意を持ってくれた人もいたかもしれませんが、意識しないようにしていました。『勘違いヤローにならないことがマナー』だと思って会っていましたね」

——決してでしゃばってはいけないんですよね。

「漫画をWEBにあげるたびに、『いい歳したおばさんが気持ち悪い!』という意見があったりもしました。気持ち悪さをなくすためにも、相手の好意を全て『本気なわけない!これは遊び!』と思い込んでいた節もありました。本気の人もいたかもしれないの に、あえて私はそれを探しには行かなかったです。これはもう隣にいるイケメンと比べた時の、私の年齢と見た目へのコンプレックスが生み出した使い方だと思います」

■松本さんがアプリを再開した理由
——前作『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』のラストで主人公のチアキはアプリをやめていましたが、新刊の『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリ をやってみたヤバい結果日記』では友人の死をきっかけにアプリを再開されていますよね。 なぜもう一度始めたんですか?

「親友を亡くして、強い孤独を感じていました。共通の友達に相談したり支え合ったりしたかったのですが、意外とみんなあっさりしていて、彼女の死を一緒に悲しむ仲間がいなかったんです。それでリア友不信になってしまい、アプリの世界に救いを求めました」

——そうだったのですね。ノリノリで再開したわけではなかったと…。

「どん底でしたね。あのアプリは『癒やし』とか『慰め』とか、そういったことを応急処置的に求めるツールとしてはすごく便利なんですよ。起きたら横に誰かが寝ている朝とか、今日は1人じゃないんだって、満たされたりするんですよね」

——意外と癒やし系なところありますよね、マッチングアプリって。

「『今が楽しければそれでいい』を貫き通せるなら楽しいけど、『未来を求める』のであればすごく物寂しく切ないものだと思いますね。だから恋愛と結婚、体の関係と恋愛を切り離せない人は、作中に出てくるアプリは使いこなせないかもしれません。『いろんな人間のパターンを見るのが楽しい』と思える人って、意外と少ないと思います」

■アプリのやめ時って?「まずは日々を充実させること」
——私、アプリのやめ時に困っているんですけど、何かアドバイスをいただけませんか?

「私は親友を亡くしたあとに一時期アプリをやめていたわけですが、その時に『私はやっぱり寂しいからアプリをしていたんだな』って気づいたんです。1人の時間が辛かったし、当時していた仕事はめちゃくちゃ好きでやっているわけではなかったから、仕事が生き甲斐って感じでもなかったし、別で娯楽を作る必要がありました。『刺激的な楽しさがないと生きていてつまんないな』と思っていたのでアプリに頼っていましたね」

——なるほど、刺激であり癒やしというか。

「でも漫画家になってしまったから、承認欲求が満たされてしまい、寂しくなくなったんです。数々のイケメンたちとの出会いによって、デートやセックスが習慣化していたのですが、仕事に満足し始めてからはそういった習慣がなくても寂しさなんて感じなくなっていきましたね」

——それほどまでに「漫画家」という仕事は心を満たしてくれたんですね。

「そうなんです。忙しくなったことももちろんですが、漫画家という仕事を通して自分の話を聞いてもらえたり、気軽な雑談ができるようになって、メンズに寂しさを埋めてもらう必要がなくなりました」

——毎日の充実度を上げることが、アプリのやめ時に繋がるんですね。恋愛における依存も同じかもしれません。

■「“ひとりキャリー・ブラッドショー”を楽しんだ」
「私、海外ドラマの『セックス・アンド・ザ・シティ』がずっと好きだったんです。なかでも主人公のキャリー・ブラッドショーが大好きだったんですよね。彼女のような、仕事も恋愛も刺激と出会いでいっぱいの充実した人生なんて夢のまた夢だと思っていたんです。ましてやこの日本で…。ところが、マッチングアプリを始めたら、いつの間にか“ひとりキャリー・ブラッドショー”をしていたんです。『日本でもニューヨーカーな人生送れるじゃん!』って思えたんですよね」

※『セックス・アンド・ザ・シティ』は1998年から2004年にかけて放送されたアメリカの 連続テレビドラマ。ニューヨークに住む30代独身女性4人の仕事や友情、恋愛などを描いてい る。主人公のキャリー・ブラッドショーはコラムニストで、自分自身や友人の恋愛ネタやセ ックスネタなどをコラムにしている。

——私もその作品大好きなんです!確かにキャリーも松本さんも物書き(描き)ですもんね。

「あ、本当だ(笑)。登場人物のなかでも、キャリーが好きな人はアプリに向いているかもしれませんね。ドラマチックな展開が好きな女の子とか」

——日本にもキャリーはいたんですね(笑)。

「まだまだジャパニーズガールには抵抗があるかもしれませんが、おしゃれして、素敵な男の子たちとデートしまくって、適度に羽目を外して遊んだりするのは、最高に楽しいです」

——本当ですね。そう言われたら、もっと気分よく楽しめる気がしてきました!意見や価値観がガラッと変わるかもしれませんしね。

「『グッドルッキング天国』ですしね!それもきっと、出会えるかどうかは人それぞれだけれど」

■突如始まるガールズトーク!求めているものは何?
「アプリを使っているとのことですが、逆に聞いてもいいですか?『真実の愛がほしい』という欲求があったりはしないんですか?」

——インタビューされてしまっている!今は「いい人がいれば」ぐらいですね。私は松本さんとは逆で、仕事がうまくいっている時のほうが誰かに会いたくなるんです。一生懸命仕事したら眠たくなるみたいな、三大欲求に近い感覚です。ただ、コロナのこともありますし多くの人とは会わずに、今は特定の人、作品内でいうとチアキにとっての「先生」のような存在の人だけ会っています。
※「先生」は『38歳バツイチ〜』作品内で登場する、チアキがアプリで出会った“崇める存在”。

「『不特定多数の人と出会いたい』という欲求も強いのですか?」

——そうですね!不特定多数の人と会いたいという背景には、チアキみたいに好奇心というのもありますし、その「先生」に「これ以上ハマりたくない」という理由もあります。

「なんか、切ないですね。その人に『好き』という感情は抱いてないんですか?」

——もしかしたら、好きだし付き合いたいのかもしれないんですけど、心の中に「アプリの出会いに本気になってはいけない」という感情もあるんですよね。「恋」という言葉を使えるほどきれいな関係でもないなと。

「じゃあもしその人が『付き合いたい』って言ってきたらどうするの?」

——それは付き合います。 (即答)

「なるほど(笑)。それは確実に恋心が芽生えているんじゃないのかな。もしこれから関係を続けていくうえで心が苦しくなっていくようだったら、告白して自爆したほうがいいんじゃないでしょうか」

——実は、一度軽く告白したことがあるんですよ。

「え!」

——でもその時「うーん」って顔をされてしまって。けどそこで関係を切ることができなかったのは、相手の顔や声、体温まで全部を気に入ってしまったからです。彼と会うと、仕事のパフォーマンスがすごく上がるというか。だから崇める対象、「先生」なんです。

「すごい!そんなポテンシャルの人に私も会ってみたいです…。そんなにパワーがあるのなら、『私だけにして!』と詰め寄った挙句に、そばからいなくなってしまったらもったいないかもしれませんね」

——松本さんならそう言ってくださると思ってました(笑)。

「これはもうその人から卒業しない限り、アプリはやめられないですね。その人への興味がなくなったら、アプリへの執着心もなくなるかもしれません。なんのしがらみも感情の揺らぎもなくアプリでの出会いや男の子との関係を続けていくというのは、かなりの工夫が必要だと思います。自分だけのルールを決めて付き合っていかないと、いわゆる『沼』にハマってしまうから危ないよな、と思います」

——そうですよね。今は今ですごく楽しいのが、また困りものです。

「私たちが使っているマッチングアプリのいいところといえば、『遊びの関係でもなんでもありじゃん』という風潮になっているところだと思うんです。婚活アプリでは、遊び目的なのに『恋人を探しています』と言って相手を騙す人がいることもありますよね。だからそのあたりがクリアなのがある意味でいいところなんじゃないかと思います」

——使用目的が結婚や恋愛一択だけじゃないのがいいですよね。同性の友達探しでも、被写体探しや同居人探しでもOKなわけですし。

「沼るのもある意味『アリ』ですよね」

——実はアプリのことをちゃんと話すのは、松本さんが初めてなんです。松本さんのお話を聞いていると、だんだん前向きな気持ちになれました。自分と同じように「“いろんな人と出 会っているのが楽しい”と思える人がここにいるんだ!」と思うと、とても心強いです。

「刺激的なことをおもしろみに変える能力のある人は、アプリを楽しめると思います。まともに扱われないと損した気分になる女性からすると、嫌な思い出しか残らない結果になりそうですが。お姫様みたいに自分を完全に愛してくれて、好意を誠実に持ってくれるだけがおもしろいデートじゃない。“人と出会うこと自体がおもしろい”というくらいの許容範囲でやると、普通に楽しいアプリなんじゃないかな」

——相手に何かを求めすぎなければ楽しい。これは本気の恋愛にも言えることかもしれませんね。心に刻みます!

■人との関わり合いであることに変わりはない
恋愛関係になるのも、友達をつくるのも、寂しさを紛らわせるのも、アプリを“上手に”使えばできることだと教えてくれた松本さん。今でこそ「ニューヨーカーみたいで楽しかった」と語るが、それは松本さん自身が体験したからこそ言えることだ。

松本さんの作品を読み、話を聞いて感じたのは、アプリでの出会いではあるが人との関わりであることには違いないということ。松本さんはその好奇心から、マッチングした人たちを 「アプリだから」と雑に扱うことなく1人1人ときちんと向き合っていたように思えた。だから今、前向きな結論を出せているのではないかと思う。

アプリの種類もさまざまなように、ユーザーの目的もさまざま。一概に「いい」とも「悪い」とも言えないものだが、ただ松本さんも“チアキ”も楽しそうだった。それだけは事実だ。

※記事内容はあくまで著者個人の体験談・感想です。すべてのマッチングアプリに当てはまるわけではありません。