統計学を身近に感じられるように動画で紹介しているYouTubeチャンネル「謎解き統計学|サトマイ」。制作するサトウマイさんは福島大学経済経営学類在学中に統計学に出合い、今も福島でデータを生かしたコンサルティングなどを行う会社を営みつつ、動画を配信している。

今年の夏に詭弁術について紹介した動画がバズり、22年11月現在で18万6000人と、それまでの約10倍以上に登録者数が急増。時事的なテーマと統計学の楽しみ方をうまく組み合わせたコンテンツの数々が「具体的にイメージできる」「わかりやすい」と人気を得ている。

今回はチャンネルをよく知らない人のために、「これさえ見ればサトマイ統計学のおもしろさにハマる!」とおすすめできる3本を、ご本人に選んでもらった。

■その1「【論理学】正論ぽいのに説得力のない人が議論に使う最強の詭弁術4選」
これは219万回再生を記録し、一気に人気チャンネルに押し上げた企画。詭弁に騙されないことをテーマとした内容で、統計学と直接関係ないように見えながらも、「知らないとうっかり騙されるという点では、統計学と通じるものがあります」とサトウさん。

詭弁とは、一見正しそうなことを言っているように見えるが実は破綻しているロジック。この動画で挙げられているのは以下の4つだ。

1…帰納法的思考
例として「3人の男はみんな浮気をした。だから男は浮気をする生き物だ」と結論付けるようなケース。データが少なすぎるのに普遍化してしまうのは説得力がない。反証するには浮気をしていない男の存在を示せばよい。

2…論点のすり替え
例として、スピード違反で捕まった人が「俺よりも速い車が他にもいるんだから、そっちを捕まえろ」「軽微な違反で捕まえている暇があるなら凶悪犯罪者を捕まえろ」と主張するケース。ディベートが得意な人は意識的、あるいは無意識的に使いこなすので注意。

3…ストローマン(わら人形)論法
ある人が「雨の日が嫌だ」と言ったとする。これに対し、「雨が降らなかったら干ばつで農作物は枯れ、ダムが枯渇し我々はみんな餓死する。それでもいいのか」と攻撃するケースがこれに当たる。相手が主張していないことを都合よく作り上げ(=わら人形)、それに釘を打ち付けて攻撃するような論法のことだ。サトウさんは論破王・ひろゆき氏がその達人だという。

とある番組で出演者が「ドラマや映画の出演者が不祥事を起こしても、作品そのものに罪はなく関係者も金銭的に困るのだから、発表はするべき」と主張した。これに対し、ひろゆき氏が「犯罪者が出ていたら話題になって映画の興行成績はよくなるだろうけど、そうやって金儲けするのはいいのか」と反論した例を挙げている。

一見反証しているように見えるが、Aさんはそもそも犯罪者で金儲けなどと何ひとつ言っていない。話の流れでさりげなく攻撃目標(=わら人形)を仕立て上げそれを論破すると、周りの人は相手の主張全体が否定されたように錯覚してしまうのだ。

4…トートロジー(同義反復)
「今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている」のような、同じことを繰り返すだけのレトリックのこと。そのおかしさは誰でもすぐにわかるはずではないかと思うかもしれない。だが、結婚相談所への入会に悩む人が、「恋愛経験がないあなただからこそ、健全な恋愛経験を積むために結婚相談所がおすすめなんです」と言われたら思わず納得してしまうケースもあるだろう。

統計学のチャンネルにしては、数字がほとんど出てこない動画だ。サトウさんは「むしろ、人に説明するときはこういう風に説明した方がいい、こういう説明の仕方をする人は論点をずらしているから気を付けたほうがいいといった、いわば統計の上位概念に当たる内容ですね。私はもともと数学アレルギーで、そこまで数学そのものに対しての愛や情熱がないんです(笑)。それよりも人と円滑にコミュニケーションが取れることや、エビデンスをもって話せるようになることで自分のやりたいことが実現できる、課題の発見ができるというスキルの方に重きを置いています」

実際にサトウさんに研修を依頼する人は営業職も多いとか。「プレゼンするときにデータに基づいた提案をしたい、その際にどういう風に伝えればいいのか、といったニーズが実際に多いんです。この動画はそんな要望にも対応していると言えます」

■その2「【認知バイアス】クソリプする人は読解力よりも認知が歪んでいることが原因なんじゃない?説
この回は認知バイアスの話だ。認知バイアスとは、言い換えれば先入観のようなもので、誰もが逃れることのできない「色眼鏡」と説明する。それぞれの眼鏡は異なるので、同じことを見たり聞いたりしても、人によって受け取り方が異なってくるのは当然と言える。逆に、それを念頭に置かないと議論がずれてしまうことも出てくる。

例えば著名なインフルエンサーが、的外れなコメントを送ってくる人に対し「クソリプしてくるやつには読解力がない(自分の意見が理解できない)」と批判するケースがあることを例にとり、それは読解力の問題ではなくて、互いの認知バイアスのズレのせいでは?という角度から考えてみるのがこの動画のテーマだ。認知の歪みは今確認されているものだけでも200個近くあるという。この動画ではその中から3つ厳選して紹介している。

1…帰属バイアス
成功した時は「自分のおかげ」、失敗した時は「他人や環境のせい」にしてしまうようなこと。これが極端になると、ごく普通の会話ややり取りを自分への敵意だと解釈したり、他人の行動に悪意を感じたりする人が出てくるという。

動画の中では、西野亮廣氏の講演会ポスターに関わるエピソードを挙げている。西野氏がある地方で講演会を行うことになった。告知ポスターは普段写真を使っていたが、その回はイラストが使われることに。「なぜ写真ではなくイラストに?」と西野氏は担当者に聞き、事情を納得して話は終わったのだが、それに対し「絵の制作者を悪く言うな」というややずれたコメントが西野氏に飛んできた。

西野氏はイラストにした理由を聞いただけなのに、その人は「絵を批判された、否定された」というふうに感じたのか。その後のコミュニティの議論は「(批判したわけではないことが)何で伝わらないのか」「イラストを描いた人はうまい。悪く言うな」とかみ合わないままだったという。

このような極端なバイアスがあると人間関係が悪くなったり、ひどい場合は鬱になったりするケースもある。

2…エコーチェンバー現象
エコーチェンバーとは声が反響しやすい閉鎖空間のこと。自分と考えが似ている人ばかりのコミュニティにいると、常に肯定してもらえるため、自分が完全に正しいように錯覚してしまうケース。これはインフルエンサー自身が陥りやすい認知バイアスという。

3…ダニング=クルーガー効果
能力が低い人ほど、自分の能力を過大評価してしまうという傾向。学び始めたころにちょっとしたスキルを手に入れると、無敵になった感じになるという経験は誰にでもあるのではないだろうか。だが、上級者になるほど「むしろ自分はまったく理解していない」ということが痛切に身に染みてくるものだ。

このバイアスの話も、ほぼ数字が出てこない。統計学とはどんな関係があるのだろうか。「人は意思決定するときに合理的な判断ができないという事実があります。なぜそうなるかというと、認知バイアスがあるからなんです。私たちのような統計やデータを扱う人の認知がすごく歪んでいたら、元になる数字は嘘をつかなくても、いかようにでも解釈・細工ができてしまいます」

そこで、データを扱う前に、人間というのはそもそも認知が歪んでいるんだとあらかじめ知っておかないといけない、とサトウさんは言う。「『自分がもしかしたら偏った物の見方をしているかもしれない』ということを自覚してから、データとか統計を扱いましょうよっていう、基本的な心構えとして大事なのが認知バイアスなんです」

■その3「【吉野家炎上】プロが解説”生娘しゃぶ漬け戦略”から学ぶ吉野家のマーケティング戦略」
こちらは一見炎上ネタに便乗したように見えるが、実はまったく違う真面目なもの。内容は本格的なコンサルティングの考え方を踏襲している。「YouTube経由で企業様から弊社に問い合わせをいただくことが多いんですが、その際に『一番お気に入りの動画は?』と聞くと、最も多く挙がるのがこの動画なんです」

この春、吉野家の元常務が新規女性客を取り込む戦略を「シャブ漬けにする」と表現したことが物議を醸した。その事件をもとに、サトウさんが吉野家の戦略に何が欠けていたのかを推測していくという回だ。

まず、吉野家の顧客の男女比から、シェア拡大のために女性を狙うというところまでは正しい。既存の顧客(吉野家の場合は男性)を深堀りするより、新規顧客を開拓する方がコスパがいいというデータもある。さらに、吉野家は現状牛丼シェア2位。よりシェアが大きいZ社ほど“選ばれていない”という実情がある。

ここでサトウさんは“共感力”というキーワードを挙げる。女性に共感されるようにするにはどうすればいいのか。例えば男性に好まれるイメージがある「カレー」「ラーメン」「牛丼」だが、それらを少しだけ変えて「スープカレー」「パスタ」「タコライス」にしてみると今度は女性に好まれるイメージになる。その差は何か。おしゃれ?ヘルシー?サトウさんは、あくまで仮説だがその大きな要因として「色」ではないかと提案する。女性の方が料理の色によって食欲が増進する傾向があり、色の組み合わせに敏感でもあるというデータがあるためだ。

一方で、シャブ漬け(贅沢な食事を知る前に牛丼の味を覚えさせる)という戦略は、女性の共感を得られるのか?とサトウさんは指摘する。さらに、実は広告業界の人は他者の感情を理解する能力が一般より低いというデータを挙げ、女性ターゲット商品の依頼を受けたマーケターが「女性は甘いものが好き」「SNSにアップしたがる」などありきたりなレポートを作ってくる現状を紹介。「若い女性はこうなのではという“仮定”をきちんと設定してから、女性の根本欲求を理解し明らかにしていく態度が大事」と提言する。

なお動画では、共感性をきっかけに成功した企業の例として、レゴを紹介している。経営危機に陥ったレゴは、調査員をレゴユーザーの家庭と生活を共にさせることで観察。レゴの価値の本質とは「組み立て体験」にあることを発見した。そこで、多様化した経営戦略を「組み立て」に注力することに。スター・ウォーズなどとのコラボでまず「組み立てたくなる」見本を次々と展開。そのバリエーションを増やして組み立て欲を刺激することでV字回復を果たしたのだ。

吉野家の戦略に欠けていたのは「共感力」ではないか、とサトウさんは結論付ける。自らのチャンネルを「謎解き系」と語るサトウさんの展開が十分に堪能できる動画だ。

「この動画をご覧になると、統計と実務が融合した一つのスタイル、つまり統計的スキルってこういうふうに使うんだな、生かすんだなというのがわかると思います。企業様からはかなり好評をいただいていて、『こんなふうにして、戦略の策定や競合との差別化のお手伝いをしてもらえないか』と言われたりします」

■動画に求められているものは何か?にこだわる
これらの動画が掲出されているチャンネル「謎解き統計学|サトマイ」。約2年前、初めての出版をきっかけに本の認知度を広めようと開設した。当初は再生回数が伸びなかったが、22年に入って時事ネタを確率・統計の視点からホワイトボードを使って解説する、というスタイルを試みたら一気に伸び出した。

こだわっているのは「このチャンネルに求められていることは何か?」ということ。「教育系YouTuberは多いので、求められることや評価されるポイントがみんな違うんです。例えばDaiGoさんは解決策ファースト、中田敦彦さんはトークファースト。それに対して私はプロセスファーストのスタイルです。ふだん人が何となく抱えているモヤモヤを、データ・ファクト・ロジックを使って言語化していく。その謎解きの過程やプロセスが、推理小説を読み終わった時のようなアハ体験、スッキリ感を得られるような構成になっています」

現在、メディアでの活動などさまざまチャレンジを予定しているサトウさん。動画については「統計を使ったプレゼン、説得術は増やしていきたいですね」という。専門知識なしで理解できる統計学チャンネルの動画をみなさんもぜひ楽しんでほしい。

取材・文=折笠隆