愛犬が笑顔で「勝訴」をくわえてきたら、ご褒美におやつをたくさんあげたくなってしまうかもしれない。犬と「勝訴」というミスマッチさがなんとも可愛い犬用のおもちゃがTwitterで人気だ。このおもちゃを作ったのは、商品企画会社「企画デザイン2時」。2020年設立、プランナー2名という小さな会社ながら、ユーモアあふれる個性的なアイテムを手がけ、作品を発表するたびに大きな話題を呼んでいる。どうやって“バズる”作品を作り出しているのか、企画デザイン2時の代表・楢崎友里さんに話を聞いた。

■自分たちを知ってもらうための作品発表。自由度の高さがバズりの源
楢崎さん、そしてもう1人のプランナーである田中桃子さんは、元々は大手通信販売会社のフェリシモでユーモア雑貨の商品企画の開発業務に携わっていた。

「フェリシモでも自由度の高い、恵まれた部署にいましたが、新しい環境に身を置くことで、さらにおもしろいものを作っていきたいと、修行のような気持ちで独立しました。縛りがなくなったことで、扱う素材やモチーフもより幅が広がりましたね」

そう話すように、企画デザイン2時が作るアイテムは幅広い。青木光悦堂とコラボした「ハムスターモナカ」のような食品もあれば、ぬいぐるみ、文房具、食器などジャンルに囚われない商品開発が特徴だ。

企画デザイン2時としてSNSも一からの立ち上げに。そこでフォロワーを増やす=自分達のことを知ってもらうことための活動として、「商品化の予定は関係なく、作品を発表していく」ことを始めたという。

「商品化関係なしの作品として、物理的にRT(リツイート)といいねが押せるライトや、引き抜くと叫ぶマンドラゴラの防犯ブザーなどを作ってきました。次は何を作ろうかと考えた時に、そういえばペットアイテムは作ったことないな、と。犬のおもちゃでどういうシーンが一番楽しくなったらいいかな、と考えた時に、『取ってこい』と投げたおもちゃをわんちゃんがくわえて笑顔で持ってくる、というシーンが思いついたんです。それをおもしろくするためには、チグハグな印象のものを組み合わせるのがいいだろうという思考に、“勝訴”を持ってくる人のイメージが重なって…と、イメージでできあがりました。アイデア出しにかかった時間は2秒くらい、それぐらい瞬間的なものです」

Twitterで発表した犬用おもちゃは一点物。100円ショップなどを活用して材料を揃え、楢崎さん自身で手縫いをして作り上げたんだそう。

「マンドラゴラの防犯ブザーは業者の方にサンプルで作っていただきましたが、犬用のおもちゃは手作りです。タオル地に文字を印刷して、チクチクと…。物自体はシンプルな構造なので、作ること自体は正直簡単でした。撮影の方が難しかったですね」

商品化未定の作品写真は基本自分達で撮影している。「キッチン横の狭いスペースで撮影しています。文化祭的なノリの会社です」と笑う楢崎さん。なので、犬用おもちゃも自分達で撮影したそうだが「いい感じにくわえてもらうのが大変でした。両面に文字を入れればよかったんですが、“勝訴”の反対側は白いままにしていたので、その面が表になってしまったり、真っ直ぐくわえてもらえなかったり。シャッターも、ものすごい数を切って、『どれかはぶれてないやろ!』と勢いで撮影しました(笑)」

苦労の甲斐あって、28.8万ものいいねがつき、「商品化してほしい!」と多くの人からコメントが寄せられた。

「犬用のおもちゃに限らず、『買いたい!』という熱量のあるコメントをいただくことが多くてとてもうれしく思います。気軽にアップした作品に『親族に配りたいから10個欲しい』『絶対商品化してください!』というコメントをたくさん貰って、慌てて商品化に向けて動くこともしばしばです」

実際、その後勝訴の犬用おもちゃはバンダイから受注生産の形で発売している(現在受付は終了)。しかし、手作りの一点物から商品として売り出すには超えなければならないハードルが多数あるんだそう。

「さまざまな検査を何回もしなければならないですし、値段を合わせるというのも難しいポイントです。犬用のおもちゃに関しては耐久性も改善点でした。SNSで発表した作品は100円ショップのタオル生地を使っていたんですが、すぐに穴が開いてしまったので、噛み心地を損なわずに、でも穴が開きにくいように芯地をつけました。製品版ではわんちゃんの気を引けるように中に笛を仕込んだり、裏面にも文字を入れたりといった改良もしています。これは撮影でわかった改善点ですね」

作品を発表してからの商品化となると、どうしてもバズったタイミングと販売時期のタイミングがずれてしまう。そのことはデメリットではないのだろうか?

「商品の売り上げを一番としていたらデメリットになりますが、私たちの場合はフォロワーさんを増やすための作品発表なので問題ないんです。実際に、その1ツイートでフォロワーさんもたくさん増えました。商品化の売り上げはおまけみたいなものです」

この自由度の高さが、企画デザイン2時がそれまでにないユニークなアイテムを作り出す一助になっているのだろう。

■ニッチなデザインが心を捕らえる。本人たちにも何がバズるか予測不可能!
何度も“バズる”経験をしてきた企画デザイン2時だが、自分達のアイテムがこれだけバズることは予想していたのだろうか?

「フェリシモ時代にはあるブランドのTwitter担当もしていました。担当になってある程度の年数が経ってからは、この商品を出したら何RTくらいもらえる、何いいねがつくというのが肌感覚でわかるようになっていたのですが、企画デザイン2時になってからは本当にわからなくなりました。いい意味で裏切られるようになりましたね。以前は売ることを前提にして商品開発をしていたのですが、2時では1点だけ作ってTwitterにアップするというパターンが増えたので、その場合は今までのマーケティングは生かせないですし、売ることを前提にしていないから、商品コンセプトもニッチなものになりがちなんです。逆に、これは売れるという確信があるものだったら、販売ページができてからアップしますね。売れるという自信がないものがTwitterに作品として出てきているんです」

一番予想外だった作品はキャベツウニをモチーフにしたエコバッグなんだそう。キャベツ色のエコバッグを黒いモップを改造した球体のケースに収納するのだが、バッグをケースから少しはみ出させた様子が、ウニがキャベツを食べている様子と重なり、なんとも愛らしい。これは4.6万RT、19万いいねがつき、「これにはたまげました」とのこと。商品化希望のコメントに押され、秋頃にはカプセルトイになることが決定している。

さまざまなアイデアを形にしている楢崎さんだが、日常生活での疑問をアイデアの種としてメモをしているのだそう。ほかにも、アイデアを生み出すために役立っていることはあるのだろうか?

「Twitterを尋常じゃないくらい見ていますね(笑)。日々どんなものが生まれ、どんなものが支持されているのか。Twitterだと数値化されていて、目に見えるので便利に活用しています。それから仕事とは関係なく、お笑いが好きなのですが、お笑いが参考になっていると感じています。Twitterで作品を出すのってちょっとボケみたいなものだと思うんですよ。作品というボケに対してお客さんがリプライでツッコミを入れる。どんなふうに作品を見せていけばいいのか、というところにお笑い好きなことが生きているかもしれません」

「時計の2時の方角である“ななめ上”の発想を大切にする」という思いが込められた社名。バズるアイテムたちはまさに“ななめ上”を体現している。今後も彼女たちが生み出す世の中を楽しくするモノ、コトから目が離せない。

取材・文=西連寺くらら