なんだかんだ日本は「カローラ」だろ! じゃあ海外の「国民車」って一体何かを考えてみた!!

この記事をまとめると

■日本の国民車は「カローラ」と長年言われていた

■海外では「VWビートル」「シトロエン2CV」「フィアット500」などが愛されていた

■時代が変わるにつれてそれら国民車の立ち位置も変わってきている

世界各国の国民車を集めてみた

 国民的、というワードに続くのは「アイドル」がデフォ。そして、国民車といえば「カローラ」というのも昭和生まれの鉄板かと。アイドルもカローラも、令和の時代となってはなんとなく古臭さも漂いますが、世界を見まわせば、まだまだ国民車と呼ばれるクルマが頑張っている国もチラホラ。かと思えば、カローラと同じく国民車の地位からいつの間にか消えていったクルマもあるようです。各国の国民車を探ってみると、懐かしいような、ちょっぴり切ないような事情が見えてきました。

ドイツ:フォルクスワーゲン・ビートル

 元祖国民車といえば、クルマ好きなら真っ先に思い浮かぶのがビートルでしょう。なんといってもブランド名からして「国民車」ですから、誰からも異存はないでしょう。で、現状はご承知のとおりザ・ビートルが2019年に生産終了となり、後続モデルの噂もありません。もっとも、戦後復興の貧しい時期に発売された初代ビートルこそ、質実剛健な庶民のアシとして重宝されたわけで、ニュービートルは丸めていっても「懐古趣味」。わりと手間ひまかかっていたので、とても庶民が乗りたくなるような値段でもなかったのかと。

 で、現在のドイツで「国民車」と呼べるようなクルマをリサーチしてみると、ビートルの偉大なる後継車「ゴルフ」となるかと思いきや、これまた値段がどんどん上がっているので庶民というより中の上くらいのご家庭でないと手が出せないのだそう。3万ユーロ弱(およそ330万円)は、日本では下位グレードならセレナやプリウスが買える値段ですからね。

 一説によると、ゴルフの座を奪ったのはニューミニともいわれ、販売台数ではかなりの拮抗を見せた時期もあったようです。初代ミニはれっきとしたイギリスの国民車でしたが、やっぱりBMWがプロデュースするくらいですから、ドイツでも人気だったのかもしれません。

フランス:シトロエン 2CV

 国民のふたりにひとりは農業従事者といわれ、フランスは農民をターゲットにしないと今も昔もクルマは売れないとされています。そんな農業大国で広く国民から愛されたのはシトロエンのプリミティブ、だけど高効率で廉価なシトロエン2CVでした。

 それもそのはずで、当時シトロエンの社長だったピエール・ブーランジェが農民向けに「悪路で生卵を運んでも割れない足まわり」や「3リットルのガソリンで100km走れて、60km/h出せる」「子牛を乗せて運べる室内」と、半ば無茶ともいえるリクエストで作らせたクルマ。たった2馬力の農民車でしたが、40年の長きにわたって生産され続け、ビートルやミニに負けず劣らずの地位を築いたといってもいいでしょう。

 もちろん、現在でも多くの2CVが現役で活躍していますが、エアバッグやABSといった現代的な装備とは無縁のため、国民車といった位置づけからは離れているはず。代わって台頭してきたのはルノー・トゥインゴで、農民車といった趣は薄めながら、これまたフランスの「ケチ」とか「合理的」といった国民性にウケているようです。

 また、フランスは移民も多いので、生粋のフランス車だけでなくフィアットやシュコダの小さいクルマも存在感を強めているそうです。

時代が変われば国民車の方向性もガラリと変わる

イタリア:フィアット500

 ビートルが国民車だった頃、イタリアはフィアットがその位置を占めていたかと。ご存じの500(初代のトポリーノ)や600、あるいはそのバリエーションは広く庶民のアシとして普及していました。が、先述のドイツやフランスに比べて世帯年収は明らかに低めだったので、クルマそのものの普及が当時はイマイチだったことは否めません。

 それゆえ、庶民の暮らしがいくらかましになった頃に発売された2代目(Nuova)500がイタリア全土を走りまわっている印象を受けるのかもしれません。

 また、日本人にとっては「ルパンの愛車」という強烈なイメージも手伝って、「イタリアにいけばウヨウヨしてる」と思い込むのも当然かと。

 とはいえ2CV同様に旧くなって実用に向かなくなったことや、世界中のマニアが手を出し始めて車体やパーツの値が張り始めたこともあり、国民車と呼ぶには無理が出始めていたのかと。

 で、そんな時期にリリースされたのが3代目の500。ビートルと似たような出自ではありますが、こちらはバリエーションも数多く、EVまでラインアップするという充実ぶり。再び国民車の座に輝くのも間違いない! と思われたものの、やっぱり庶民にとっては値段と実用性がハードルとなっている模様。同門フィアットのパンダやウーノといった実用的なクルマの追い上げもあるようで、ダントツ人気というわけにもいかなそう。

 ともあれ、イメージとしてはイタリア=500というのは今も昔も安定しているといっていいでしょう。

イギリス&その他

 長らくミニが国民車として愛用されていたイギリス。1959年の登場ですから、ビートルや2CVより新しい世代で、またコンセプトもいくらか違います。が、「大人4人が楽に乗れて、経済性もある」という面ではやっぱり庶民のアシ。それでも、さすがイギリスといえるのはロールス・ロイスを持ってるようなお宅でも、「ロンドン市内はコレ」とミニを所有するケースが多かったこと。

 経済性はもとより、小まわりが利くという美点はビートルや2CVより頭ひとつ長けているのかと。残念ながら、ニューミニが出てくるくらいですから、イギリス国内でもオリジンの数は減る一方だそうです。いまや、純然たるイギリスブランドというのはモーガン、ケーターハム、そしてマクラーレンくらいなものですから、国産の国民車というのは、ミニ以来途絶えているといわざるを得ません。

 一方、中国は国産メーカーの台頭が著しく、さまざまなヒット作が生まれています。が、国民に広く親しまれてきたのは、ほかでもないフォルクスワーゲン・サンタナかもしれません。上海汽車とのコラボとはいえ、1980年代から市場に多く出まわっており、先ごろは2代目にモデルチェンジしたほどの人気車。日産がノックダウン生産していたこともあり、日本人にもなじみのあるクルマだけに、中国の国民車といわれるとなんだか不思議な感覚ですね。

 アルコール燃料を世界で初めて普及させたブラジルも、こと国民車に関してはさまざまなトピックがあります。長らくビートルを国内生産していたこともあり、1990年代初頭までは国民車といっていいほどの普及率でした。

 が、1993年に当時のフランコ大統領が政府としての「国民車」を定義したことで様相は一変。フィアット・ミッレとかフォード・エスコート1000など、聞きなれないモデルが値段の安さや政府の後押し(減税)も手伝ってどんどん台頭してくることに。

 フォルクスワーゲンとフォードは共同出資してオート・ラティーナという国民車専用ブランドを立ち上げたりしたのですが、追撃ならず。数の面では圧倒的にフィアット・ブラジルがリードしているとのこと。

 ひと口に国民車といっても、各国の経済状況などによる変遷や、2代目フィアット500のように庶民からマニアへと人気がシフトするなど、事情はさまざま。日本に限ってみれば、カローラ一択だった頃が懐かしいなんて方も少なくないことでしょう。