何度注意をされても同じミスをしてしまう、人とのコミュニケーションが上手にとれない、集中力が全然続かない、などが特徴として挙げられる「発達障害」。発達障害とは脳機能の発達に偏りのある障害のことで、生まれつき脳の働き方に違いがあるというもの。外見だけでは障害があることがわかりにくいため、行動や態度が「自分勝手」や「変な人」と誤解され、トラブルになってしまうこともある。

ひとえに「発達障害」といっても、実はさまざまな種類がある。言葉や表情などを用いてのやりとりや、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手な「自閉症スペクトラム(ASD)」、落ち着きがなく注意力が持続しにくい「注意欠如・多動症(ADHD)」、読字障害をはじめとした特定の学習が極端に苦手な「学習障害(LD)」などが代表的だ。

多くの人にとってまだまだ馴染みのない発達障害。自分が当事者だったときや同僚や部下、家族などが悩みを抱えていた場合、一体どうすればいいのだろうか。発達障害を知りたいすべての人に向けて、4枚1組のイラストでわかりやすく解説しているのが「イラストでわかる発達障害」(@palettalk_ppp)だ。ADHDの当事者である作者のぴーちゃんさんがTwitterに投稿しており、「わかりやすい」「こうすればよかったのか!」と好評。

今回はぴーちゃんさんにイラストを描き始めたきっかけや自らが編み出したミスへの対策、そして社会との関わり方になどついて聞いた。

■「目に見えない障害」と付き合っていくために
ぴーちゃんさんはADHDを抱えながら働く、フリーランスのイラストレーター。ジェンダーやセクシュアリティなどを漫画で解説するWebメディア「パレットーク」でイラストを担当。自らの鬱や発達障害に悩んだ半生を漫画に描いた『ぴーちゃんは人間じゃない?』(イーストプレス)を出版するなど、鬱や発達障害の認知のためにさまざまな活動をしている。「イラストでわかる発達障害」もその取り組みの一環だが、もともとは趣味で始めたのだという。

ぴーちゃんさんはイラストレーター業の合間に、ライフワークとして生活や仕事でミスをしたときのメンタル回復方法などをまとめ、4枚のイラストに落とし込んでいた。そのなかの1つ、「ADHDの私が出かける日の前日に必ずすること。」というイラストをTwitterに掲載したところ、共感や驚きを呼び大反響に。「自らの特性に悩む人たちの力になれるのでは?」と感じ、Twitterで投稿を始めた。

「これまでADHDであることを周囲にカミングアウトしても、『努力が足りないだけ』『甘えでしょ?』と理解されなかったことが多々ありました。当初は自分もそう思って努力をしましたが、やはり障害である以上、努力で補えるものではありませんでした。そして当たり前のことができない自分がだんだん嫌いになっていきました。けれど周囲の理解を得たり、自分の特性を把握することで、みんなが生きやすくなるのではないか、と思いこの企画を始めました」

「イラストでわかる発達障害」は当事者だけでなく、「すべての人にこの障害のことを知ってほしい」というぴーちゃんさんの願いから生まれた企画。発達障害を「目に見えない障害」と考え、自分と同じように悩む人へのアドバイス、そしてこの障害を知らない人に向けてイラストでわかりやすく説明している。

「発達障害はまだまだ社会で理解されているとは言いがたく、苦しんでいる人もたくさんいます。同時に、当事者を支えていこうにも障害のことが分からず関わり方に悩む人が多いのも現状です。だからこそすべての人に読んでもらいたいと思い、わかりやすさを心掛けてイラストを描いています」

■失敗を乗り越えて「少しでも生きやすく」を伝える
小さいころから周囲との違いに悩み生きづらさを感じていたぴーちゃんさんは、「自分は人間じゃない」と思い込んで生きるようになったという。小学校や中学校では勉強や学校生活で周囲についていくことができなくなり、高校生の頃には鬱に。なんとか卒業して美術大学に通い始めるもさらに悪化し、講義に出られない状態になってしまったそうだ。

鬱の治療をしようと一念発起して心療内科に通うと、診断されたのはまさかの「ADHD」だったという。現在でもたくさんの失敗やミスに悩まされるぴーちゃんさんは、日常を過ごすだけでも波瀾万丈になってしまう。

「駅の改札で切符を取り忘れたり、買い物後にレジ袋に財布を入れたままゴミ箱に捨ててしまったり、オートロックなのに鍵を持っていくのを忘れて締め出しを食らったり…。これまで生活をしているだけでもたくさんのミスをしてきました。最近では『オートロックに締め出されるのは、もう自然の摂理だな』と気持ちが開き直るまでになってしまいましたが(笑)」

「こんなことが毎日続いたら、生活もままならなくなってしまう」と思い詰めたぴーちゃんさんが考えた対策が「習慣化」。例えば、家を出る時は必ずポケットに鍵が入っている状態にする、財布をポケットやカバンに入れる場所を絶対に同じにするなど、ふとした時に違和感を覚えられるようにしたという。日常の些細なことから対策をしておくことで、圧倒的にミスを減らすことができたそうだ。

「よく物を失くしたり忘れたりしていたのですが、自分を観察して、忘れ物や失くし物をするときは荷物が多いことがわかりました。化粧直しをしないのにカバンに化粧ポーチを入れているとか、読まないのに本を持っているとかですね。自分の荷物を見直すなど、とにかく何事についても日常に認識の数を減らす、習慣化して忘れ物をした時に違和感を覚えられるように努めました」

■小さなミスが大きな事故に!周囲が知ることの大切さ
日常生活でのミスは自ら気をつけることで対策することができるが、たくさんの人が関わる仕事になるとなかなかそうもいかない。小さなミスが大きな損失やクレームに繋がってしまうことも。責任の大きさが日常生活とは違うからこそ、発達障害を持つ人々にとって仕事は苦難の道となることが多い。ぴーちゃんさんもアルバイトや仕事でミスを連発してしまい、上司に怒られたり呆れられた経験があった。

「日常生活は自分が気をつけることでなんとかなりましたが、仕事ではどれだけ対策や努力をしても失敗はなくなりませんでした。毎回同じミスをしてしまうし、ありとあらゆるミスをしてしまう。あるミスをなくそうと気をつけても、気づけば別のミスをしてしまう。何度も同じ落とし穴にはまってしまう感じなんですよね。学校でも仕事でも同じことを繰り返しては、自己嫌悪に陥っていました」

ぴーちゃんさんの抱えるADHDは「注意欠陥」という特性があるため、1つのミスをなくそうと注意しても、他のことが疎かになってしまうことで別のミスを引き起こしてしまうという悪循環になることも。他の発達障害ではコミュニケーションが上手に取ることができず、対人関係のトラブルになってしまうなど、人それぞれの抱える特性によって起こる問題もさまざまだ。

特性が理解されず、鬱や自己嫌悪に陥ってしまう人も少なくないという。そのようなことを防ぐためにも、上司や同僚などが認知し、誰もが働きやすい環境や配慮ができる社会を目指すことが大事だと話す。

「発達障害は当事者自身の問題というよりも、『社会との障害』と言ったほうが近い気がします。社会との壁があるから障害がある。障害に対する配慮というだけでなく、誰もが働きやすい環境を作ることが大事ではないでしょうか」

■「絶対に『自分』だけは見捨てないで」
「イラストでわかる発達障害」をはじめ、さまざまな活動を通してこの障害への理解を促すぴーちゃんさん。最後に、実際に悩んでいる人たちへの思いを聞いた。

「発達障害で悩んでいる人は、鬱や精神病を患うことが多いです。ですが、絶対に『自分』だけは見捨てないでください。自分のことを大切にできなくなるし、生活が音を立てて崩れていきます。そして生きていくことが本当に辛くなってしまいます。自分を大切にしていれば、いつか切り開けます。まずはとにかく生き抜いてください。人生を決して諦めないでください」

そして発達障害を支える人へも、ぴーちゃんさんはメッセージを残す。

「まずは知ることから始めてほしいと思います。そして『発達障害だから』と決め付けずに、まずは当事者の話を聞いてあげてください。決めつけてしまうとお互い関係がそこで終わってしまいます。なので、少しでもいいから『発達障害ってなんだろう?』と興味を持つところから始めてくだされば、とてもうれしいです」

最初はみんなが知ることから始め、どのようにしていけばいいかを“一緒に考える”社会になることを願う。

取材・文=福井求