イラストレーター兼保育士で、3児の母でもあるきむらかずよさん。弟が事故で亡くなったことがきっかけで起きた出来事を綴ったコミックエッセイをTwitterやブログで投稿したところ、話題に!
いつまでも日常が続くと思っていたきむらさんとその家族が、弟の事故をきっかけにもがき、苦しみながら立ち直るまでを赤裸々に描いた同作は、多くの人に衝撃を与え、大きな反響が寄せられていて、「当たり前に過ごしている毎日が、決して当たり前ではないことに気付かされた」という声も多数挙がっている。

事故が起きた当時、きむらさんは高校3年生、弟は16歳。自由奔放な弟、ケンカをしながらも普段は仲のいい両親と、ありふれた“普通”の4人家族だった。いつもと同じように過ごしていたはずが、ある日弟は事故にあって帰らぬ人となる。事故の真相や、加害者、そして死なせてしまった同乗者家族や弟の友人とのやりとり、弟の死をきっかけに変わっていく周囲の人々の様子などが生々しく描かれていて、読んでいると心が締め付けられる。

今回は著者のきむらさんに、作品に込められた思いや今の心境、伝えたい思いについて、話を聞いた。

――『16歳で帰らなくなった弟』はご自身のつらい実体験がもとになった作品ですが、ブログでの投稿のきっかけを教えてください。

「もともと、コミックエッセイを描きたいと思っていたのですが、時間がないのを言い訳にして手が付けられていなかったんです。コロナ禍で時間がたくさんできたので、今なら腰を据えてじっくりと描けるかもしれない、と思ったことがきっかけです。

弟が亡くなる前に『いつか俺のこと漫画に描けよ』って言っていたことがあったんです。ずいぶん時間がかかりましたが、その約束をやっと果たすことができました」



――特に思い入れのあるシーンやエピソードを教えてください。

「『死ぬほど後悔している』と作品の中にも描いているのですが、2人が出かけていくシーンを描いたエピソード(第2話)は、今でもスローモーションのように記憶に残っています。このシーンを描きながら自分の思いを吐露して、浄化していました。

そして、弟の死に直結する事故のシーンは、描いていてとても辛くて苦しかったです。描いてる時って、その時に入り込まないと描けないんですよ。なので、リアルに描くために詳細をイメージしながら、バイクが滑っていったり、『ドッ』という描き文字を書いたり…。『くるしい…』というより『ぐるじい…』という感じでしたね。

あとは、父との確執を描いたエピソードがいくつかあるんですが、それも思い入れが深いです。父が『死なせてごめん』と泣き崩れるシーン。これは、私が当時知らなかったエピソードだったものを、従姉妹から聞いて描いたものです。そんなやりとりがあったとは全く知らなかったのですが、見えないところで父がそんなにも苦しんでいたんだなと。

さらに、父が家族の写真を大切に持っていたことを描いた章では、当時の自分を振り返って泣きながら描きました」

――特に大きな反響があったエピソードや印象的だったコメントを教えてください。

「どんなに近くに行くときで時間がなくても『いってきます』『いってらっしゃい、気をつけてね』、そして行き先を必ず言うようにしているというエピソードには本当に多くの方に共感していただきましたね。『私も言葉がけを大切にしています』といろんな方に言っていただいた時はうれしかったです。

同じようにきょうだいを亡くされた方から『きょうだいからの視点で家族の死を描いたものはなかったので、描いてくれてありがとうと言いたいです』というメッセージもいただきました。私や父をリアルに知る方からは『きむらさんがどうしていつでも笑顔を絶やさない人だったのか理由がわかりました』『お父さんがどうしていつも地域の人にあんな優しいのかがわかった』とおっしゃっていただいて…。悩みながらも描いてよかったんだと思えましたし、救われるような思いになりました。

意外だったのは、子供たちが読んでくれていたことですね。小学生から中学生まで、起きたままパジャマのままとか、食事を後回しにして、ひたすら漫画を読みふける画像を何人かいただいたりしました(笑)。いろんな年齢層の方が読んでくれているのはやはり嬉しいです」

――ご執筆にあたって、ご家族様の反応はいかがでしたか?

「実は執筆中は、なかなか父に言えなかったんです。
読んだ後『あれは、嘘がひとつもない漫画や』と父がポツリと言っていました。父に『お母さんは読めないって言ってたで』と私がいうと、『そらそうやと思うわ。あれは読めなくても当然やと思うわ』と答えていました。

母は『もう当時を思い出すのは辛い』と1ページも読んでいません。『もうやっと落ち着いて日常を暮らしているのに…』と、つぶやいていたので、申し訳ないことをしたのかもしれないとも思ったこともあります。

でも、母も本屋に並んでいるのを見つけると写真に撮ったり、書籍のコラムに描いた母のお友達の家に本を届けに行ったりもしてくれていますし、父は書籍が発売されてから、近所の本屋巡りをして在庫を買い回ってくれて…。『サインをしてくれ』と大量に本を持ってきては、配り始めています(笑)」

――今、弟さんに何か伝えられるとしたら、どんなことを伝えたいですか?

「自慢の弟だったよ、と伝えたいです」

――弟様が亡くなられたことがきっかけで、ご自身のなかで意識が変わったことを教えてください。

「人に対して、感謝の気持ちを持つようになりました。周りの人によって『自分は生かされている』という意味を初めて理解できたのも、弟の死がきっかけです」

――作品をどんな方に観てもらいたいですか?

「おこがましいかとも思いますが、大切な人を亡くした方や、車やバイクに乗る若い方にも見ていただけたらありがたいです。一つのサンプルとして、何か心に残るものがあったら嬉しいです」

――記事を読む方に向けて、メッセージをお願いいたします。
「交通事故は誰に起きても不思議ではありません。当たり前の日常の尊さを意識して描かせていただきました。運転する方だけでなく、全ての方に読んでいただけたら嬉しいなと思います」

何気なく過ごしている毎日。それは、きむらさんの弟が、ほかの事故で亡くなった誰かが行きたかった1日なのかもしれない。この作品を読んで、ありふれた日常が尊いものであることに改めて気づかされた。

取材協力:きむらかずよ(@kmk11161)