アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)と診断されたご主人とのちょっとユニークな日常生活をInstagramで発信している、ちくわさん(@chikuwa_bloger)。彼女のコミックエッセイ「好きになった人はアスペルガーでした」は、ちくわさんとご主人の出会いから、沸きあがる違和感、まさかのカミングアウトを経て、それを受け入れ結婚するまでを描く。今回のテーマは「家事と家計の苦悩」。

子供のような無邪気さや裏表のない言動に好感を抱き、テニススクールの担当コーチ(のちのご主人)と交際を始めたちくわさん。ところがある日、彼から自分がアスペルガー症候群であること、その特性のために当時の妻が精神的に病んでしまい離婚したと打ち明けられた。不安しかない告白に対し、ちくわさんはそれを受け入れた上で交際を継続、ほどなくして同棲を始める。

■「家事と家計の苦悩」
何冊もの専門書を読み込み、彼のアスペルガー特性への対策に自信を持っていたちくわさん。だが、同棲してみて初めて気づく新たな特性や、それが原因となる難題に心が折れかけていた。

彼は家事がまったくできない。さらに手を焼いたのは、ゆるゆるの金銭感覚だった。

なぜ彼は大量の買い物をいつも現金で決済するのか。それは、クレジットカードなど目に見えないお金だとイメージがわかず、つい使い込んでしまう彼の特性を見抜いた、前妻さんの知恵だったことに気づく。

参考書を見ても解決策はなく、アスペルガー特性への対応に限界を感じ始めていたちくわさん。そんなある日、些細な出来事をきっかけに、今までとは違う「幸せの形」のヒントを見出す。

■「掃除機は怖いから、もうやらない」
彼が掃除機を扱うのに失敗した話が出てくる。「家事をいろいろ試してもらおうとした時に、掃除機をおすすめしました。前後に動かすだけなので、簡単だと思ったからです」。だが、ちょうど吸引パックが満タンだったので、その取り付け交換もお願いしたのが裏目に出た。「付け方が悪かったのか、ごみが全部出ちゃって、床が真っ黒になりました。結果『もう掃除機は怖いからやらない』と、いじけてしまいました」

家事にまつわるエピソードはほかにも。「イケメン料理人に触発されたのか、同棲して夫が初めて『俺が料理を作る!』と言ったことがありました」。その内容が衝撃的だった。まずは野菜スティック。キュウリやニンジンがまるまる一本出てきた。「キュウリはまだいいものの、さすがにニンジンは…。私は馬か!?と思いましたね(笑)」。続いてシーフードミックス。「冷凍のものをチンしただけ。まぁこれは、味はしなかったものの、なんとか食べられました」

だが、続く油たっぷりの味噌煮込みうどん(のようなもの)は耐えられなかった。「もう衝撃でした。ラストに『コクがないな…』とサラダ油をドドドドドドドッと入れていたのを見てしまったのです」。油でツヤッツヤ、色は漆黒のうどん。ちくわさんは一口食べて絶句した。「どうしても、どうしても、どーーーしても不味すぎて、二口目を食べることができませんでした」。彼は「俺は料理もできなダメな人間なんだ」といじけ続け、二度とキッチンに近寄ることはなくなったそう。

■レモンを必死に消費しているさなかに”追撃”のレモンが
大量の買い物はその後どうなったのだろうか。「狭いマンションに同棲していたので、置き場がなくなりました。『もう置けないよ…』というと、夫は決まって『じゃあ店に保管しとくわ』と持って行くのです。店というのは、友達と一緒にやっているテニスショップで、そこに夫の物置スペースがあるようです。きっと、グチャグチャだろうと思います。怖すぎて、私はそこには踏み込んだことがありません」

ちなみにレモンは、漫画の中では分かりやすいように果物で描いているが、正確にはオーガニックレモン果汁の瓶とのこと。「置き場に困り何本か店へ持っていったようですが、店でレモンを使うとは考えにくく、おそらく腐ってしまったのではと思います」。ちくわさんも、手作りのスポーツ飲料を作ったり、料理に使ったりと必死にレモンを消費するが、なかなか減らない。

そんな時、ピンポーンと音がして、大きなダンボール箱が到着…開けて驚愕。「まさかの追加レモンが届き、嘘だろオイ…と(笑)。きっとお得だからと、定期便設定になっていたのでしょう。さすがに、もうやめて!!!!!と強く伝え、そこからレモンを頼むことはなくなりました」

■参考書にすべての答えはない。本人と向き合うことが大事
参考書を見て対応することの限界が描かれている。「もちろん本はとても勉強になることばかりでした。しかし当たり前ですが、アスペルガー症候群の特性は載っていても『夫の特性』は載っていません。また、私という人間と暮らした時に、どんな特性が色濃く出て、それに具体的にどう対応して、どう私は気持ちを処理すればいいのかまでは書いていないんですよね」

本は最初のスタートダッシュの手助けにすぎない、と感じたという。「そこから先は、目の前にいるアスペルガーの夫オリジナルとなる対応法や、暮らしのベストを自分で模索していく以外にないんだなぁと思いました。家事分担についても、状況も違えば得意不得意も違う。家計管理も、共働きかどうか、子供の有無、それぞれの稼ぎ、お互いのお金の価値観によっても変わりますから。本の知識はあくまでお守りであって、そこからしっかり夫という人と向き合おうと思いました」

そんな中、ちくわさんはある気づきを得た。彼を幸せにして「あげる」という考え方がそもそもおかしいのではないか。そしていよいよ、2人の新しい幸せの形が見えてくる。

なお、ちくわさんのご主人の場合は、人の気持ちを想像できない特性に加え、多動性や衝動性に代表されるADHD(注意欠如・多動症)の特徴もあるタイプ。漫画内や記事に出てくる特徴の描写はあくまでちくわさんとご主人のケースに対する説明で、すべてのアスペルガー症候群の方に当てはまるわけではないことを念のため補足しておく。

取材・文=折笠隆