樹木の販売方法には2つ、森林を生えたままの立木(たちき)で売る立木(りゅうぼく)販売と、森林を伐採して山元で丸太に加工してから麓に運搬して、貯木場(営林署が管理する公営の施設)や木材市場(もくざいいちば)、製材所に持ち込んで販売する製品販売がある。

写真 1 素材生産(伐木集材)(筆者撮影、写真はイメージで、当時のものではございません、以下同)

 筆者は昭和の終わりごろ、熊本県球磨郡に所在する多良木(たらぎ)営林署長をやっていた。人吉・球磨地方は多良木の名のとおり良質のヒノキの産地で、林業・林産業が盛んだった。木材市場はこの地方に複数あって、それぞれ月に3回丸太の競り売り(市売り)があったから、週に2回以上はどこかで市が開かれていたことになる。

 木材市場は民間経営のため、主に民有林から伐採・搬出された丸太を競(せ)りにかけて販売している。ただ、営林署の丸太は70〜80年生の高齢材で買い手に人気があったため、各木材市場からは客寄せの目玉商品として出品希望が高かった。筆者は、販売業務に興味があったので、営林署材が出品される市にはできるだけ参加した。

 丸太は、製品であり商品である。主に建築材用だから、柱、土台、鴨居(かもい、障子やふすまなどの上部にはめる横材)、敷居(しきい、ふすまや障子などの引き戸の下枠に取り付ける部材)、長押(なげし、柱と柱の間の壁面に取り付ける横木)などの用途別に規格があった。

 例えば柱適材なら末口(すえくち、丸太の先端よりの断面)14〜22センチ(㎝)で長さ3メートル(m)、板材なら末口30㎝以上長さ4mなど。木材市場では、樹種別、規格別に持ち込まれた丸太を仕分けして横積みした。これを椪(はい)と呼ぶ。

 競りは椪ごとに単価(1立法メートル〈㎥〉当たり)で行われた。札取りが応札者たちから名前と単価を記入した札を集めて、最高値のものに落札する。署長の脇にいる経理課長が予定価格に達しているかチェックする。よければ、署長が落札者に「ありがとうございました」とお礼を言う。

 ある日、民材の椪を見ていて気がついた。6mの長材(ながざい)の出品が多いのである。販売係長に尋ねると、あれは通し柱(2階建ての柱)用で単価が高いのだと言う。

 土台角用の末口14〜22㎝長さ4mは4.5万円であるが、通し柱用末口14〜22㎝長さ6mは6万円だというではないか。まあ6mの直材というのは全体の流通量も少ないのだが、それにしても営林署のは少なすぎる。理由を聞いても、あいまいな返事しか返ってこない。

 署に戻って、次長や経理課長、担当の事業課長を集めて事情を聞いた。どうやら直営の作業員たちが長材を切り出すとなると丸太の材積(木材の体積)が目減りして、生産量が減るので反対らしい。当然同様の理由で労働組合も反対だ。こいつが出てくると、何でも先に進まない。しかし、直営生産が無理でも、民間事業者に依頼する請負生産なら現場との軋轢も少なくできるだろうに。